表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/70

・快勝 取り戻したココロ

 控え室に戻ると、私はその足で関係者用観覧席を目指した。

 ココロさんが元気を取り戻していなかったらどうしようと、迷いながらもいつもの席を訪ねた。


「あっ、きたよ! おーい、クルシュッ、こっちこっち!」

「相変わらずやかましいやつだな……。本当にお前、お嬢様か? 橋の下から拾われてきた子じゃないだろな……?」


「失礼なこと言わないで下さいます? アンタこそ元国王補佐官とか嘘でしょー」


 私はティティスに笑い返した。

 実家の仕事があるだろうに、ティティスは付きっ切りでココロさんを支えてみせた。

 彼女は素晴らしい人だ。信頼に値する。


「今回は助かったぜ。おかげで試合に集中できた」

「別にクルシュのためにしたんじゃないし。友達なら当然でしょ」


「謙遜すんなよ、その当然ができるからすげーんじゃねーか」


 少し説教臭かっただろうか。

 ティティスは急に横を向いてしまった。


「あ、あの……クルシュさん……っ」


 渦中のココロさんはティティスの後ろに隠れていた。

 それが急に私の前に飛び出してきた。


「ココロさん!」


 ずっと彼女のことが心配だった。

 私は壊れ物に触れるかのように、彼女を傷つけないよう慎重に接した。


 ココロさんは折り目正しく姿勢を整え、深々と私にお辞儀をした。


「勝ててよかったです……。このたびは私のせいで、ごめんなさい……ごめんなさい……」

「いいえ、貴方は何も悪くありません。しかし、どうしても許して欲しいと、そうおっしゃるならば……」


「はいっ、どうしたら、私のことを許して……元通りの、お友達に戻ってくださいますか……?」

「私の胸に飛び込んできてくれたら許しましょう」


 私は両手を広げて美少女の抱擁を待った。

 私はスーパーヒーローだ。

 スーパーヒーローにはこういうことをする権利が――


「痛ぇっっ?!! 何すんだよ、お前っっ?!!」

「ココロの弱みに付け入るな、このスケベーッ!!」


 正論である。

 だが私にも欲望がある。ココロさんを胸に抱いて慰めたいのである。


 抱擁すれば人の心が癒えるわけでないが、しないよりはずっといい。


「ど、どうしてもと、おっしゃるならば……っ、わ、私……」

「お、おお……っ?!」


「し……失礼、します……」


 要望通りココロさんが胸に飛び込んできてくれた。

 私はそれを、繊細なそれを慎重に抱き締めた。


「ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……」

「まあ、ココロがそれで気が済むなら、いっか……」


 この感覚、癖になってしまいそうだ。

 弱った女性を助け、そして救い、胸で抱き止める。


 おお、これ以上の男のロマンがあるだろうか? いやないっ!!

 価値観が古いと言われようとも、私はこういうのが好きだ!!


 若さゆえのパッションが!

 リビドーが!

 私の中で今燃え上がっている!


 と、熱くなるのはさておき、ココロさんはいつまでも私の胸から離れなかった。

 それほどに道場の人間を傷つけたことを、彼女は深く気に病んでいた。


「つか、アイツぶっ殺しちゃえばよかったじゃん」

「お前まで野蛮なことを言うな」


「そこんとこ不満だよ! どうせまた悪いこと繰り返すんだよ、ああいうのっ!?」

「それはそうなんだが、それをやるのは俺の仕事じゃない……」


「ふーん……。だけど、最後の面白かったーっ!! あそこで人の本の宣伝しちゃうなんてさーっ、オタク丸出しじゃん、クルシュ!!」

「そこは風流人と言ってくれ」


 私がそう返すと、ココロさんが胸の中で笑った。

 それから素に戻ってしまったのか、恥ずかしそうに私の胸から彼女は逃げた。


「うーん、でもアリかなぁ、さっきので爆売れしちゃうかも!」

「あ、あり得ると、思います……っ! 物はすごくいい物ですしっ!」

「おう、そうだといいな! そういった意味でも、勝ててよかった!」


 全部やり切った気分だ。

 このままどこかに寄り道して帰るかな。

 そう思っていると、イーラジュ様がこの観覧席にやってきた。


「なんだ、きたのか」

「なんだはねぇだろ、おめぇ……。へへへ、けどよ、スッとしたぜこの野郎っ!」


 でかい手で背中を叩かれた。

 痛い。どうやらだいぶ無理がたたっているようだ……。


「そりゃよかった。今回は我ながら上手くやれた」

「ああそれと、報復とかの心配はいらねぇぜ。あのクソ野郎なら逮捕された」

「え、マジでーっ!?」


「逮捕? 証拠が出たのか?」


 ここにきたのは、そのことを伝えるためのようだ。

 貴賓席で聖帝を守護する師匠が、わざわざ足を運んでくれたことが嬉しい。


「おう、現行犯も現行犯! ヤツは知らなかったみてぇだが、アレはこの国じゃご禁制なのさ」

「アレ? ああ、銃か」


「我らが恩大将・聖帝閣下は、アレが大嫌いでなぁ……。俺はまあまあ使えると思うんだが、とにかくこの国じゃ禁止なのさ」

「禁止にしといた方がいい」


「へぇ、おめぇまで同じこと言うのかよ?」

「あれ、簡単に人を殺せすぎるんだ。子供でも女でも、引き金を引くだけで簡単に人を殺せる」


「おおっ、平等になっていいじゃねぇか! クソ男に支配される女でも、ぶっ殺すチャンスがあるってことだろ!」


 価値観は人や場所によってそれぞれ。

 イーラジュ様らしいといえばらしい意見だった。


「確かに。あれが普及すれば弱者が強者に勝つチャンスが今より増える。けど……」

「けどなんだよ?」


「ココロさんの前でする話じゃなくないか?」


 ココロさんとティティスは俺たちの話がつまらないのか、ティティスと食べ物の話を始めていた。


「それもそうか。お、そうだそうだ、用件がもう1つあった」

「まだあるのか?」


「青の傭兵伝説だったか? その絵巻、今度俺にも貸してくれ」

「なんだそんなことか」


 師匠が漫画に興味を持つとは意外だ。

 師匠は詩歌や美術など、もうちょっと高尚な作品がお好みだった。


「読むのっ!? おすすめっ、超おすすめっ、絶対イーラジュ様も気に入るよ!」

「わ、私もそう思います。イーラジュ様が読んで下さったら、私も嬉しいです!」


 イーラジュはココロさんにだらしない顔をした。

 浮かれると人が間抜け顔になるのは、英雄もそうでないやつも変わりないらしい。


「お前がそう言うならそうするさ。じゃ、そろそろ戻らんとキョウコ姉ちゃんがうるせぇしな、俺は戻るぜ。……おう、バカ弟子よ、二回戦快勝おめでとさん」

「もうちょっと気持ちが引き締まるような祝福しろよ……」


「やなこった! 堅苦しいのは嫌いなんだよ、おらぁよ!」


 イーラジュ様が去るので、私たちも大闘技場から街に出た。

 当然ながら軽食店に寄り道をして、私は金80をまたふんだくられた。


 こうして今日、青騎士物語の作者は心強い味方を一人得ることになった。

 それは千竜将軍イーラジュという、天下無双の広告塔だ。


 もし、この大会で得た金に使い道があるとすれば、やはりこちらの方角なのだろう。

 私は得た富を、バトル漫画への文化振興につぎ込みたくなっていた。


―――――――

 スキル覚醒

―――――――


極限状態を乗り越えたことで、クルシュの中のスキルが覚醒した


【演技LV2】→【演技LV4】

 なりきり、なりすます才能。

 その実力、舞台の主役級。

【止血力LV2】→【止血力LV4】

 傷の治りが常人の3倍→9倍

【STR+100】

 常人を1として筋力に+1.00倍ボーナス

【手加減】

 ぶっ殺さずに相手を無力化する才能。

 再起不能でも生きていれば活人剣。


以上

―――――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ