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第15話 平和を待ち侘びて〜私の大切な愛おしい人間だ〜【完】

「似合ってるじゃないかフレディー、病院での服装でも思ったが、白い服が爽やか雰囲気とピッタリじゃないか」

「へへ、ありがとうございます。エリンはまだドレス着ないんですか?」


 本体フレディーと出会ってから三ヶ月。


 交わした婚約を果たす為、私達は結婚式を挙げる準備に取り掛かっていた。


「ドレス? もう私は着てるじゃないか」

「……どう見ても作業着ですけど」


 私の作業着の襟をなんとなくいじるフレディー。この作業着は、三年目私がプレス地獄を送っていたのと同じモノだ。


「だってここの場で結婚式をするなら、一番打って付けの服装だろう?」

「そうですけども」

「それに、フレディーと初めて会った日も作業着だったんだ。あの思い出を、私は大切にしたいんだ」


 結婚式会場は、私達が初めて出会った場所の工場だ。


 第二次世界大戦に向けて、兵器とサブマシンガンを作っていたここの工場は、終戦と共に営業を止めた。

 取り壊す金も無いのか、はたまた面倒なだけか、ほったからかしにされているのが現状だ。


 そんな哀れな工場を結婚式場にしたのは、終戦で朽ち、平和が訪れたという解釈も出来るし、兵器を作っていた場とは言え会場にしようと決めたのだ。


「エリンらしいですね、僕も作業着姿のエリンを久々に見れて嬉しいですし」

「えへっええ? フレディー私の作業着姿に欲情してるって? 結婚式前に一発かます?」

「……もう」


 フレディーは相変わらずですねな目線を向けながら、私の顎に手を添え唇を奪う。


 これって顎クイじゃん!

 一発かますの半分冗談を受けてくれるなんて……興奮しちゃうじゃないか…♥


 お返しに抱きついてズコズコ舌で犯したいところだが、生憎フレディーは白スーツ姿。作業着の私がひっつき虫したら大変なことになってしまう、ここは我慢だ。


 うん、いつもなら我慢言っといて我慢してないけど、流石に我慢だ。


「……んッ」


 エリンはがまんしている……の状態を解かすように、フレディーは自然な感じで舌を入れて来た!


 え?

 フレディー君そんな事してさあ、本当にかましちゃうよ?

 いいの?


 私はフレディーの両肩を掴みんで少し離す。


「流石にエッチだぞフレディー」

「え、何がですか?」

「舌入れるのはエッチな時だけだ」


 説得する私に、フレディーはキョトンとした表情で言う。


「キスの時、いつも舌入れて来るじゃないですか」


 ……あれ、確かにキスの次いでにディープしてたような。なんならフレディーと口移ししてる時もしてたな。


 ファーストと二回目以降、ディープじゃないキスってしたっけ???


 なるほど、フレディーはキス=ディープだと思ってるんだな。美青年の洗脳完了しちゃったか~へへへ、じゃあ遠慮なくしちゃお。


 結局舌でズコる私の元に、準備室のドアを開けて入ってきた人間が一人。


「うわぁ……結婚式でもイチャラブしてるとか、前世は猿だったんじゃないか?」

「あ、久しぶりだねナンシー、元気にしてた?」


 作業着姿ではない、しっかりおめかししたナンシーがそこにいた。


「ふふっなんか面白いな」

「な、何が面白いんだよ! お前の場違いな作業着とイチャしてる方が頭一つ抜けて面白いだろ!」


 来て早々怒るナンシー。初対面の時からずっとこんなで変わらないな。


 ナンシーが先程までズコられていた赤面美青年に目線を移して。


「……本当に夫が実在したなんてな、しかもエリンに釣り合わないような美貌……やっぱり無理やり脅して?」

「……」

「え? 本当に脅したの? なんだこの沈黙は!?」


 初対面で無理やり押し倒そうとしてたしね、否定出来ない☆


 フレディーはぺこりとお辞儀してご挨拶。ナンシーもぺこりとお辞儀。

 偉いね~ナンシーちゃん~お辞儀出来るの~、私はナンシーに挨拶なんてされたことないのに~。


 何かを察して睨んできたナンシーちゃん。妙な空気を変える為、違う話題を振ろう。


「四ヶ月ぶりなのに、なんか長年会ってなかった気がするな~」


 睨んでいたナンシーは目を尖らせて。


「そんなに、その、私と会いたかったのか?」

「全然」


 激おこナンシーに馬乗りにされて、髪を引っ張られる私。もうやめてくれ、その綺麗な服が私の作業着で汚れるぞ?


 戦う私達にフレディーは微笑み掛ける。


「二人はとても仲良しなんですね」

「「んなわけあるかよ!!」」

「あ、そろそろ時間ですよ。用意全部出来てますよね?」


 ササッとお互いに立ち上がり身だしなみを整える。髪は水でも付けておけばいいだろう。


 入場時間か、なんか緊張してきたな。

 会場が工場で、日常感あるとは思ってたけども……歩く仕草とか諸々見直して置けばよかった。

 ま、隣歩くフレディーにぜ~んぶ任せちゃえばいっか!(丸投げ)


 ドアを開けて退出しようとしたナンシーは、振り返って私達に伝える。


「何はともあれだ。……良かったな、エリン。おまえが求めていた幸せと平和が手に入ったんだ。今日くらいは祝ってやるよ」


 目を細めて薄く笑いながら、ドアの向こうえ消えていった。


 全く、素直じゃないやつだな。

 ……有難く頂いて貰うよ。


「良い友人が居て羨ましいです」

「フレディーが招いたお客さんも、仲良さそうな奴らがたくさんいたぞ?」

「……僕達の姿を見せたかった友人は、もう居ないんです」


 友人、フレディーと共に戦場で戦い、命を落とした者なのだろう。バスの中で語っていたな。

 もしかしたら、私達の結婚式に来て欲しいとか言っていたかもしれない。

 でもそれってめちゃ死亡フラグになりそうだからさ、戦場で結婚とか言わない方がいいぞ?


「まあ、きっとどこかで見てるさ」

「僕みたくふよふよ浮いてるかもしれませんしね」

「幽霊とか私信じてないよ」

「え~生霊が見える人間が言っていいセリフなんですか~……あ、心霊系って怖かったり?」

「……もうこの話やめないか?」

「へへへ、またひとつエリンの弱点を知ってしまいましたね」


 会話を楽しむ私達に仕事人から、入場するので来てくださいと声をかけられる。


 無駄に大きな工場のドアは、比例するように巨大な扉になっている。ドアのとってを仕事人がそれぞれ二人、開ける準備を整える。


 このドアが空いた先に、フレディーと初めて対面したあの場所がある。


 ふう、緊張に緊張が重なって心臓バクバクしてきた。ひっひふーしなければ。


 硬直気味の私の手に、優しく手を握られる。


「緊張してますか?」

「そこまでかな」

「緊張してますよね?」

「……うん」


 私の横で、フレディはいつもの爽やかな笑顔を見せる。


「無理しなくてもいいんですよ、隠したがりなエリンでも、僕にはお見通しなんですから。それに、僕も同じように緊張してますよ?」

「へえ、フレディーも緊張するんだな」

「僕を何だと思ってるんですか」

「属性渋滞青年?」

「なんですかそれ……」

「あとはそうだね、私の大切な愛おしい人間だ」

「……それは入場してから言うセリフですよ」


 ああ、こうして言葉を交わすと、不思議と落ち着いて来るものだな。


 握られた手を、フレディーは優しく握り返す。


「僕にとってもエリンは、大切で愛おしい人間です」


 二人して微笑みかけるラブ空間に、後ろから声が掛けられる。


「まだおまえ達はイチャイチャイチャイチャ……動いてないと死ぬマグロか何かなのか?」

「あれ、またナンシーじゃん」


 軽くやあとフレディーに手を振るナンシー。なんかフレディーと仲良くするのは気が障るな、私の夫に気安くしないで欲しい。


 おめかしナンシーの手には、二匹の白い鳥が入った鳥かごを持っていた。


「それは?」

「白い鳩だね。会場で、おまえ達がいつもしてるお得意のキスシーンをする時に飛ばすんだ」


 フレディーと顔を見合わせる。キスシーンに鳩を飛ばして何が楽しいんだ?


「あ~鳩を飛ばす理由を聞きたいのか? キリスト教徒の友人から聞いた話でね、鳩は平和の象徴らしいんだ。まだ広く浸透していない文化だが、おまえ達にはピッタリだろ? ちなみに白いのを選んだのは私の趣味」


 そう説明して自慢げに笑うナンシーから、鳥かごをヒョイと奪う。


 ポポポと鳴く二匹の鳥。

 暴れることも無く、大人しく籠の中で止まっている。


 鳩を近くでじっくり見たのは初めてだな。


 私と同じように鳩を見つめるフレディーは、可愛いですねと呟いている。


 そんな時、扉の向こうからご入場の声が掛けられる。とうとう出番が来たようだな。


 ナンシーが鳥籠を持とうとしながら。


「時間だ、返して」

「ヤダー」

「はあ? こんな時に謎反抗するなよ……あ、扉空いちゃうってぇ」


 扉が今にも開きそうでアワアワしだすナンシーと、もう慣れましたよな顔をして爽やか通常運転しているフレディー。


「ねえ、一緒に鳥籠を開けないか?」

「僕とですか?」

「もちろん。これ鳥籠のくせして両扉になってるからね」


 フレディーは私の持つ反対側の、鳥籠の片側を持ち、扉に手を添える。


「でも今開けてもいいんですかね」

「どうせ開けるんだ。今開けてもなんなら変わらないし、何よりずっと鳥籠に囚われてるのは可哀想だ」


 鳥籠、その場に囚われ行きたい場所に行くことが出来ない、安全を引き換えに鳥から自由を奪うものだ。

 その安全は果たして平和と結びつくのか……平和と言えるとしても、私は違うと思うんだ。


「フレディー、結婚式を終えたら、よくある新婚旅行を満喫しよう。その後も、フレディーと色々な場所を旅したいんだ」


 場を転々とする行為は危険が伴う。ただ、幸せに走る行動は、危険が伴うとしても平和と呼べるものでは無いだろうか。


 イギリス人の美味いはハードルが低いからな、どこに行っても美味しい食べ物が食えると思うとワクワクしてくる。

 今までとは違って、憑依せずともフレディーと一緒に食事が出来るしな。観光、食事、宿泊施設でお楽しみの三つが同時に楽しめるのは中々ないぞ!


 フレディーは笑顔を向けながら言う。


「とても楽しみですね」

「ああ、私も楽しみだ」


 目の前の大きな扉がギシッと音を立てて開く。工場の扉だから、開ける動作ひとつで大きな物音が出てしまうんだよな。


 入り込む眩しい光と拍手に包まれる私達は、鳥籠の扉を開けた。


 二匹の白い鳩は元気良く飛び立ち、二枚の白い羽がふわりと落ちる。


 私達は平和を手に入れたんだ。しかし平和はいつ崩れるかは分からない。

 戦争もまた起きるかもしれないし、色々壁に当たることもある。


 だから、私達でもっと幸せと平和を作って行こう。この先もずっと……互いにの心に寄り添って歩んで行くんだ。


 どうかなフレディー、今後の人生の楽しみに待ち侘びて来ないかい?





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