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第2話 添い寝を待ち侘びて〜私と一つにならないか?〜

 肉体も精神もボロ雑巾な私の前に現れた私好みな美青年。


 イマジナリーフレンドかと思われたその美青年はまさかの生霊だった!


 勢い余ってエッチを申し込んだ私は断られるも、

 勢い余って結婚を申し込んだ私は無事承諾され、生霊と結婚の約束を果たす!


「という感じで美青年な生霊は私の夫となったんだ」

「いや意味わからんし、もう寝た方がいいよ」


 私達サブマシンガン製造工場の職員は、決められた寮で寝泊まりしている。


 与えられた部屋及び寝室は二人でワンルームとなっており、密室で女二人という嫌な感じのシステムとなっているのだ。


 今日の仕事を終えた私は今、寝室のペアである同僚のナンシーに、フレディーに出会った一連をおおっぴらにしたのだ。信じてもらえるかは置いといて。


 ナンシーが私の頭を、机から取り出した分厚い本でペシっと叩き。


「あんたは疲れてるんだよ、その壊れたアホ頭を枕に押し付けて永眠するんだね」

「そんなあ」

『エリンさん、無理して説得しなくても良いですから』


 ちなみにフレディーは私とナンシーの寝室にご招待している。


 喜べフレディー、乙女の秘密なお部屋に来れたんだ。もう我慢出来ませんと言って私を思わず襲ってもいいんだぞ?


 はあ、ナンシーがいなければ今日の夜はお楽しみ出来たんだけどなあ、仕方ない。


 私は相も変わらずふよふよ浮いてるフレディーに視線を移して言う。


「ナンシーのプライベートがフレディーに公になってしまうんだ。本人確認が必要なのは仕方ないだろう?」

『確かにそうですけども』

「おい静かにしろよエリン。私は今小説の神が舞い降りてるんだ、おまえの壁フレンドとのお喋りで筆が止まったらタダじゃ置かないからな」


 机に向かって小説を書いていたナンシーが、万年筆の先を突きつけるようにして私を威嚇してくる。目付きが猫のそれだ。


 やめてくれよナンシー、そのインク服に付いたら中々取れないんだ。明日の洗濯当番私だから面倒なんだよ。


「壁じゃなくてせめてイマジナリーと」

「永眠、しろ」


 親指を下に向けるナンシー。

 そんなことしてるから神がどっか行っちゃうんじゃないかな。


『僕達は寝ましょうよ、明日も早いらしいじゃないですか』


 私の顔を上から除くふわふわ美青年。

 心配そうなフレディーも愛らしいな、早くエッチしたい。


「そうだね、私は二段ベッドの上でいつも寝ているんだ。フレディーもおいで」


 私はフレディーを誘いながら、梯子を使わずにジャンプして二段ベッドの二階によじ登る。


 性欲に駆られていた私が馬鹿らしい、なんて思っていた私は一体どこに行ってしまったのか。

 フレディーに心を許して緩んだ私は自制心も緩んでしまったのだ。


『……エリンさん僕が横にいたら寝れますか?』

「寝れる訳無いだろう? ドキドキとムラムラのパラダイスさ」

『……』


 やれやれといった感じの表情をしつつ、フレディーはふよっと私に並ぶように横に来る。


 わわ、これって添い寝ってやつか?

 私異性とこんな至近距離で見つめ合うなんて初めてだ。


 フレディーの瞳綺麗だなあ。瞳まで優しい心が染み込んでいるのかもしれない。


「眼球美味しそう」

『ひぃッた、食べないでください』

「半分冗談だよ」

『半分ですか……』

「不満だった? じゃあ三割冗談かな」

『寧ろ不満が積もりましたよ……』


 怯えるフレディーの瞳も可愛いな。

 世の中には眼球舐めって行為があることを知った時はド肝を抜かれたが、今の私はそっち側に行きそうだ。


 なんとなくフレディーに手を伸ばすも、すぅっと透けてしまう。


 この透ける現象は何度やっても慣れないな。


 そんな時ふと、私は思いついてしまった。私にも神が舞い降りたようだ。小説の方ではなくエロスの方の。


「フレディー、私と一つにならないか?」

『うへ!? ダメですって、それに僕は物理的なことは』

「いやそうじゃないんだ。こう、フレディーに手をかざすと透けるだろう? これを全身でやるのさ」


 ところのつまり、私の全身に重なるようにしてフレディーが横になれば……


『大丈夫ですかエリンさん、息使いがおかしくなってますよ?』

「はあ、はあ、あ、すまない。これはただ興奮してしまっただけだ。美青年と……一つに……ふへへへへ」


 発情期に入った私は変態的笑みを浮かべていた。

 フレディーにこのような姿を見せても大丈夫かなって思っている自分がいる。


 私は乙女失格だな。こんな妻を選んでしまったフレディーに申し訳ない気持ちになる。まあ性欲の方が気持ち強いけど。


『今日だけですよ?』

「毎日してくれ、朝昼晩三回だ」


 フレディーが本日二度目のやれやれ表情を見せる。


 そんなフレディーは身体を少しずつねじ込ませ、私の身体と重なっていく……!


 あ、これ想像よりやば、なんかこう……


 寒気がすんごいする!!!


『全身重なりましたよ、大丈夫ですか?』


 フレディーの爽やか声が頭からめちゃ響く!

 脳内に直接爽やかボイスが侵入して来て刺激強すぎるって!


 でもそれより寒気が、さぶぶぶ……


 ちょっくら白湯でも飲もうかな。


 私がベットから降りようとするも、何故か身体が自由に動かせない。まるで身体が石のようだ。


 ……喋りも出来ないぞこれ?

 何が起きているんだ?


 脳内から爽やかボイスが直接攻撃して来る。


『もしかしたら僕、エリンさんに憑依したのかもしれません』


 え?

 憑依ってそりゃあ……

 フレディーと本当に一つになったってことか!?


 あ、人生で一番気持ちが高ぶって来た。

 それなのに身体を動かせないってどんなプレイだ!?


『僕とりあえず動かしてみますね』


 と脳内に響かせるフレディーは、私の身体を起き上がらせる。


 自分の身体が勝手に動いている!

 え、これってフレディーが私の身体を好きなように触れるってことだよな?


 そう考えただけで高ぶり人生最高潮の記録が更新してしまう……!


 フレディーよ、男の子が乙女の身体に乗り移ったらまずすることがあるだろう?


 胸を揉むお約束が!!!


『慣れてないので難しいですねこれ。ベットから降りるのはやめて、指遊びから始めますか』


 フレディーは私の手の指を器用に一本ずつ折り曲げていく。その謎の準備体操みたいな行動は何だ?

 なんかナンシーにやらせた方が効果覿面そうだ。


 ……あれ、準備体操しているはずの左手が徐に胸に近づいているのは気のせいか?


 あ、待って、左手が本当に胸を……これはあれだ。


 非陳述記憶による無意識行動!


 非陳述記憶とは行為そのものの記憶、身体に染み込んだ記憶だ。


 フレディーはまだ完全には私の身体を動かせない。

 故に、私がいつも一発かましている時の行動が無意識のうちに行動に移してしまっているのだ!


 つまり、左手が無意識に胸を揉みくだそうとしている!


 人生最高潮を迎えた私にダイレクトな刺激はダメだ!

 いやフレディーに揉めとお願いしたのは私だから本望なのか……?

 それでも、あ、左が胸に触れ───


『───ぐわっ! あ、あれ? 追い出された?』


 フレディーは私の身体から投げ出されるように勢いよく飛び出す。


 フレディーは私に視線を向けながら。


『大丈夫ですかエリンさん……あ』

「………………んぁっ」


 この汚い哀れな女を見ないでくれフレディー。

 純粋な美青年が見てはいけない光景なんだ。


 私は悶え痙攣する身体を必死にうずくまって抑えるも、もう身体が限界のようで、新鮮な魚の如くベットの上でピチピチ跳ねていた。


 そんな私に小説を書き書きしていたナンシーが一言。


「せめて声は抑えてくれ、その、集中出来ないからさ……」


 いつもの強めな口調が弱々しく聞こえた。

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