第3話 お手洗いを待ち侘びて〜中断したらイチャラブ妄想の刑だ〜
プレスプレスプレスプレスプレスプレスプレスプレスプレスプレスプレスプレスプレスプレス。
プレスである。
見た目も性能も低レベルな残念マシンガンを、せっせと汗水垂らして量産するこの地獄な所業の名は。
プレスである。
ただそんなつまらない上、単純作業の賜物で腕が痛むこと以外なし得なかったプレスが、昨日のある出来事によって劇的に変わった。それは。
プレスである。
否、憑依である!
『この腕を上げては下ろすって動き……訓練の一環でしてもおかしくない辛さですね』
そうだろうそうだろう?
この辛さを共感して貰えるだけ嬉しいのに、フレディーが私に憑依して労働までお手伝いして貰えるなんて……この上ない幸せ!
ま、私の身体だから結局疲れるのは私なんだけども。
それでも良いのだ。私の身体を美青年が思うのままに動かすというだけでも発情案件なんだから。
……おっとまずい、状況を再認識しただけで身震いが。
『それにここの工場風通りも悪いですし、熱がこもってとても暑いです。汗が止まりません』
そうだろうそうだろう?
その調子でフレディー水を生成するんだ!
フレディーが私の身体を動かしかいた汗は、実質フレディーの汗とも受け取れるかもしれない。
憑依してかいた汗は間接汗と言っても過言ではないのだ!
『過言ですよ』
ああ、これでは毎日洗濯されるフレディー水が勿体ない。本物のフレディー水を堪能したいところだけど、間接汗もこの時でしか堪能出来ないレアな代物なのだ。
寮に帰ったらすっぽんぽんになってスーハータイムだな。
『エリンさん、自分の汗を堪能して後悔する未来が見えますよ。僕はちゃんと忠告しましたからね?』
フレディーくん~手が止まってるぞ!
『あ、ごめんなさい、つい』
私の思考命令でフレディーは再びプレスし始める。
そう、フレディーは憑依した私の思考を読み取れるようになったのだ!
これではフレディーへのあれやこれやな思いが筒抜けだ。ごめんよフレディー、毎日ハレンチな思いを馳せてしまって、私の煩悩を覗くのは嫌だろう?
『エリンさんのあれやこれやな思いには慣れましたよ。ただ、妄想の中で僕とするのだけは恥ずかしいので辞めて欲しいですね』
え?
妄想の中でイチャラブしていいって?
言われなくてもするっての!
「おいエリン、この箱を荷台で第五施設の二階C室に運んでくれ」
あ、休憩時間元カレの話ばかりする女だ。
元カレパワーで一人で運べばいいのに。
私もといフレディーは手をおでこに掲げ。
「はっ!!!」
「うわッ、そんな敬礼する程でもないだろ……」
引き顔で去っていく元彼氏持ち。
敬礼の趣をわかってないようだな!
フレディーは再びプレスしながら、脳内に直接爽やかボイスを響かせる。
『僕、第五施設の場所分からないので憑依中断して良いですか?』
私が案内するから憑依は続けて。中断したらイチャラブ妄想の刑だ。
『仰せのままにですよ……』
プレス地獄から解放されたフレディーは、荷物運びの地獄に移る。
荷台を第五施設まで運ぶのは容易いこと。道をほぼ直接に進んでから右左右右左上下横右左だ。
『え? なんて?』
そんなこんなで私達は荷台を第五施設まで押し、荷台に積み上がっているダンボールを二階C室まで運ぶところまで来た。
この一階のある荷台と二階のC室をシャトルランするこの行動もまた地獄。
フレディー水も放出し放題だ。
階段を登り降りしたせいか、身震いが予兆だったのか。
フレディーと私は同時にその問題に直面する。
『トイレ行きたいです』トイレ行きてえ。
しかし私は、どんな時どんな事でも全力で楽しむ女。
またも私にエロスの神が降臨する。
フレディー、憑依したまま女子トイレに向かうんだ!
『え? こんな時でさえですか?』
こんな時だからこそだ。
異性入れ替わっちゃった系でまず直面するのがトイレ問題!
この醍醐味を今味合わないでいつ味わうというのだ!
美青年が私の身体を使って用を済ませる……想像しただけで色々な意味で身震いが。
『今日だけですよ』
毎日してくれ、朝昼晩晩晩だ。
『そんな毎日するんですか?』
デリカシーが無いのかフレディー?
乙女にトイレ行きまくりですねは良くないだろう?
それに私はトイレと友達なのだよ、夜発情した私に、スッキリする場所を提供させてもらっているのだからな!
『……』
しかし困ったものだ。
第五施設にトイレは無く、その隣に続く第四も無い。
人がメインで働く一、二、三の三つの施設にしか設備していない不親切設計なのだ。
右左うんぬんしても第三施設に中々辿り着けない。
足もなんだかプルプルして来た。
だがフレディーもこのプルプルを感じてると思うと、私の心とどこかがプルプルしだしてしまうじゃないか。
『あ、第三施設に到着ですよ。よ、ようやく着きましたあ』
いい子だフレディー。
フレディーを撫で撫でしたいところだが、生憎憑依されているから出来ないな。
あ、待ってフレディー、限界が近いからってお腹付近を撫で撫でするのはアウトだって。
何故かってアウトだからだ!
だがもっとしてもいいんだぞ!!
辞めろとは言ってないからな!!!
そんなアウトな状態で少しでも身体に衝撃が伝わらないよう、足をへの字にしながらドアを開ける。
トイレ特有の重いドアを開けた先、そこには手を洗い終わり丁寧にハンカチで手を拭くナンシーの姿が!
「あ、変態だ」
フレディーは私の身体で応える。
「まあ変態ですよねえ」
ちなみにフレディーは私の身体で自由にお喋り出来る。欠点は私自身が喋れないことだな。
ハンカチを折りたたんでポケットにしまったナンシーは、私達に接近して睨みつける。
「昨日の諸々、とても不愉快だったんだ。お返し、だ!」
握り拳を作ったナンシー。私のお腹に目掛けてパンチをお見舞いしようとする!
普段戦場で鍛え抜かれた、機敏な反応で危機を察知出来るフレディー。
しかし今、膀胱が爆発寸前、さらに憑依という慣れない環境下においてその危機察知能力が失われていた!
私は走馬灯が見えた。
プレスする私、フレディーの妄想にふける私、プレスする私、プレスする私、妄想───
バトル漫画並の速さで繰り出された腹パンは、お腹スレスレでピタリと止まった。
「なんてな、まあおまえの例の行動はもはや日常だからな。早く済まして仕事に戻れよ」
そう素っ気ない笑顔で横を過ぎるナンシー。
な、なんて良い奴なんだ……!
そう思っていた私は異変に気づくがもう遅い。
ナンシーは去り際に、なんとなくの気持ちでした、腹パンならぬ腹ペチを。
お腹に伝わる微細な振動。
その振動は、腹パン寸前を免れほっとし緩んだ身体、つまり緩んだ膀胱とアレにダブルヒットした。
その瞬間。
『───ぐわっ! あ、あれ? 追い出された?』
フレディーは私の身体から投げ出されるように勢いよく飛び出す。
フレディーは私に視線を向けながら。
『もしかしてまた……あ』
「………………んぁっ」
この汚い哀れな女を見ないでくれフレディー。
純粋な美青年が見てはいけない光景なんだ。
私は悶え痙攣する身体を必死にうずくまって抑えるも、もう身体が限界のようで、新鮮な魚の如く床タイルの上でピチピチ跳ねていた。
そんな私に驚きを見せるナンシーが一言。
「なんか、その、ごめん……」
ナンシーは積み上げてあった新品のトイレットペーパーを手に取った。




