5, 森の魔女
クロエちゃんかなり怒ってます。
依頼主視点です。
「本当に魔女は来るんだろうな?」
暗い部屋で若い男が傍に控える男に問うた。
「えぇ。必ず。」
彼は最近領主になったばかりだ。ただでさえこれから仕事が忙しくなるというのに領地の端の村からとある報告が上がった。
『迷宮ができた。』
迷宮とは謎の建造物だ。異空間に繋がる入り口で、見た目は空へと伸びる円柱のような塔だったり、地面にそのまま扉が生えていたりと様々で、中の環境も個性豊か。個性豊かと言うと、聞こえはいいがつまりは共通点が少なく、何があるかわからないということ。
『魔女に探索をさせましょう。』
先々代に仕えていたらしい側仕えの彼がそう言って魔女との面会の場を急遽準備してくれたが⋯。
「まさか冒険者の魔法つかいでも、王宮に仕える魔法つかいでもなく野良の魔女がわが領にいたとは。」
「森の魔女の噂はどれもこれも人を助けてくれたというものばかりです。断られるわけがありません。」
実を言うとその噂は先代⋯つまりクロエの師匠なのだが、彼らはそれを知らなかった。
「あなたらか」
突然脳内に声が響き、バルコニーへと続く扉が開け放たれ、室内を風が逆巻いた。
「⋯!?」
「誰だ!何が起こっている!?」
「私はあなたがたに呼ばれて来たのだけれど。」
「⋯!あなたが森の魔女か」
「えぇ、そうよ。しかし、脅しのような呼び出し方ね。彼はただの郵便屋さんでポストマン。あまり他人を巻き込まないで。」
「何のことだ。」
「何のこと、ですって?」
風がピタリと止みバルコニーから女性が入ってくる。
首までの金髪がサラサラと揺れ、青色の瞳がスッと細められる。歩く姿はまるで貴族の令嬢のようで⋯。
魔女の美しさに二人揃って見とれてしまう。だが、それも一瞬のことで、領主は彼女が放つ圧倒的な魔力に気付き、一歩あとずさった。
「何か急遽対処しなければならない案件なのだろうし、焦っているのはわかったわ。だけれど、人を見下さないことね。用があるなら自ら頭を下げなさい。親に習わなかったの?」
「貴様、野良の魔女風情が何て口を利いているんだ。お前こそ頭を垂れて喜んで仕事を受けるべきだろう。わざわざ野良の魔女を使ってやるというのだか」
「黙らんか馬鹿者!」
この魔女の力に気づいていないのか、側仕えの男が魔女を見下したような発言をする。いや、もしかしたら本当に見下しているのかもしれない。なくなってきたとは言え、魔女差別の意識を持っている者が今も少なからずいるのも確かだから。しかし、今のタイミングは無い。
「⋯、森の魔女殿、頼みを聞いてくれないだろうか。」
「聞きましょう。で?わざわざ私を呼んだ理由は?」
「⋯この領地の端の村にできた迷宮の、下見を頼みたい。」
「⋯」
「ほ、報酬はいくらでも払う。だから」
「領主様⋯」
自分のやり方が逆効果だったことをようやく悟ったのだろうか、従者の男が主に近づこうと手を伸ばした。
「その金は領民から巻き上げたものでしょうが。」
そんな彼を嘲るように一瞥し、彼女はそう一蹴した。
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