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第11話 子供を待ち侘びて〜子作りするぞ〜

 病院に向かう為、私達はバスに乗って揺れていた。

 蒸気機関車とは違い人が多く乗っており、席に座れず私は立ってゆらゆら。


『見てください、あの子風船持って大はしゃぎしてますよ。可愛いですね~』


 私の横で、同じように立って窓を見ているフレディー。街中の景色に溶け込む、赤いゴム風船を持った女の子がわきゃわきゃ声を発しながら笑顔を振りまいていた。


「フレディーは子供が好きなんだね」

『もちろんですよ。子供達の笑顔や仕草、元気を貰えますからね』


 フレディーは風船を持った女の子と負けない笑顔を私に向ける。私も、フレディーの笑顔や仕草から元気を貰っているのだ。私もフレディーに元気を分けられているだろうか?


 そういえば、フレディーと初めて会った三年目のあの日もフレディーは笑顔だったが、あの時は爽やかで涼しげ、そして寂しそうな笑顔だった。

 子供のように満面の笑みなフレディーを、最近よく見かけるのは嬉しい事だ。


『エリンも子供は好きですか?』

「私は……どうだろうな。一人っ子だったし、従兄弟も遠く離れた場所にいたから分からないんだ。ただ、可愛いって思ったりはする」

『好きになりますよ。それに、その、いずれ授かる子供はエリンに似るんですから、可愛いに決まってます』


 少し照れくさく言うフレディー。


 私に似た子供……?

 ……はっ!

 私とフレディーの間に生まれる子供ってこと!?


「フレディー」

『ん、なんですか?』

「子作りするぞ」


 もちろん今日病院でな!


 急な私の発言に、フレディーは硬直してしまう。なんなら周りの乗客まで硬直しつつ私を凝視してきた。


 あ、周りからすれば、私は独り言を連呼する変態マシーンだったことを忘れていた。

 いや、見えていても言っちゃダメか、はっはっはっー。


『何言ってるんですか? まだ宿泊施設気分なんですか? ここ公衆の場で問題発言しないでください』


 ちゃんと私にお叱りをするフレディーも可愛いな。あいや、反省はしてるぞ?

 うん、とりあえずバスから出るまでは会話を控えよう。


 私は手を合わせて謝りジェスチャーをして、周りの乗客達にもすみませんでしたと行儀良く言う。……言うて行儀良いか?


 一段落した私の上着の裾を、後ろから引っ張る感触がする。


 振り向くとそこには背の小さな子供が一人。可愛げな帽子を被った女の子が興味津々な顔で言ってきた。


「お姉さん、そこの浮いてるお兄さんは誰?」

「……え? 見えてるの?」


 キラキラ光る目をしながら、激しく首を縦に振ってそうだよと伝えてくる女の子。


 私とフレディーは思わずお互いに顔を見合わる。


 私以外にもフレディーが見える人がいるとは驚きだ。子供って霊感強いって聞いたことあるが……うう、私だけ見えるっていう特別感が薄れてしまって少し悲しいな。


 フレディーが女の子の目線に合わせるように、ふわふわと体勢を下げる。


『僕の声聞こえる?』

「うんっお兄さんの声聞こえるよ!」


 大きな声でそう応える女の子のもとに、女の子の父と母が来て。


「すみません、この子少し目を離した隙に……さあ席に戻るよ」

「いやいやっお兄さんともっとお喋りするの!」


 一連の騒ぎに周りの乗客がざわめきだす。


 えと、これは何をすればいいのだろうか?

 落ち着かせる?

 いや……一度バスを降りて別のバスに乗り換えた方がいいかもなあ。


『ね、僕が君の座ってる場所に行くから、いい子に座ってお喋りしようね?』

「いいの? うん、いい子に座るよ!」


 フレディーッ!

 なんて大人な対応なんだ!

 やっぱり心が綺麗で澄んだ人間のとる行動は違うなあ。性欲にまみれた私と大違いだ。


 女の子は元にいたであろう席、父親の膝上に座ってフレディーとニコニコお喋りを始める。今日の食べたご飯が美味しかったことや、女の子が飼っている犬が可愛いことを自慢したりなホンワカ雑談だ。


 私も混ざりたいなあ。

 てかフレディーを独り占めしてあの女の子ずるいじゃないか。私の夫に告白したりしないだろうな?


「ねえねえお兄さん! 私が大きくなったら結婚しよ!」


 うわあああああっ言わんこっちゃない!

 でもここでフレディーと女の子の会話を遮るにはいかないんだ……くいいいっ、が、我慢せねば……


『ごめんね、僕はあそこにいるお姉さんと結婚するんだ』


 フレディーが手をパーの形で私を示めす。女の子がくいっと私に振り向くと、頬をめいいっぱい膨らませて睨んでくる。

 

 ごめんね?

 けど絶対渡さないよ?

 

 私の隣で立っていたおばあさんが私に語りかける。


「おまえさん、本当にそこに夫さんがいるんかい?」

「え……はい、私の夫は生霊でして、信じて貰えないと思いますけども」


 私とおばあさんの会話を聞いた周りの乗客が次々に口を開き。


「私の席と変わりますか? ここの席旦那さんの近くのはずなので」

「お兄さんとやらはどう見えてるんだい?」

「独り言も全部旦那と喋ってたなんてな、驚きだよほんと」


 私に全てのセリフまでは聞き取れず、まあ私の夫はイケメンですから! と適当に謎自慢をしながら女の子の母親の隣に座る。

 私同様にフレディーにも声がかけられており、女の子がお得意に通訳係をしていた。


『それでね、僕はエリンに憑依出来るんですよ』

「憑依?」

『あ~身体を借りて喋ったり食べたり走ったり出来るようになるんだよ』

「面白そう、憑依見たいなあ」


 これはもう私が憑依される流れじゃん。

 で、憑依された。


 明らかに挙動が変わった憑依中の私に乗客達は驚き、第二回質問攻めが開催された。ちなみに、女の子は何故か私の膝元にいつの間にか座っている。とても満足そうだ。


 その内、フレディーと私の馴れ初めの話から、フレディーの戦争経験の話に移り変わっていった。

 女の子を含む子供達が何人か居るので、フレディーはキツい描写を言うのは控えて慎重に話を進めていた。


 常に緊張状態でぐっすり眠れなかったこと。

 大切な友人が目の前で亡くなってしまったこと。

 笑うことを忘れてしまっていたこと。

 普及される食べ物の味を次第に感じられなくなっていったこと。

 多大なストレスで、見えていたカラフルな景色が、モノクロの世界と化したこと。


 そんな話を聞いた乗客は涙を流し、私達に応援の言葉をくれた。素直に嬉しいものだ。


 フレディーが戦場でどのような生活をしていたのか、私も初耳だったこともあり真剣に聞いていた。胸が締め付けられるこの感覚、そうだ、フレディーの身体状態を知った時と同じものだ。


 ……そうか、ずっとフレディーと手を透かして交差していたが忘れていた。

 私はフレディーと手を繋ぐことが叶わないんだ。

 それだけじゃない。手を握り合うことも、頭を撫でられることも、あーんをされることも、抱き寄せられることも……


「ねえお兄さん、なんで泣いてるの?」

『ん? なんて?』


 女の子が憑依中の私に向かって言った言葉に、私は現実に引き戻される。


 私は何考えてるんだ、こんなこと、私は望んでなんか無いんだ。私はフレディーの傍に居るだけで幸せなのに。どうして。


 バスが横に駐車される。

 もう目的地に着いたようだ。


 ……フレディー、憑依を解除してくれ。


「分かりました、ああ、僕達はここで降りるので。じゃあね」


 女の子を私の両手で優しく下ろしたフレディーは、私の身体から抜ける。


 私は解除されたと同時に急いで顔を拭った。フレディーにはまだ見られてないはずだ。


「じゃあまた何処かで」


 そう言い残し、私は笑顔でバスから去る。

 女の子とお別れを済ませたフレディーが、遅れて私についてくる。


『エリン、大丈夫ですか?』

「大丈夫ってなんだ? 私はどうもこうもしてないぞ? それよりフレディーに会えるんだ、急いで向かうぞ!」

『……もう、心配かけないでくださいよ』


 私は早歩きで目の前に迫る大きな病院に向かう。大丈夫、私の思考の全てがフレディーに伝わっている訳じゃないんだ。聞かれていないはずだ。


 フレディーにこの思いがバレることはない。


 ……この思いって、何だ───

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