17, 街へ
「あれ?」
クロエはお皿を片付けていて初めてそれに気付いた。
「アイリッシュ、手袋忘れてる。」
机の上に、彼が仕事のときによくつけている手袋が置かれていた。
「無いと困るよね。」
外は少し暗いがそれでも日没までにはまだ時間がある。
「届けるべき、だよね?」
そうしてクロエは初めて一応所属している街へ向かうのだった。
ローブを深々と被り、街の中へ入る。石畳が敷かれた町並みは思っていたよりも綺麗で、前世より田舎の街も発展しているのだなとクロエは思った。
子供が道を駆けていき、道沿いの花壇に女性が水をやる。若い男が荷車を押して荷物を運んでいき、街全体が活気づいていた。こんな暖かそうな雰囲気の街で育ったからアイリッシュはあんなに優しい青年になったのか、と思った時だった。
「おい、お前誰だ?」
「何か言えよ。」
「⋯ぁ。」
早速絡まれてしまった。ちょっとした脇道に連れて行かれ、大柄な2人の男に囲まれる。
「ローブ外せって。じゃねぇと追い出すぞ?」
「す、すぐに帰るから」
「さっさとしろ。」
一人の男に強制的にローブを剥がされ、黒髪が晒される。
「げっ、黒髪かよ。」
「街に黒髪が入ってくんなよ。縁起悪ィ。」
「⋯。」
「ま、俺らもうこの街から出るしいいじゃん。この街の人間が不吉なこと起こっても知らねぇし。」
この2人はこの街の住人では無かったのか。そんな2人が思わず声かけるくらい怪しい挙動をしていたのか私は。
「ケッ、最後の最後に気分が台無しだ。」
好き放題言って男達は勝手に去っていった。
やはり、アイリッシュが優しいだけなのだ。黒髪は不吉の象徴。縁起悪いもの。そもそも、次に会ったときにも手袋は返せたのに何でわざわざ届けに来たのだろう。仕事で必要な物なら予備くらい準備しているはずだということくらい、想像できたはずなのに。
「⋯。」
クロエはローブを被り直した。大通りに戻り、郵便屋さんを探す。過去にアイリッシュから聞いた特徴を参考に建物を探す。
「あ、あそこ、かぁ⋯。」
ようやく見つけた、そう思って近づこうとして、クロエは足を止めた。
(アイリッシュ、他の女の人と話してる。)
相手は友人だろうか。でも、女性に腕を組まれているし、距離がだいぶ近い。
(恋人?)
アイリッシュも20歳だ。恋人の1人や2人いてもおかしくない。分かっていたはずなのに、何でこんなに驚いているのだろう。
クロエは闇魔法を唱え自分を他人から認識できない様にした。
(最初からこうしていればさっきの人にも絡まれずに済んだのに。)
建物に入り、適当な机の上に手袋を置く。
そしてクロエは街を出た。
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