2話 個性の集まり
目が覚めると、いつもと変わらない天井が見えた。
いつもと同じ、ワイシャツに黒いスーツを着て家を出る。
そう、仕事現場を除けば何も変わらない日常だった。
ー昨日
「それじゃあ改めて、ようこそギルド『ワンダー』へ!」
「よ、よろしくお願いします!」
久々のギルドへの加入に期待と不安で胸がワクワクしたり、ドキドキしたりを繰り返している。
「早速だけど、うちのギルドメンバーを紹介したいから明日にでも出勤って出来るかな?」
「大丈夫です!」
と言ったのが昨日の出来事だ。
「何にも大丈夫じゃねえよ! まだギルドメンバーに会えるほど心の準備整ってないって…」
俺は昔から何かを断ったり否定するのが苦手だ。はぁと溜息を吐きながら、重い足取りで昨日渡された住所の場所まで向かう。
都心から少し離れ、どこか近寄り難く薄暗い雰囲気がある場所にギルドの拠点はあった。
ふぅと息を整えて、いざ中に入ろうとするとゴンだったり、ガンという何かが壁に当たるような音が聞こえてきた。
(俺は来る場所を間違えたかもしれない)
元の道へ引き返そうとすると、ガチャっと扉が開き中から誰かが出てきた。
「アレ!君ってもしかしてアレスが言ってた新しいランカーの人!?」
(アレスって誰?)
「ウンウン、黒髪の男の子って言ってたから君で間違いないね!サァ、早く中に入って!」
俺は半ば無理矢理、赤毛の良く分からない男に扉の中に押し込まれた。
すると、中に入ってほんの一瞬、瞬きをした瞬間にいつの間にか部屋が変わっていた。
部屋の中にいた全員が俺を凝視している。何とも言えない空気に包まれていると、誰かが俺に近づいてきた。
「やぁやぁ昨日ぶりだね、アヌビスくん!」
よく見ると、昨日の面接官をやっていた人だった。彼は笑顔で俺を迎えてくれた。
「早速だけど、俺は『ワンダー』のリーダーを担っているS級ランカーのアレスだ!これからよろしく頼むな」
そういえば、さっきの赤毛が言ってたアレスはリーダーの事だったのか。
彼の方に目を向けると視線が合い、ニコッと笑顔を返された。
俺から視線を外した彼はパチパチと2回手を叩き、正面を向いて言った。
「よし、紹介をする!新しくうちのギルドメンバーになるS級ランカーのアヌビスくんだ!世界一仲良くしてくれ!」
(世界一仲良く!? 何言ってるんだこの人… )
「…アヌビス、アヌビス。まさか、アヌビスって幻のスナイパーの!?」
「ち、ち、違います!!!!!」
思わず、自分でもびっくりするくらい大きな声で否定してしまった。
あまりにも反応がデカ過ぎて、これじゃあ隠そうとしているのがバレバレだ。何かいい台詞を言ってカバーしなければ…!
(あれを言おう!)
「違わないんですけど、違うんですよ!」
俺でも何を言っているか分からない。だけど、これが今1番の最善の言葉だった。
「何だそれ?お前、変な奴だな気に入ったぜ! 流石、アレスが採用しただけあるな!俺はS級ガイドのハルモニアだ!気軽にハルって呼んでくれ」
「ハルがすぐに気に入るなんて珍しいネ? 僕はS級ランカーのロキだよ! よろしくネ、アド!」
「あそこの端っこにイルノガ、S級ランカーのツクヨミだよ!ツクって呼んであげてネ!まぁ基本返事しないケド!」
まさか全員S級!?でも、全員がS級のギルドなんて存在していたか…?
「一先ず、全員の自己紹介は終わりだな!俺達のギルドは基本少人数で活動するから、きっとみんなとすぐ仲良くなれると思うぞ!」
「はい!」
元気よく返事はしたものの、俺はこのギルドでちゃんとやっていけるのか…?