表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/70

・第一回戦:VS棒術王バース・マルティネス - 二刀流ってそういう意味じゃねーよ -

 大闘技場の舞台から見えるものは、何もかもが圧巻の一言だった。

 24000席に及ぶ観客席の全てが人という人で埋め尽くされ、それがあらゆる方角から私を見下ろしていた。


 いよいよ始まる試合に人々は興奮し、絶え間なくざわめき、あふれんばかりに叫んでいる。

 あまりにも発言者が多いので言葉は言葉のていをなさず、私には『バース』と『クルシュ』という2つの単語しか聞き取れない。


 私はローマ時代コロッセオの剣闘士になったかのような気分で、満員大入りの舞台を見上げ、立ち尽くした。


 仮に聖帝が転生者であろうとも、こんなとてつもない円形闘技場を築いた時点で、もはや聖帝は歴史上の偉人すらもかすむほどの大偉人、いや神として見る他になかった。



「皆様長らくお待たせしちゃいましたーっ! これより本日第三試合っ! 裏ヤキュウ流棒術使いバース・マルティネス!! VS!!」



 ともかくその舞台のど真ん中で、私は大歓声と注目の視線に貫かれた。



「25歳、武人歴0年!! ド素人・オブ・ド素人!! 千竜将軍イーラジュの弟子っっ、クルシュの対戦を執り行うわよーっっ!!」



 大歓声は笑い声に変わり、賛否両論な私の存在が遅れて会場をざわつかせた。

 それは大穴も大穴の新参者が、あのイーラジュの弟子であったと、今さらになって知ることになったからだろう。


「いよぅ、あんちゃん! 初々しいねぇ!」


 見上げてばかりいると、対戦相手バースに声をかけられた。


「あ、ああ、こんな沢山の人に注目されたのは、これが初め――って?! な、なんだその格好っっ?!!」

「これか? これが戦に挑む時の、真のベースボーラーの出で立ちよっ!!」


 バースはキャッチャープロテクターと、キャッチャーヘルメットにキャッチャーマスクを身に付けていた。


 さらに左の肘には一塁ベース、右の肘には三塁ベース、股間には二塁ベースを装着していた。


「いや出で立ちっつーか、全部盛りっつーか、なんか、すげーな……」


 そんな変質者極まりない男が、さらに両手に金属バットを持って自分の前に立っていたら、君はどうするだろうか?

 私は一歩後ずさって、どん引きした。


「同じヤキュウファンだけどよぉっ、勝負は勝負! 手加減はしねぇぜ、あんちゃんっ!」

「お、おう……でも、なんで、二刀流……? いや二棒流?」


 バットを2つ持って試合に挑む時点で、それは即退場もののルール違反なのではないだろうか?


「知りてぇか!」

「いや別に……」


「かつてヤキュウ界と呼ばれた天上世界には!!」


 赤ら顔のヤキュウオヤジは私の返答を無視して、それはもう気持ちよさそうに語り出した。


「オオヤサン!! オオヤサンと呼ばれる、伝説の二刀流使いがいたそうだ!!」

「お、おう……?」


 オオヤ、さん?

 オオヤさんも、こっちに異世界転生していたのだろうか……?


「オオヤサンは海を渡り、当時邪道の二刀流・異端棒術を用いて、異国の鬼どもを悪鬼羅刹のごとく!! 討ち取っていったという……!!」

「いやおっさん、それ打ち取ったの意味ちげーと思うぞ……」


「ゆえに俺は鬼神オオヤサンにあやかり! 二刀流を志したのだーっ!!」

「二刀流ってそういう意味じゃねーよ……」


 存在そのものが野球への冒涜みたいなオヤジだった。


「うるせぇっっ、間違っていようと合っていようと、これが俺の中のオオヤサンなんだよっっ!!」

「コイツ、1ミリも野球を理解してねぇ……」


 しかしこの全身勘違いの塊のオヤジは、武人としては本物の実力者であるという。


 イーラジュ様いわく、道を誤りさえしなければ、今頃はどこかの将軍の右腕になっていた、と。



「さあご両雄! 盛り上がってきたところでーっ、試合開始と参りましょー!! 準備はよろしいですか!? よろしいですね!?」



 私は問いかけに『おう』とだけ答え、いつでも居合い抜きで迎撃できるように身を低くして構えた。


「悪く思うなよ、あんちゃん。俺はよ、ヤツカハギにはびこる田舎ルールを廃止にしてもらうために、この大会に出場した!!!」

「は……?」


「クルシュよっっ、その魂をヤキュウ界の礎としてくれるっっ!!!」


 以上のバースの発言はモーリーさんのマイクに拾われ、大闘技場中にとどろいた。

 バースの野望は野球に血と闘争をもたらすことだった。



「 お前ぶざけんなよ、バース!!! 」

「 このアホーッ!! 野球は殺し合いじゃねーよ!! 」

「 がんばれクルシュ!! そいつをぶちのめせーーっっ!! 」


 私の野球感は正常だった。

 観客たちはかねてよりこの狂人に思うところがあったのか、様々な罵声をバースに投げ付けてくれた。


 野球はやはり恐ろしいスポーツだ。

 異世界であっても野球の話題は極力避けべきであると、私は賛否両論の観客席から学んだ。



「それじゃぁ……そろそろいくわよーん、ご両雄!! これより一回戦……試合っ、開始よーっっ!!」



 試合開始の号令に合わせて大きな銅鑼(ドラ)が打ち鳴らされた。

 バースから好意が消えた。

 ヤツは鬼そのものとなって、強烈な殺意を全身からほとばしらせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ