殺人者へ
元教師である隠田一果の1日は夫を起こすことから始まる。電気をつけても、毛布で顔を隠す彼に一言「遅れちゃうよ」とモーニングコール。彼がお風呂に入っている間に朝食を作り、スーツにアイロンをかける。彼がお風呂から上がると朝食を出して、ゴミ出しとポストの中を確認する。今日もマンションの二回に住んでいる私は、階段を降りて、分別を確認し、ゴミを置き場に置いからエントランスにあるポストを確認した。大概何も入っていない。でも私は毎朝確認した。いつものように中は見ず、手だけをポストに伸ばした。紙の感触。取り出すと手のひらサイズの白い手紙のようなものが入っていた。裏返す。
『殺人者へ』
赤い汚く、子どものような文字で大きく書いてあった。その後にも何か続いているようだったが、私はそれを見て腰を抜かし、崩れ落ちた。
「捜査は打ち切りっ、終わりって、どういうことですか!」私、志之香葉は新人刑事でありながら、先輩である荷無信二の机を強く叩いた。
「なぁ、私情を持ち込んでんじゃねえよ!」
先輩は私よりも強く机を叩いた。
事件は5月28日私の弟である志之龍二が学校の帰宅後、自宅マンションで転落死した事件だった。
「でも、龍二が自殺なんて、ニムさんだって、龍二と話したことあるでしょ!」
「じゃあ何だ!周りには誰もいなかった、誰かが落とした形跡も証拠もない、どう考えたって自殺だろ!」ガタイの良い中年男と華奢で若い女の喧嘩を周りは触れれる空気ではなかった。少しながら、私だって刑事をやっている。私だって無理を言っているのはわかっていた。でも、だからといって納得できるわけ無い。たった一人の弟なのに…
「わかりました。私は一人でも捜査します。規則違反でクビにしてもらっていいです。では、」
私は颯爽と警察署から出ていった。
私は見つけてやる。そして私は決めている…
『絶対殺してやる』と。
周りにいた刑事の殆どは女性刑事を軽蔑していたが、男性刑事が普段よりも言い過ぎているという声もあった。そんな中、男性刑事の荷無は視線を下にやった。さっきの振動出だろうか…机の引き出しが開いていた。
机の引き出しを開けた。
『殺人者へ』
一番上に赤く汚く大きな字で書かれている紙がある。
「はぁ、」荷無は大きくため息をついた。そうするとカーキ色のコートを着て、後を追うように出でいった。
探偵になりたい女子大学生 海野四葉は退屈していた。
探偵事務所の助手として働きはじめて半年。憧れていた事件という事件にありつけていない。凶悪殺人犯の捜査、謎の研究所の探索、不意に行った旅行先での殺人事件。そんなのは漫画の世界でしかなかったのだ。現代の探偵の仕事といえば不倫ハンター、そんなところだろう。
この前なんて夜に真っ黒の服を着て不倫男をつける仕事。外から見れば悪い方はこっちだ。
そんな張り合いのない日々なのに、呑気に茶をすする私の名探偵。せめて、コーヒーでいろ。かっこよくいろ。この山瀬健作という男は良く言えば余裕のある冷静な探偵。悪く言えばただのめんどくさがり屋。現状、まともな事件を私の前で解決していないので後者だ。最悪だ。
とはいいつつ、私がここを辞めるのは事はクビ以外に多分ない。
私はこの人をずっと追ってきた。あの事件から。
カランカラン
ドアにつけていたベルが鳴った。
「すいませーん」高校生の男女二人組がやってきた。不倫ではなさそうか…よかった。
「山瀬さーん、依頼でーす」奥の部屋にいる名探偵を呼ぶ。「はぁ〜あ、おはよう」奥から寝癖を豪快に立てた31歳の探偵が出てきた。「ちょっと、また、作業するって言って寝てたんですかー!」この人はいつもこうだ。「いや、激しく動いてただけだよ。そんなに怒らないで海野くん。」探偵はそう言うと高校生を座らせて、私にお茶を出すように言った。私がお茶を持ち、戻ってきたとき3人はもう打ち解けているようだった。「つまり、この手がかりは今は廃校だけど、君たちが行っていた中学校にあるかもしれないってことだね。」机の上には殺人者へと一言書かれた紙が置いてあった。
「えー!これ、どうしたんですか?これ!」私は非現実的な殺人という文字にワクワクしていた。
「おい」探偵に頭をチョップされる。
かけていたメガネがずれた。
「こいつは私の助手の海野です」探偵が代わりに私の自己紹介をする。高校生も続いて、「大場留来です。」「身利側朝顔です。」
「ごめんなさい。いきなり。今日はどうされたんですか?」探偵は顔をムッとしたが、女子高生の方が話してくれた。「この紙が大場くんのポケットに入ってて、怖かったので来ました。山瀬名探偵とはドラマの撮影の時に会って、学校の近くに事務所があるの知ってたので。」「探偵、じゃなくて山瀬さんドラマなんて出てたんですか?」「いや、出てたわけじゃなくて、推理物のトラマに、君が来る前ここを貸したことがあったんだよ」そんな凄いことがあったら言ってほしかったのに。ちょっとは株上がったよ。あ!?「ド、ドラマ…ってアーサーちゃん?あー!そっか、朝顔でアーサーか!見た、雑誌で、うわぁ本物!」「おい」「すいません」探偵にまたチョップされた。「じゃあ話の続きをしようか。とりあえず、その中学校に行ってみてこの紙に似たものが無いか探してみようか」「どうしてその紙に似たものが廃校にあるんですか?」「あ…2人が見たことがあるみたいなんだよこんな感じの」「へー」そうして、4人で学校へ行くことになった。そういえば、あんな感じの紙、山瀬探偵の机ので見たことあるような…、でも、あれは赤文字の下に長文で何か書いてあったし違うか。
殺人者へ
この言葉から始まる手紙を読んで私は思わず、腰を抜かしてしまった。何を隠そう私は殺人者そのものなのだから。もう逃げられない。向き合わないと…
この手紙の続きで"指示"されていたように私はかつて勤めていた中学校に来た。それはいかにもな田舎の学校で、坂の上に建っており、周りは草木で囲まれている。築60年以上の歴史ある学校だったが去年廃校になったばかりだ。そのような立地が廃校の原因だと巷では言われているが、私は違う事を知っている。生徒の激しいいじめ。それによる自殺。いや、違うか。'生徒と先生によるいじめ'か。
最近だって私の教え子が自殺したんだし、もう言い逃れはできないか…私、隠田一果は殺人者だ。
5月30日時刻は午後18時、ここにいたはずだった生徒はもう下校している時刻だろう。私は校舎を凝視する。懐かしい…視線を下げ、校門に手をかけた。
その時だった…「あー、誰かいる!」聞き覚えのある若い声。振り向くと、坂を上がり息を切らしたかつての教え子がいた。大場留来… 身利側朝顔…それとシャーロックホームズのような格好をしたおじさんと、メガネをかけた大学生くらいの娘がいた。
「えっ!先生じゃん。」この子今は女優やってるんだよな…たしか。「どうも。」こっちはあの事件から記憶喪失の…「へぇー、中学のときの先生ってとこか。はじめまして、山瀬です。探偵をしてます。」
コスプレでもしてるのかと思ったらこの人本当に探偵だったのか…「こんにちは!助手の海野です!」こっちのメガネの娘は助手だったのか。本当にシャーロックホームズみたいだ。あんま見たこと無いけど。「先生どうしてここにいるんですか?」私は廃校と同時に教師をやめたから、かつての学校以来の生徒との会話だ。
「呼ばれたの。家に手紙があって。」
「あっ、先生も同じなんですね。私達と、」
「同じ?」それはおかしい…だって、あなた達はだって、"被害者"でしょ?
「ど、どんな手紙だったの?」
「殺人者へって、」
「私のと同じ…」私だけじゃないの?この罪を知っている人が私に懺悔させるためにここに呼んだんじゃないの?じゃあ目的は?
「先生、とりあえず中に入りましょうよ。日も沈んできましたし」私達5人は校門を乗り越えて学校に足を踏み入れた。白い砂、灰色の窓、濁ったフェンス。あの日々が蘇ってくる。その時、ある意味で私を現実に戻す音が聞こえた。
『バン!』銃声だ。
俺は後輩刑事の志之を尾行していた。あいつは一人で捜査すると言って出ていった。つけていくと大きな坂を登り、ある学校についた。
あぁ…ここはまずい。時間は…午後17時50分…
志之はその学校の門を飛び越えて、中に入っていった。俺が入ってしまえば、あの手紙の通りになってしまう。だめだ。いやでも…あいつ家にいるよな…
最悪な映像が脳に流れる。だ、めだ…
俺も門を飛び越えた。あの事件依頼だった。
俺は不安を抱え、校舎裏に向かった。手紙に校舎裏非常口から入れと書かれていたからだ。陰湿な道をぬけると、開いている非常口の扉が見えた。声が聞こえる。「これは何!離しなさい!」聞き覚えのある声がする。あぁ…最悪だったんだ。非常口の上には二階の窓があった。開いたその窓から少年と女刑事がもみ合っているのが見える。
少年は黒ずくめ。黒いズボンと黒いパーカーを着て、顔が見えないくらい深くフードを被っている。
「爆弾でしょ!!これ!!」女刑事は少年が手に持っているものを奪おうとしている。俺は急いで非常口を駆け抜け、正面にあった階段を上った。あぁ…だめだ「なんで貴方がこれを持ってるの!」
女刑事の声だけ聞こえる。上がりきるとまだ女刑事と黒フードの少年は爆弾を両手に取り合っている。あぁ…よかった。俺はそこに駆けつけて思いっきり殴った。
女刑事、志之香葉を。開いていた窓からそいつは落ちた。下を見るとうずくまっている。黒フードの少年は爆弾らしきものを持ってその場から逃げた。
俺はゆっくり階段を下る。扉を抜けると志之は背中から体を打ったそうで、仰向けで倒れていた。
「な、なんで…」息苦しそうに訴えてくる。
俺は最後に聞くことにした。
「お前はもし、弟を殺したやつが目の前に居たらどうする?」助けを求めていた顔が戦線上のような顔に変わる。
「絶対、殺す..」
「そうか」俺は倒れている志之に向かって拳銃を突き立てた。志之が一言「家族の為ですか、」
『バン!』