45, 毎朝の光景
「く、クロエ、それは⋯ダメ」
「速く腕を通してください。ケガした方は動かさないでくださいね。」
「でも⋯、でも、アタシ。」
ベッドの端に追い詰められたアイリッシュは目の前でベッドに膝立ちするクロエを涙目で見上げた。顔を真っ赤にして、恐怖からか羞恥からか、肩がプルプル震えている様子はとても愛らしい。
「アタシ、1人でも着替えられるわよ!!」
「駄目です。この前そう言うので任せてみたら盛大に左腕動かしていたじゃないですか。『痛っ』て。」
「だけど世界のどこに初恋の人に着替えをやらせたい男がいるのよ。女でも嫌でしょ?」
「良いですかアイリッシュ。あなたの前にいるのは、幼馴染のクロエではなくあなたの傷を治す責任がある魔女です。嫌だ嫌じゃない云々除いて諦めて受け入れてください。」
「それでも」
「なんならあなたが寝ている間に着替えさせたりしたのも私ですよ。私はアナタの全身知り尽くしてます。」
「どこまで!?どこまでなの一体!?」
「さぁ?」
アイリッシュは知りたくなかったと頭を抱えた。もちろん片手で。
だが、考えてみてほしい。好きな女のことをお世話するのは楽しいし幸せだ。だが、自分が好きな子に世話されるのは何か違うと思う。頼りない男だと思われたくない。というか普通に恥ずかしい。
(こんな状況なのに不敵に笑うクロエ可愛い。)
手には着替えの服(アイリッシュの怪我に合わせて色々改造された)を持ってちょっと悪めな笑顔を浮かべてにじり寄って来るクロエは、すごく怖い。だけどすごく可愛いのだ。
クロエはアイリッシュの前に座ってアイリッシュの顔を見上げた。
「私、アイリッシュの役に立ちたいの。私のお願い聞いてもらえませんか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
そうして今日もアイリッシュはクロエに負けて着替えを手伝ってもらった。
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