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・大会予選:ソコノネの迷宮 - VS 新参者狩りのトッパ -

「その刀と鎧、くれよ? くれたら見逃してやるよ」


 ヤクザ者の言葉を無視して私はフロアの壁際に下がった。

 背後を取られるくらいなら、自ら退路を断てとイーラジュ様に教わった。


「にげ……ろ……」


 奥で倒れている女が私にそう言った。

 そう言われたところで、ヒーローが女性を見捨てて撤退するなど、土台無理な話だった。


「その女は辺境で売りさばくんだよ。君を、八つ裂きにしてあげた後にねぇ……?」

「お前ら、仲間なのか? 仲間ならどうやって合流したんだ……?」


「ふふふふ……これこそが、私が突破のトッパさんである由縁だよ。交渉スキルLV1持ちの私が本気を出せば、こんなものなのさ……」


 混線を利用して仲間を現地調達した。

 私はトッパの所業にあきれ果てた。

 その才能が生前の私にあれば、店を潰すこともなかっただろうに。


「ソイツきめぇけど、これで予選通過の金20と、死体漁ができるならよぉっ、得しかねぇだろ、ギャハハーッ!」


 このヤクザ者は私の敵にならなそうだった。

 ドスをメチャクチャに振り回す姿から、まともに実践を経験していないことが透けて見えた。


「金が要る。金が貰えるならそれでいい」


 こちらの槍兵士は厄介かもしれない。

 兵士なのだから集団戦はお手の物だろう。


「運がなかったなぁ、コネ野郎……」

「コネを使って何が悪い」


「なんだとテメェッ!! いいわけあるか、この卑怯者ッッ!!」

「はっ、負け犬の遠吠えだな」


「テ、テメェッ、この私をバカにしたな!?」

「したとも」


「はぁっ、はぁぁっ、はぁぁぁっ、許せねぇ……。コネだけの、若造がっ、この俺をバカにするなんて、許せねぇ……っっ!! 死んだぞ……君……死んだぞぉ……?」


 コネに対する論議は捨て置こう。

 どちらにしろこんな輩と議論としたところで時間の無駄。

 話し合いをすると見せかけて、私は刀を鞘に戻した。


 私は予選を突破する。

 こんなところで、こんなモブキャラに時間を食われている暇はない。


「俺はイーラジュ様の下で無限に強くなる。テメェらはここでくたばる。以上。証明はこれから始める」


 戦いを始めないならばこちらかけしかけるのみ。

 私はトッパの首を狙って、師匠イーラジュ仕込みの居合いを放った。


「アアアアアアッッ?!!」


 居合いは盾の上を滑り、首から外れた。

 鋭利な私のランボルギーニはトッパの顎の骨を削り取って、命奪うことなく空振りした。


 右手から兵士の槍の嵐が私を襲い、左手からだいぶ遅れる形でドスの乱舞が飛んできた。

 退路は考えるまでもなく、弱い方の左手側だ。


「ひっ?!」

「チョー、アレを使えっ!」


 ヤクザ者のチョーは私から逃げながら何かを口にくわえた。

 それは目潰しの粉末だった。


 至近距離で吹き付けられてしまった私は、身のこなしの速さを駆使してフロアの端に撤退した。


「ああ……やら、れ……ちゃったんだ、ね……」


 たまたまそこは倒れていた女性のすぐ側だった。


「それ、は、痺れ、毒……。わたし、も、やら、れ……」

「毒? これが?」


「終わっ、た……」


 言われてみれば確かに、口元や顔面が少し痺れているような気もする。

 だが身動きが取れなくなるほどでもない。

 あのヤクザ者、ハズレを引いたな。


「安心しろ、この勝負、俺の勝ちだ」

「何を……」


「黙ってろ、芝居を打つ」


 俺は膝を突いて見せた。

 膝を突きながらも動かない身体で、戦おうとする体裁を繕った。


「へへへ……俺をナメんじゃねーぜ……。おら、死ね!」

「待て!! そのコネ野郎は私が殺す!! 特別に惨たらしくだ!!」


 やつらが私の前に近付いてくる。

 慎重な槍兵士も勝利を確信してか、槍を肩にかけて無防備をさらしていた。


「これでわかっただろぉ、コネ野郎? 不正をしたやつは最期に滅びるんだよ……」

「……る、して……くれ……」


「んんー? 命乞いかぁ? 聞こえねぇなぁ、ヒヒヒヒッ!! ほら、聞いてやるから命乞いしてみろよ、卑怯者のコネ野郎っ!」

「……して……くれ……」


「聞こえねって言ってんだろっ! ああ、まずは手首から落として――」

「許してくれ」


 私は刀を薙いだ。

 その刀は天下の名刀、歴史の闇に消えた曰く付きの業物だ。


 私は私を鍛えてくれたソウジン殿となって、あの膂力を模倣して薙いだ。


「あ…………?」


 槍兵士、並びにトッパは即死だった。

 臆病さが災いしてか、ヤクザ者の傷はそれよりも少し浅く、すぐには死ねなかった。


「知っている人間を斬るのは、ちょっとキツいな……」

「な……なんで、おめぇ……お、俺の毒、きいて……あ、ああ……」


「湿気てたんじゃないか、その毒? これならココロさんに正座させられた時の方がきつかった」


 血を払い、剣を鞘に戻して、毒でやられた女戦士を背中におぶった。


「やるね……君……」

「おかげで芝居が打てた。助かったぜ」


「この借り……忘れ、な……よ」

「男が女の子を助けるのは当然だ、気にすんな」


「……古、い」


 私は価値観のアップデートができない古いおじさんだ。

 しかしそれで結構。

 私は勝利し、憧れのスーパーヒーローのように女性を助けた。


 私はこの階層を抜けて、次のチェックポイントを訪れた。


―――――――

 スキル覚醒

―――――――


極限状態を乗り越えたことで、クルシュの中のスキルが覚醒した


【毒耐性○】→【毒耐性◎】

 あらゆる毒に対する強力な耐性。

 よっぽどのムチャをしない限り二日酔いにならない。

【火事場力・筋肉】

 一定条件下で、瞬間的に肉体のリミッターが外れる。(STR&AGI・最大3倍)

【演技LV1】→【演技LV2】

 なりきり、なりすます才能。

 演技面だけなら舞台のわき役級。


以上

―――――――

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