3, 便利な便利な古代魔術講座
「じゃあ、作業台にヒールを」
「わかったわ」
私達はとりあえず家の中の作業部屋に移動した。私が必要なものを探している後ろでアイリッシュは広い机(作業台)に折れてしまったヒールを置く。
「これが本当に直るの?アナタの腕を疑ってはいないけど、こんなポッキリ折れていたら無理じゃない?」
「逆に、ポッキリ折れていたのが救いですよ?」
「?」
「今使われている多くの魔法は、一度滅んだ古代の文明の魔術陣の一部分を使っているようなものなのですが、古代の魔術って、生活に便利な魔法が多いんですよね。知っていました?」
「いいえ。ところで、何で古代魔術?」
「昔の人もヒールのようなものが折れる事象に悩んだんでしょうね。すっっっごく都合がいいんですけど、私、『ポッキリ折れた断面を一時的にくっつける魔術』の魔術陣を見たことがあって⋯あ、あった。これがその写しです。」
「へぇ~、一般人だからなのか分はからないけど、柄がゴチャゴチャしまくってて何も分からないわ。」
「じゃあ、土魔法の魔法陣の有名なマークはわかりますか?」
私は彼に紙の切れ端に簡単な土魔法の魔法陣を描いて渡す。
「あっ、これはわかるわ。大魔女様が言ってた。畑を荒らす鳥を驚かす魔法よね?」
「⋯、そんなことにこの魔法を使うのは師匠くらいですよ、アイリッシュ。ちなみにこれは土を操って凹凸を作り出す魔法です。」
「へぇ~。」
凹凸を作り出すと言ってみたが、はっきり言うと、土の槍を地面から生やしたり落とし穴をつくる魔法だ。危険性がとても高い。師匠くらい上手に魔力調整できない人が同じ使い方をすると大体畑自体がもっと酷く荒れて鳥もサイズによっては肉片になる。そう上手く一部分だけに穴を開けるとかできない。⋯ちなみに私は前世の技量もあるし使えるが、鳥には使わない。
「まぁ、話を戻します。」
「はぁ~い!!」
私は面白そうに紙を覗き込むアイリッシュから紙を返してもらい、先ほどの魔術陣を見せる。
「この魔術陣のここを、そして、さっきの魔法陣の中心部分を見てください。」
「あら?模様が似ているような⋯。」
「これは土魔法と水魔法を3:1で使ったような魔術陣なんですけど、土を粘土くらいくっつきやすくしてくれるんです」
「まぁ、便利ね!!」
「⋯っと、どうぞ。」
私はさっそく魔術陣で形状を変えた土をアイリッシュに渡す。この魔法は前世の私が前世の師匠と悩みながら解読した魔術陣だから力加減がしやすい。まぁ、論文とかを世間様に発表したりはしなかったけど⋯。
「本当、ボロボロ崩れないわね。」
「で、ここにもう一つの魔術陣を⋯」
私は2枚目の魔術陣を出す。
「これって?」
「土を固める魔法陣です。これで街まで履けますよ。完全に直すのも良いですが、職人さんに修理してもらったほうがきれいに直るかと。あっ、この魔法陣を当てると土がもとに戻ります。なので修理に出すときにでも使ってください。」
「ありがとうクロエ。」
「いえ。直せるって今考えたら完璧に直すみたいな言い方になってしまって⋯騙したみたいで申し訳ないです。」
「いいのよ〜。今なら走れそうだわ♡自分の実力的にムリだけど。」
「では、もうお帰りになったほうが良いかもしれないですよ。日が傾いてきてます。」
「そうね。じゃあ⋯って、あ!郵便物渡すの忘れてたわ。はい、これ。」
アイリッシュが肩からかけていた鞄の中から手紙を取り出した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
すっごくちなみにですが、今回クロエちゃんが使った魔術含め、古代魔術を多く作った魔法つかいさんはすごく愛妻家で妻のために家事に使える魔法をバンバン発明していったそうですよ。いつかこの人と奥さんの出会いのお話も書いてみたいと思ってます。