追憶 その1
アイリッシュさんの秘密が明かされます。
『カーター。』
目を開けると、そこには肩につかないくらいで切りそろえられた黒髪を持つ少女が居た。
『またこんなところで寝てたの?もう。風邪引いちゃうよ?』
『⋯、もし、僕が風邪を引いたら、クローナが看病してくれる?』
『え?無理だよ。だっておししょーさまやカーターのお母さんに止められちゃうもん。』
そう言って幼いクローナは笑った。クローナに差し出された手をとって起き上がった自分はクローナと歩いて夕日の方へ歩いていった。
(これは、前世の記憶かしら。懐かしいわ。こんなこともあったわね。)
前世の自分の名前はカーターで、小さくて牧歌的な国の王都のはずれに住むただの一般人だった。
クローナとの出会いは偶然で、自分が近所のガキにいじめられてたのを助けてもらったんだっけ。いじめられるというよりか、面倒で放置していたらアイツラが勝手につけあがってまとわりついてきただけだが。
(懐かしい。この頃は毎日楽しかったわねぇ。穏やかで、優しい世界。)
クローナは優しくて、困った人を放っておくことができないのだ。そんなクローナの無償の献身にストップをかけるのがこの頃の自分の役目だった。
自分に懐いてくれて、カーター、カーターと呼んで後ろを付いてきてくれるのがたまらなく愛おしくて。
場面が変わり、少し成長したクローナが出てくる。足を怪我した女の子の横にしゃがんで、足の怪我を魔法で治していた。
『大人には秘密ね。』
『⋯。』
そうだ。この女が全ての元凶だ。
『あそこの魔女様のお弟子さんって⋯』
『そんなのを隠していたの?まったく⋯』
あの女はクローナに言われたことを秒で忘れて周囲の大人にクローナの魔法のことを話した。
クローナが治癒の力のことを黙っていたのは当時彼女を育てていたガラザザの言いつけだったからなのだが、周囲の人々はそれを聞かずにクローナを責め立てた。そして、地獄が始まった。
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