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19/70

・開会式にて - ホームラン王バース・マルティネス -

「あたぼうよ、俺がチームの主力だ! いや外野ってのは大事だよな!」

「そ、そうだな……?」


「ピッチャーにトドメをぶっ刺す大事なポジションだもんなあっっ!!」

「………………は?」


 今、このオヤジは『ピッチャーにトドメをぶっ刺す』と言ったような気がするが、きっと私の聞き違いだろう。


「ん? 外野って言ったら、内野が半殺しにしたピッチャーを、イニング内にぶっ殺すポジションだろ?」

「な……なぜピッチャーを殺すっ!?」


「ああ、にいちゃん、田舎の方のルールを信じてるんだなっ! だがこのキョウでは、ピッチャーは滅多打ち! これがルールだ!」

「それ滅多打ちの意味が違うだろっ?!」


「このキョウでは! イニング内で相手ピッチャーをぶっ殺し合い、最後のリリーフまで先に皆殺しにした方が勝ちなんだぜ!」


 私は野球オヤジが担ぐバットを指さした。


「まさか、それ、武器なのか……? それでボールを打ったりしないのか……?」

「ああ、ボールなっ、牽制でピッチャーに投げつけるアレのことなっ!」


「ちげーよっ?! 野球はピッチャーが投げたボールを、バットで打ち返すスポーツだってのっ!!」

「田舎ルールな!」


「田舎でも都会でも変わんねーよっっ!!」


 野球オヤジが語る野球、もといヤキュウは、バットを使った武道――いやただの殺戮だった……。


「あのさ、気づく気配ないからそろそろ言うけどさ……。次の対戦相手、このおじさんだから……」

「な、何ぃぃっっ?!」


 私たちは互いに目を見開いて驚愕した。

 私の対戦相手は、頭のおかしなベースボーラーだった。


「お前がクルシュか!」

「となると、そっちが、バース選手か……?」


「おう! ホームラン王バース・マルティネスとは、この俺のことよっ!」


 ホームランもそのままの意味ではないのだろう……。

 バースは金属バットを公共の場で振り回した。


 試合ではあのフルスイングで人間の頭をかち割るのだろうか……。

 蛮族よりたちが悪い……。


「スポーツマンシップに則って、いい殺し合いをしよう、若者よ! どちらがホームランされても、恨みっこなしだ!」

「お、おう……試合では全力で行かせてもらうぜ……」


 バースは金属バットをぶんぶん振り回しながら、元気な大股で俺たちの目の前を去っていった。

 ホームランの意味はなんとなくわかった……。



 ・



 その後、私たちは南町の絵巻横町に寄った。

 絵巻横町は漫画や美術が集まる楽しい街だ。

 そこで私は打ち切りが約束された青騎士物語を、最終巻の5巻まで買った。


 絵巻1冊につき、銀5がだいたいの相場だ。

 銀20は金2と等しい。

 仕方がないとはいえ、この世界の漫画は高かった。


 逆に言えば漫画を友人同士で貸し借りしたり、一緒に読むのが当然の文化であるとも言える。


「どんな漫画か楽しみ! クルシュって漫画の趣味だけはいいよね!」

「お、男の人と、本を一緒に読むのは、少し恥ずかしいです……」


 私たちは屋敷に帰った。

 私の部屋で買ったばかりの漫画を読むために。

 絵巻は広げるとかさばるのが難点だが、皆で横に並んで読むには非常に適していた。


「帰ったか。む、それは?」


 屋敷の玄関に入ると、待ちかまえていたようにソウジン殿が俺を迎えてくれた。


「さっき買った漫画だ。ソウジン殿も読むか?」

「……こい」


「こいって、どこに?」

「道場、こい」


「すまん、この予定は外せない。買ったばかりの漫画を読まずに積む? 絶対にそれはありえ――」


「こい!!」

「な、何をするソウジン殿っ?!」


 ソウジン殿はやる気だった。

 私を竜将に大会優勝させようとしてくれていた。


「私たちのことはお気になさらず。先に読んでおきますから」

「それはないですよ、ココロさんっ?!」

「クルシュが間にいると気が散るしー。それに大丈夫、ネタバレとかしないからー!」


 ティティスとココロさんは私の訓練が終わるまで待てない。

 買ったばかりの漫画を今すぐ読みたい。

 健全である。これこそ正しいオタクの姿だ。


 しかしだねぇ君らぁっ?!

 確かにそこには!

 君らに囲まれて絵巻を読みたい私の下心もあったのだよ!?


 ティティスとココロさんは屋敷の奥へと消えていった……。


「クルシュよ、試合まで3日しかないのだ。気が抜けるようなことをするな」

「息抜きも大事だって!」


「バース・マルティネスは頭こそおかしいが、毎回初戦を通過している豪の者だ」

「……え、アイツ、そんなに強いのか?」


 肉体は立派なものだったが、そこまでの達人には見えなかった。


「あの見た目に騙されるな。お前は絵巻など女の趣味に浸っている場合ではない」

「娯楽に男も女もあるかよっ!!」


「ある」


 頭のクソ硬い副師範ソウジンに、俺は大会前日の晩まで徹底的に叩き上げられた。

 いつかこの頑固者をバトル漫画で洗脳してやりたい。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヤキュウwww 知ってるのと全然違ったw しかも名前wバースw さらに初戦の相手なのか・・・
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