・第一回戦:VS棒術王バース・マルティネス - オッズ18倍のジャイアントキリング -
「 よっしゃあああああ!! 」
「 よくやったあああ、クルシュゥゥゥッッ!! 」
「 そのままそのバカをぶちのめせぇぇーっっ!! 」
観客たちにはなぜかウケた……。
もしや彼らは、人が痛い目に遭う姿を見られれば、それでいいのだろうか……?
歴史を振り返れば、かつてのローマ時代の観客も――
「げふっ、がはっ、うっ、げほっ……も……もう、もう一球だ……!」
いやローマ時代のうんちくはさておき、私のスライダーはバースに重いダメージを与えていた。
バースは苦しそうに立ち上がり、カケフのバットを私に構えた。
「こんな……すげぇボール、投げるヤツ、初めてだぜ……うっ、うぐぅ……っっ?! イナカ式、ヤキュウも、バカに、なんねぇなぁ……っっ!」
私は決着を付けるために、硬式ボールを再び拾い、構えた。
「さっきの横に曲がるやつ、なんていうんだ……? 後で教えてくれよ……」
「スライダーだ」
「スライダーか……よし、覚えた! さあこい、スライダーは、もう俺に効かねぇぜ!!」
私はボールを強く握り、バースに振りかぶった。
完全にこれは野球ではないのだが、大歓声が私たちを貫く。
相手は私がスライダーを投げると思っている。
ならば次の配球はこれだ。
「いくぞ、野球バカ!!」
「こいっ、次こそその頭、かち割ってやるぜぇぇーっっ!!」
私はさっきのスライダーに見せかけて、最近嫌に調子のいいこの肉体を駆使した一球を、対戦相手に投げつけた!
「もらったぁぁっっ!! ンゲヒァァッッ?!!」
野球に詳しくない私でもストレートの原理くらいは知っている。
ストレートはバックスピンを利用した変化球の一種だ。
私はそのバックスピンに全力をかけて投球した。
「あーーらぁーーっっ、バール・マルティネス選手ーっ、白目むいちゃってるわぁぁーっっ!!」
もはや闘技大会でも野球でもないのだが、大歓声が私の勝利を祝福してくれた。
特に穴党たちの興奮はすさまじかった。
番狂わせに多くの人々が嘆き、その嘆きが私を気持ちよくしてくれた。
私に賭けなかった君たちが悪いのだ。
これに懲りたら、次は私に賭けることだ。
「野球のおっさん、大丈夫そうか?」
「大丈夫大丈夫、参加者には即死回避魔法がかかってるのよー♪」
「へ、なんだそれ?」
「ミスタァー? 貴方開会式で聞いてないのー? 死なれたら困るからー、ギリギリのところでバリアーが出るようになってるのよー!」
「すまねぇ、開会式は寝てた」
俺の返事にモーリーさんはため息をついた。
それから手振りで俺に観客席を見上げさせた。
それは勝利の祝福をするためだった。
モーリーさんは俺の右手を取って、高々と掲げさせた。
「勝者!! ド素人オブド素人・クルシュ!! 大穴狙いのミセスミスターッ、おめでとぉございまぁぁーっすっっ!!」
「おい、その通り名どうにかなんねぇか……?」
「いいじゃなーいっ、あちし好きよ! 豪腕のなんとかーとかより、よっぽど盛り上がるじゃなぁーい♪」
私は大会一回戦に勝利した。
武術ではなく、謎の宇宙ルール野球ではあったが、勝利は勝利であった。
「俺は豪腕のクルシュがいい……」
「次までに考えておくわ。……それじゃ、賞金を受け取ってらっしゃい」
聖帝が座する頭上の観覧席から、一人の女性が軽々と飛び降りてきた。
その女性は黒いウサギのような衣装を身にまとい、いや、これは、まさか……。
「キョウコさん……?」
「おめでとぉーっ♪ キョウコさん、お爺ちゃんのお背中ぶっ叩きながら笑っちゃったぁーっ!」
「な、なんでここに、キョウコさんが……あ、大会の、関係者だったっけ……」
「ミス・キョウコは聖帝様のお側付きよ。さ、観客が待っているわ、早くありがたーい下賜をお受け取りなさい」
頭上を見上げる。
そこにイーラジュ様を含む護衛に守られる、あの老人の姿があった。
やはりあの老人が聖帝だった。
この会場で見上げると、圧倒的な権力と、全てを無条件で従わせる権威を感じさせるたたずまいだった。
「さて……ド素人のクルシュよ、この金40は大会主催者・聖帝からの賜り物です。とても大きなお金ですので――あんまり一度にムダづかいしちゃ、ダメですよぉー?」
なぜこの都の女性は私を子供扱いするのだ。
ムダづかいしようにも、私には借金取りよりも集金能力に秀でるガールフレンドたちがいる……。
「ありがとうございます、あの聖帝に褒美をいただけるとは、武人としてこれ以上の誉れはございません。謹んで、拝領いたします」
私はキョウコさんの足下に跪き、金40が詰まった紫の袋を受け取った。
キョウコさんはとても、とてもよいふとももをされていた。
網タイツ。そう、網タイツだ……。
若い頃は品のない格好をするものだと思っていたが、これがなかなかどうして、近くで見るといい眺めだった……。
次も勝とう。
こうして、バニーさんのふとももを間近で眺めるために。
「ふふー、どこを見てるのかしらー?」
「はい、貴女の網タイツです」
「うふふふふっ、本当に、変な子ー♪」
私はその日一日だけの英雄として、楽しんでくださった会場の皆に360度ぐるっと回りながら賜り物を見せつけてから、栄光の舞台を立ち去った。
ありがとう、聖帝。
貴方のおかげで貴重な文化様式、網タイツは守られた。




