9, 迷宮攻略
私は迷宮が好きだった。
迷宮の主がどういう気持ちでこの迷宮を作ったのだろうと想像して、魔物を狩って、素材を回収する。その繰り返しが面白い。
この迷宮はキノコのオンパレードだった。
大きなキノコに可愛らしい顔がついたような魔物や、胞子を受けると、体が小さくなるキノコのトラップ。宝箱はキノコの傘の部分を外すタイプで、飾り物のキノコに紛れ込んでいるから集中してキノコを観察しないといけない。
極めつけは⋯。
「キノッ、キノッ、キノッ⋯」
この敵が歩く時の可愛い効果音。迷宮の主が可愛さに全振りしたのか敵もそこまで強くないからつい観察してしまう。
「キノッコー!!」
倒した時の断末魔なのに、この声も可愛い。可愛いなと愛でる気持ちと倒すことへの罪悪感がせめぎ合うも、結果仕事だしと思考自体を諦める。
「この調子ならそろそろボス来ても良いのにな。」
今は4階層目、1番小さな迷宮なら次の階層がボス部屋だったりする。
「⋯。」
ふと、神様の言葉が脳内を駆け巡る。
『彼、優しいと思うけどな。』
アイリッシュは優しい。こんな私でも相手をしてくれるくらいには。だけど、彼と話す度に思い出す。前世で私を殺した人を。唯一の友人を、彼の優しさを。アイリッシュに優しくされる度に、鏡で前世の自分と同じ顔を見る度に、忘れるなと言う様に、頭の中に最後の瞬間の記憶がフラッシュバックする。
優しく接してくれた彼は最後になんて言った?
どうせ彼もそうなんじゃないの?
優しいだけが全てじゃない。自分の中で彼の存在を大きくするな。
また騙されるぞ。
「⋯」
階段を下り大きな扉を開く。中に入ると、先ほどまで倒しまくっていたキノコの5倍くらいありそうな赤いキノコが部屋の真ん中に生えていた。
「これがボス?」
私は準備しておいた火魔法の魔法陣を展開した。
「早く終わらせて、報告して、安全地帯に、森の家に引き篭もりたい。」
☆☆☆
『まぁ、無理もないか。』
神は今、絶賛赤いキノコと戦っている最中のクロエを覗いて呟いた。
『彼に何があったのかを彼女は知らない。知れなかった。知っていたとしても彼女達が可哀想なのは変わらない。後悔を抱えているのも。』
神が彼女を、彼女らを転生させたのは、可哀想だというのもあるが、愛し子たちの運命を捻じ曲げられる状況を許してしまった神々に責任があるからだ。
『最近の若い神は何を考えているのだか。』
ここまで読んでいただきありがとうございます。