2, 漆黒の魔女クローナと森の魔女クロエ
「⋯ェ、クロエ、大丈夫?」
「⋯っ?」
私は体を揺さぶられる感覚で目を覚ました。目の前には心配そうに私を覗き込む人が1人。薄いピンク色の髪は後ろで一つにまとめられ、同色の瞳は不安そうに揺れている。私の背中を支えているのは彼の手だろうか。
「アイリッシュ?」
「そうよ、クロエ。どうしたの?お届け物を持ってきたらアナタ倒れてるじゃない。心配しちゃったわ。」
「今日は天気が良かったので、日向ぼっこをしていたんですが⋯寝てしまっていたみたいですね。」
「あらやだ。じゃあアタシ、お昼寝してたのを揺さぶり起こしたの?もう~ホントにごめんなさいね。」
「悪夢を見ていたのでとても助かりました。」
「なら、良かったのかしら?」
私は起き上がり、アイリッシュが驚いて落としたのであろう彼の商売道具たち(本当に申し訳ない)を拾っていく。
「拾ってもらっちゃって悪いわね。」
「いえ。⋯ところで、何で裸足なんですか?」
私は気になっていたことを聞く。そう、彼はこの会話までの間ずっと裸足だったのだ。
「ここに来るまでにはいていたヒールが折れちゃったのよ。あ~あ、男のアタシの足のサイズに合うヒールなんてめったにないのに⋯」
「それは⋯、すみません」
「文句を言ったわけじゃないのよ!?」
「私が街に住んでいたらあなたのヒールはまだ折れていなかったかもしれないです。」
「気にしないで?ヒールなんて消耗品なんだから?」
私が話すこと全てに気を使わせてしまうな⋯。なんて思いながら、彼に拾い終わったものを渡す。
「直しましょうか?ヒール。」
「え?良いの?」
「いつも迷惑をかけてしまっているんです。ヒールを直すくらいなら私でもできるので、ぜひ。」
「ありがとうクロエ!!」
彼はよほど嬉しかったのか私にハグをする。
⋯でも、本当に何で彼は私の家に毎日来てくれるのだろうか。ヒールが壊れてしまったのに私のせいにもしないし。私なんて無愛想で、しかも、災いを呼ぶと言われる髪を持っているのに。
黒髪は、災いを呼ぶとされている。昔、国を滅ぼそうとした魔女が黒髪だったからだそうな。その魔女とは勿論私のことである。
『漆黒の魔女クローナ』
田舎の無力な魔女のはずだったのに今ではおとぎ話の悪役の定番として知られている、哀れな私の前世。
「クロエ?」
「⋯いえ。では、ヒールを持ってきてください。」
「わかったわ」
彼は庭の入り口の方へ走っていく。⋯結構な高身長のはずなのに子犬みたいに見えるのはなぜだろう。彼の人柄故だろうか。街で一番人気の彼が私を構うのは何でだろう。私が魔女様の弟子で、養子だからだろうか。じゃなければ、不吉の申し子のような私に近付きはしないだろうから。
⋯もし私が魔女様の弟子じゃなかったら、彼は来なくなるのだろうか。
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