夜な夜な泣く鏡餅
真夜中近くになり、どこからか聞こえてきた泣き声が家中に響き渡る。またか、と俺は考えながらリビングへと向かった。
そこには正月からずっと飾りっぱなしになっている鏡餅が置いてあり、泣き声はその鏡餅から響いてきていた。
俺は鏡餅の前に椅子を置くとその鏡餅に話しかけた。
「おい、なんで泣いてるんだ?」
「しくしく……お餅なのに……食べ物なのに食べられることなくずっと置いてあるのが悲しい……しくしくしく」
ため息を吐くと俺は台所へと向かい包丁を取ってきた。そしてまた鏡餅の前に座る。
「じゃあ俺が切り分けて食うけど」
「ひいいい、バラバラに切られるのは嫌だあ!」
叫び声をあげる鏡餅を前に俺は天を仰ぐ。
そしてこんな大きな、一抱え以上もある大きな鏡餅を嬉しそうに買ってきた父親のことを恨んだ。