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・第二回戦:VS傀儡師ドローミ - 私はココロさんに刺されてなどいない -

「それでは……! 盛り上がってきたところでいくわよーっっ、ご両雄!! 竜将大会二回戦!! これより試合開始よっっ!!」



 ついに試合が始まった。

 私はドローミの先制攻撃を待った。

 負傷者である私が先制するのは不自然であるからだ。


「信頼する女性に刺された気分はどうかなぁ……?」

「そりゃ最悪だ」


「だろうねぇ……! 我が輩を、殺したいかい……?」

「……下らん、さっさとこいよ、この臆病者のモヤシ野郎」


 交戦すれば仮病はすぐにバレる。

 ヤツには悪いが――私の二の腕の傷は既に癒えていた。


「ヒッヒヒヒッ……肉塊にしてやれっ、我が輩のヘラクレスゥゥッッ!!」


 傀儡糸がきらめき、ヘラクレスという名のフレッシュゴーレムが動いた。

 そのゴーレムは武器を持たなかったが、その手は猿のように長く、手のひらはクレーンのアームのようにでかかった。


「うっ……」


 私は腕が痛むようによそおい、後ずさる。

 その動きを敵はチャンスと見て深追いした。

 今なら動きの鈍った獲物をつかみ取り、握り潰せるとヤツは勘違いした。


「バカめっ、貰ったぁぁーっっ!!」

「い、痛ぇ…………。なぁ~んてな」


 私は突撃した。

 身を低くかがませて、迫る腕の真下をすり抜けた。


「なっ、なぁっっ?!!」

「そっちこそ、バァァァァーカッッ!!!」


 私は居合い切りを傀儡師ドローミに叩き付けた。


「うっ、げほ……っっ?!」


 白のローブの下から鎖のような金属の音が響き、破けたローブの隙間からチェインアーマーの姿があらわになった。


「仮病だってのっ!!」


 もう一刀、さらにもう一刀ぶち込んで、距離を取った。

 よほど上等なチェインアーマーなのか、浅くしかやつを斬れなかった。


「うっ、うがっ、あ、ああ……っっ!? う……っ、ゲ、ゲホッゲホッ、あ、痛い……痛ぁぁい……う、ううぅぅ……」


 まあいいだろう。

 フレッシュゴーレムを操る本体を、これで大きく鈍らせることができた。


「そんな、バカな……け、仮病……? 刺されたのでは、なかったのか……?」

「だから、刺されてなんかいないって、言っただろ? ほら」


 私は大げさな包帯を刀で斬り落とした。

 包帯の下にあったのは治癒した傷跡だけで、最近刺された痕跡などどこにもなかった。


「しょんな……しょんな、バカな……。我が輩が、術に失敗するなど、あり得ない……」

「術? 何かしたつもりだったのか? すまん、気づかなかったぜ」


「……い、いい気になるなよ、小僧!! 我が輩が本気を出せば貴様などっっ、貴様などやはりただの挽き肉に過ぎないのだ!!」


 まあ一理ある。

 ヤツの方が格上だった。

 だからこそイーラジュ様とソウジン殿は私を本気で鍛えてくれた。


「う、ぐ……っ、む、胸が……っ、か、肩が……っ」


 しかし俺は敵の左右のあばら骨と、右鎖骨をへし折ってやった。

 フレッシュゴーレムの動きは目に見えて鈍っていた。


「テメェの敗因は、勝てるはずの戦いでつまらん小細工を使ったことだ。どうだ、策略を逆手に取られた気分はよ?」


 頭上の貴賓席からイーラジュ様の笑い声が響いた。

 きっと関係者向け観覧席では、ティティスとココロさんが私を熱い声で応援してくれているはずだ。


 今のは我ながら、カッコよかったからな!


「貴様ァァァーッッ、仮病なんて、卑怯ではないかあああーっっ!!」

「テメェに言われたかねぇよ……」


「殺すっ殺すっ殺すっ殺すっっ、貴様だけは殺すぅぅーっっ!!」

「やれるもんなら、やってみやがれ、ヒョロガリオヤジ!!」


 私はやつが手繰るフレッシュゴーレムと戦った。

 操者の機敏さと、巨体の力強さを併せ持つその戦闘機械は脅威であったが、イーラジュ様と比べれば大した相手ではなかった。


 攻撃をすり抜け、刀で弾き返し、鎧の隙間からゴーレムの細部を突いた。

 徐々に徐々にと、巨体の動きが鈍っていった。


「我が輩が押されている……? そんな、バカな、あり得ない……! なんなのだぁ、その動きはぁぁっ、なぜ、我が輩のヘラクレスの腕を、弾き返せるぅぅっ?!」


 それは私も不思議だ。

 しかしできるのだから仕方ないではないか。

 無理をするたびに全身がビリビリと痛むが、今はどうでもいい。


「そろそろ、決着を付けようか」

「ひっ?!」


「イーラジュ様にな、テメェを殺せと命じられている」

「し、死ぬのは貴様だっ!」


 ふと、私は思った。

 公衆の面前で相手を半殺しにしようなど、私も私で頭がイカレている。


 私はこれから自分がせんとすることを再考した。

 社会人としてこれは正しい行いなのだろうか、と。


「……は、これでも分別のある大人であると自認しているつもりです」

「……は?」


 対戦相手の雰囲気が突然落ち着いたものに変わり、ドローミは呆気に取られた。


「ですが、今回のはさすがに、いただけない……」


 私は刀を鞘に戻し、ヤツのあばら骨をへし折った居合い斬りの構えを取った。

 社会人として、目の前の男を公衆の面前で、半殺しにするために。


 私は理性的に考えた上で、この外道をぶち転がすと決めた。


「傀儡師ドローミ、貴方にはここで死んでいただきましょうか」

「ヒ、ヒヒヒ、ヒヒヒヒッ……?! こ、こうなったら……こうなったらぁ……。ヒャハァァーッッ、死ぬのはっ、貴様だぁぁっっ!!」


 傀儡師ドローミは懐からある物を取り出し、私に向けた。

 どこかで見覚えのあるそのフォルムは、昔々、駄菓子屋で販売されていたアレに酷似している。


「う、うぉ……っ?!」


 それはウェスタンスタイルの、リボルバー拳銃だった。


「死にさらせぇぇーっっ!!!」

「な、なんだそりゃぁぁっっ?!!」


 私は無我夢中で、引き金が絞り切られる瞬間に合わせて、居合い斬りを放った。

 パンッと弾けるような銃声がとどろくと同時に、刀に重い振動が走った。


「き、斬れた……」


 今の私はまさにアニメのスーパーヒーローだ。

 そう感動していると、敵はフレッシュゴーレムを盾にして私から距離を取っていた。


 しまった……。

 銃弾を斬るなんて、そう何度もできるわけがないぞ……。

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