39, 守りたいのに
パトリックとクロエはガラザザが使っていた部屋にアイリッシュを運び込んだ。
「手伝っていただきありがとうございます。」
「いや、ほかにも何か手伝えないか?」
「ここからは治療になるし、あなたも街が不安でしょう?治すことは私の得意分野なので、大丈夫です。アイリッシュは死なせない。」
「⋯、確かに、治療とかさっぱりわかんないし俺にできること無いな。薬になる草の見分けがつかない。じゃ、頼む。アリスの家族にここに居るって教えるからもしかしたら人来るかも。」
「はい。」
パトリックが立ち去ったのを見届け、クロエはまず倉庫へ向かった。そこには今までクロエが作り保管してきた丸薬などがある。止血や解熱、貧血防止の薬、包帯や消毒液など必要になるかもしれないものを準備して、アイリッシュのいる部屋へ戻る。
「服は、もう使えないですよね。」
穢れや魔物の血で汚れた服を鋏で裁断すると、アイリッシュの逞しい体が露わになる。さっきざっと確認したとおり左肩以外に特に外傷はなく、左肩の傷口も邪に呪われていることはなさそうだ。
清潔な布で傷口から丁寧に血を拭う。
「ゔっ、あ、っ⋯」
「すみませんアイリッシュ、痛いですよね。出来るだけ速く消毒を終わらせます。」
「クロ、エ?」
「⋯!はい。アイリッシュ、今から消毒をするので、もし意識があったら何か掴んでください。」
アイリッシュは右手を少し彷徨わせてから布団を握った。
「いきます。」
「⋯、ぅぐっ、ぁ、ゔゔ⋯⋯」
叫びだしてもおかしくない激痛が彼を襲っているはずなのに、彼は殆ど声を出さなかった。クロエは手早く消毒を終えて傷口に包帯を巻く。そして、痛みを堪らえようとしてか力んでいるアイリッシュの右腕をそっとさすりながら彼に声をかけた。
「終わりましたよ。アイリッシュ。」
「⋯。」
痛みに気を失ったのか、回復のための眠りについたのかは分からないが彼からの返事はない。
ベットに眠る人を見て、返らない返事を待つ時間は、師匠を見送った時のことを思い出させた。
(どうか死なないで、いやだ、いやだ。死なないで、また私を置いていくの?私は彼に置いて行かせるの?大切なのに、守れない。守りたいのに、守るための手段が取れない。私の見た目のせいで、私の実力不足のせいで、アイリッシュを助けられない。)
先程まで見ないようにしていた気持ちが、今更濁流のように押し寄せてくる。
(やっぱり、好きでも何でも早々にアイリッシュを拒絶しておけば良かったのかな。彼を守るためにはそれが良かったのかな。私が黒髪だから、もしあそこでアイリッシュを助けたのが他の人だったら、みんな彼を助けに来てくれたのかな。彼が目を覚ましたら、私は消えるべきなのかな。アイリッシュに死んでほしくないな。長生きしてほしいな。黒髪じゃない、アイリッシュを守りきれる強くて素敵なお嫁さんを迎えて、たくさん子供作って、怪我や病気なく、幸せになってほしいな。⋯⋯それも本心のはずなのに、何でアイリッシュが他の人と結婚するのなんて見たくないなんて思ってしまうんだろう。)
答えなんてとっくの昔に分かっているのに、そんなことを考える。やっぱり私、どう足掻いても、隠そうとしても、アイリッシュが好きなんだ。でも、今回のことでわかってしまった。
「私には、アイリッシュを守り抜ける程の実力が無いんだ。私には、守れない。」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
オマケもあるので今日は3話投稿です。




