第8話 カウントダウンを待ち侘びて〜夫のエッチな声が気になります〜
二階にある、宿泊施設の雰囲気に似つかないオシャレなドアを開けた先。
私とフレディーはワクワクを胸にマッサージ店、俗に言うリラクゼーションサロンに訪れた。
「いらっしゃいませ、ブリュッセルの箱庭へようこそ」
「こんばんは、あとここブリュッセルじゃないですよ」
「ふふ、この店名雰囲気あると思いませんか?」
失礼な挨拶をかます私に、笑顔を振りまく優しそうな女性店員は、一枚の紙を渡す。
「こちらにコースの説明や詳細が書かれています。お決まり次第呼んでくださいね!」
店員さんは準備をする為か、そそくさ別室に移動した。若そうなのに、個人営業で独立してるなんて凄いなあ。
フレディーが店員がいなくなったことを確認し。
『そろそろ憑依します。痙攣しないでくださいよ?』
少し心配しているフレディーに、私は最大のフォローを入れる。
「さっき部屋でお試し憑依した時、十分に痙攣しまくったから大丈夫だ。三年ぶりの憑依……あれは凄かった」
さらに心配そうになったフレディーは、震えるのもダメですよと念を押しながら、私の身体に自身を重ねていく。
「……フレディー憑依出来た?」
『はい、憑依完了です』
実はフレディー、憑依をこなしていく度に熟練度が上がっているらしく、私の動きの制限をかけずに憑依出来るようになった。
この状態は、フレディーと視覚や聴覚等の五感や思考を共有しつつ、私が自由に動けるという欲張りセットなのだ。
「お待たせしましたー! コースはお決まりですか?」
にっこり店員に、私も同じくにっこりしながら。
「全身揉みほぐし六十分コースで!」
一番時間の長いコースを真っ先に選んだ。
『え、三十分コースって決めてたじゃないですか』
あれ~三十分だったっけ?
全然覚えてなかったな~
とぼける私に早速案内をするにこにこ店員。案内された一室は、マッサージ店でよく見る茶色い布があるベットが一つある、ザ・リラックスルームだ。
観葉植物もあるのはポイント高いな。初めてマッサージなるものに訪れたから、基準分からないけど。
「ではあちらのカーテン越しに着替えがありますので、衣服を脱いで着替えちゃってくださいね! あ、タオル一枚でもいいですよ、ここではどちらでも対応させて頂きますので」
なるほど。全裸は恥ずかしい人もいるし、服を着たままマッサージを受けたいという人もいるだろうからな。
『服は別に着たままでも』
ま、私には関係ないな!
一時間じっくり堪能させてもらおうじゃないか!
私は頭に響くフレディーの声をガン無視した。
タオル一枚になった私は茶色ベットにうつ伏せになり、店員と会話タイム開始だ。
「今日はどんなところが気になりますか?」
私はキリッとした目と声で。
「夫のエッチな声が気になります」
一時間マッサージされるんだ、フレディーの放送禁止区域に突入出来るかもしれない。
「へは~夫さんいいですねえ。イケメンだったりするんですか? あとどんなところというのは、お客さんの凝ったところのことです」
「怒った? 私は貴方に夫が取られないか怒りそうです」
イケメン食いなニッコリにフレディーを渡してたまるものか。
憑依中のフレディーが私の脳内で爽やかアタック。
『どこを重点的に揉んで欲しいか聞いてるんですよ』
重点的に揉むだって?
このイケメン食い、全身揉みほぐしとか言って私の胸を揉みほぐしたいだけなのか?
おまえの胸とイケメン、どっちを取るか選べみたいなことされるのか?
『逆に胸はお願いされても揉まないと思います』
私の怒ってる発言にイケメン食いは頬を膨らませる。
「生意気なお客さんにはこうですよ~」
そう言って私の腰に親指をグイッと押し込む店員。
うお、なんだこの感覚は!?
これがあれか、キクウゥ~ってやつか?
『反応がおじさんみたいですね、しかし確かに気持ち良い……ポカポカしてきました』
「えい、えい、どうですか? 気持ち良いお礼に、イケメンな夫さんをここのマッサージ店に連れて来てもらってもいいんですよ? 夫さん来たらサービスしますから」
なな、やっぱり妖怪イケメン食いだ!
あともう夫ここに来てるんだよ!
う……にしても本当にマッサージが上手い……てかマッサージ受けに来てるのに、何故私はこのイケメン食いと戦ってるんだ?
腰から自然な動きで背中をグリグリ押し当てる妖怪。背中を手の平で上方向にグイ~と伸ばしたり円を書いている。
『……んっ』
ん?
フレディーがなんか息が荒いような……いやまさかな。私でさえ発情してないのに、フレディーがする訳ないよな。
『緊急事態ですエリンさん』
エリン、だ。
『僕、憑依した時、身体を逆向きに憑依しちゃったみたいです』
なんだって、逆向き?
逆って……上下左右どっち?
『今、エリンさ、の背中側が僕の表、胸部やお腹にあたるのです』
そんなたまげたなあ……え?
つまり、今私の背中グリグリしてる部分がフレディーの胸……え、え?
夫が乳首責めにあってるってこと!?
『は、ふう、一回憑依し直しますよ、身体の力を抜いて貰えますか?』
嫌だね!!!!!!!!!!!!!!!!
そのまま喘いで喘ぎまくるんだフレディー!!!!!!!!!!!!!
私はこれでもかと言わんばかりに身体全体に力を込める。身体が硬直すると、フレディーは憑依解除出来ないのだ。
このまま一時間ずっと硬直し続けてやる。なに、これくらい十時間プレスするより百億倍マシさ。
はあ、はあ、一時間、フレディーの喘ぎ声を脳内に直接流し込めるなんて……今日はこれ以上痙攣したらおかしくなっちゃうんだぞ!
背中責めと乳首責めを完璧にこなすイケメン食いの達人は、目を細めて言う。
「嫌だ?」
あ、心の声を!マーク付けすぎて声が漏れてしまったようだ。
達人は目を輝かせ腕を捲る。
「ならもっと激しく責めるまででしょ!!!」
私は先生に大きな返事と言われるような、園児のように声を張り上げる。
「背中上部分を重点的にお願いします!」
もはやイケメン食いに尊敬の意を抱く私は、全身を文字通り揉みほぐしされつつも応援し続けた。
『う……ちょ、あとどれくらいで終わるんですか、これッ』
私は目の前にある時計盤を見る。
うつ伏せになっているお客さんが時計を見えるように、わかりやすい位置にあるのが仇になったのか、フレディーからは時計が見えてないようだ。
ん~あと二十回喘いだら教えよう。
『ん、意地悪しないでくださいッ』
ふふ、あと四十五分だよ☆
あ、そうだフレディー、この四十五分間、私が脳内カウントダウンしてあげるよ。
あと四十四分五十秒。
これがゼロになった時になるまで、我慢するんだぞ?
さあフレディー、私に四十五分間エキサイティングなメロディーを奏させてくれ!