6, 師の教え
クロエは固く決意した。必ずこの交渉を有利に収めなければならぬと思った。
『クロエは優しすぎるの。』
『変装、怖そう、はい、復唱!!』
『へ、変装、怖そう⋯』
『もっと声を張って!!』
師匠との特訓の日々を思い出しながら、全ての所作に気をつける。交渉の場において相手に格下だと侮られることのないように⋯。
だが、クロエは所作に気をつけるあまり自分が、思っていることをそのまま口にしていたことに一切気がついていなかった。
「仕事は引き受けましょう。迷宮ができてそこの村の方々も不安でしょうし。迷宮を一通り攻略するだけでいいのですよね?」
「あ、あぁ。」
「報酬は求めません。しかし、礼儀作法を学びなおすまではもう私に干渉しないでください。」
「⋯」
「では。」
☆☆☆
「おい。」
「⋯!」
領主は側仕えを見据える。
「どんな方法で魔女を呼び出したのか教えてもらおうじゃないか。」
この後すべてを聞いた領主が彼に領民の気持ちを考えろと一晩中注意する声が廊下まで響いていたが、それは後々聞いた平民の使用人たちの酒の肴になったらしい。
クロエちゃんのお師匠様はとても豪快な方らしいですね。変装は黒髪が縁起でもないとされている時代だから、少しでも自分を守れるようにというお師匠様の優しさからでしょうか。
クロエちゃんが今回した変装は若かりし頃のお師匠様を参考にしているそうですよ。