8, 迷宮に入ったはずなのに
『お久しぶりだね、クローナ。いや、今はクロエか。どうだい?2回目の人生は楽しいかい?幸せに過ごせてる?』
クロエは困惑した。周囲を見回せばどこまでも続く黒い空間。目を凝らしてみれば、床には薄く水が張ってあるのが見える。だが、不思議なことに靴が濡れることはない。
「⋯」
『ふふ、何もなくてごめんね〜。』
改めて前を向く。そこには1柱の神がいた。
一度助けてもらった大恩人ならぬ大恩神。
見た目は20代半ば頃の男性に見えるが、この世界の全てを創造した始まりの神で、その年齢は計り知れない。
『こ〜ら、神様の年齢を詮索しちゃダァメ。』
「さらっと人の心を読まないでもらえませんか?」
『見えちゃうし、聞こえるんだからどうしようもできない。』
彼はシャラリと手首につなげられた鎖の音を鳴らしながら紺藍色の髪を掻いた。
『迷宮の主に協力してもらって君の魂をここに繋いだんだ。君の肉体は迷宮の主が見てくれてる。』
「じゃあ、迷宮がこの村にできたのって⋯」
『それは主の気分。』
「⋯そうなんですね。」
『今このためだったら楽だったかもって思った?』
「⋯いいえ。」
『そうかい。なら良かった良かった。』
彼は楽しそうに笑った。
『いやぁ~、何百年ぶりだろう。こんなに人と話したのは。ちなみにね、前回も君だ。聞いてよ。他の神もさぁ酷いよね。何で祖父みたいな存在の私をこんな虚空の牢獄に封印するかなぁ。ま、いつでも出ようと思えば出れるんだけど。』
「何で出ないんですか?」
先ほど本人が述べたようにここには何もない。無限に暗闇が続くだけ。
『だって、私が創った子供たち(神)のお気に入り(神)が作った力作だ。壊してしまっては忍びない。』
彼の優しさを垣間見た気がした。
『まぁ、私に手を出してすぐに子供たちのお気に入りじゃなくなってたけど、自分の行動のせいで親の神に見捨てられるって面し⋯、可哀想だよね♪』
⋯前言撤回、やはり趣味が悪い。
『ひどいなぁ。』
「で、本当に何で私を呼んだのですか?」
『彼は、信じられないかい?』
「彼って?」
『彼、優しいと思うけどな。』
神はそれまでの楽しげな表情を消し私を見つめてそう問いかける。
『ピンク髪の子』
「アイリッシュですか。」
『そうだ。あの子、なかなかにいい子だと思うよ。』
「何であなたが彼を知っているかはあえて聞きませんが、まぁ、優しいとは思いますよ。警戒しているだけで。」
私は淡々と答えた。
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