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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第九章

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95 竜王との謁見



「アーネスト」


 竜王が真っ先に声をかけたのはアーネストだった。


「王太子ではなくなったと聞いた。なぜだ?」

「理由を聞いていないのか?」

「婚約のことで問題が起きたと聞いた。だが、その程度のことで王太子位を返上するのはおかしい。別の理由に決まっている。ミザリーのせいか?」

「その名前を口にするのは禁じられている。今は違う名前だ」

「しまった! ティアラだった!」


 竜王は気づいた。


「聞かなかったことにしてほしい……」

「わかった。代わりにリオンの話を聞いてくれないだろうか? あくまでも聞くだけだ。それを聞いてどうするかは竜王次第でいい」

「どんな話だ?」

「竜貨幣の話です」


 リオンはヴァルールとの輸送業に従事する竜族たちが困っていることを伝えた。


「多くの者はこの話を聞き、報酬が少ないことや仕事量が減るといった部分に目がいきます。ですが、僕が伝えたいのは別のことです」

「別のこと?」

「説明します」


 竜銅貨は古い時代からあるせいで金属としての質が悪く、刻印についても他の貨幣に比べて雑、使われ過ぎて刻印が薄くなってしまっている。


 そのような貨幣は他の貨幣に比べると価値が低いと判断されてしまい、両替レートが非常に低いまま推移している。


 そのような貨幣を大量に持っている竜族たちは、懸命に働いても交換レートで損をしてしまう。


 もし、竜貨幣の価値が高ければ、交換レートがよくなる。


 竜族が手に入れる王国貨幣の量が増え、ヴァルールで活用できる。


 ヴァルールとドラクーンの関係をより多く強くできるというのに、そのことが重視されていない。


 このままでは竜銅貨の価値が上がらないだけでなく、間接的に竜族やドラクーンに対する印象の悪化や軽視にもつながってしまう。


 それを防ぐためにも竜王が竜銅貨の品質を上げ、信用を上げる取り組みをした方がいい。


「これが僕の意見です。竜族が交換レートで損することなく正当な報酬を得られること、ヴァルールとドラクーンの関係がより強まることを願っています。竜王としてぜひともご検討ください」


 リオンが丁寧に頭を下げると、竜王は感心したとばかりに頷いた。


「さすがアーネストが引き取っただけある。リオンは優秀だ。そして問題が深く重要であることがわかった。竜族とヴァルールの関係を悪化させないためにも、早急に検討する」

「私もリオンの意見に賛成だ。金属貨幣の改善については早急に検討すべきだろう。必ず竜族のためになる」


 アーネストは竜貨幣から竜族の今後を推測するリオンの鋭さに感心していた。


「だが、鋳造技術を急激に進歩させるのは難しい。高額貨幣を多数鋳造することへの懸念もある」

「だったら、ドワーフに作らせてはどうだろうか? 私もドワーフに領貨を作ってもらっているが、高い技術を持っている。偽造されにくいため、高額貨幣にも適している」

「ドワーフか」


 竜王は考え込んだ。


「手始めに金貨あるいは銀貨だけでも頼んだらどうだ? ドワーフが喜ぶ報酬は金属と酒だ。ドラクーンでも用意しやすい」

「まあ、どちらも用意できるものではある」

「フリューゲルに貨幣の鋳造交渉を任せてはどうだろうか? 私も力を貸す」

「フリューゲルに?」


 竜王はフリューゲルに視線を変えた。


「だが、角が偽物だ。軽視される」

「それは竜族特有の考え方であって、他の種族の考え方とは違う。竜族が誇るべきは角ではなく、飛竜と共生しながら困難に立ち向かう勇壮さにあると私は思うが?」


 竜王はアーネストをじっと見つめた。


「さすがアーネストだ。デスと同じことを言うとは」


 アーネストは眉をひそめた。


「その名前も禁じられている」

「そうだった」


 竜王はがっくりと肩を落とした。


「ここだけの話だが、守秘義務は面倒過ぎる。細かく覚えてはいない」

「だったら名前も忘れればいい」

「それは無理だ。魔人の名前は覚えやすく忘れにくい」


 竜王はきっぱりと断言した。


「銅貨は改善する方向で検討する。フリューゲル、ドワーフに貨幣の鋳造を依頼できるか聞きに行け」

「わかった」

「リオン、竜族のためにヴァルールから来てくれたことに感謝する。進言は真摯に受け止める」

「ありがとうございます」

「アーネストにも感謝する。失言についてはくれぐれも内密に頼む。飛竜のことも。ドラクーン内の飛竜が激減したら困る」

「わかった」

「ところで、しばらくはここに滞在するのか? それなら客間を用意するが?」

「大丈夫だ。他にも同行者がいる。ドラクーンについて知るためにも、普通に泊まる」

「普通というのはどの程度の普通だ? 最高級ホテルのことか?」

「ごく普通のホテルだ。一般人が利用する宿泊施設と言えばわかるか?」

「角がないというのに、大丈夫なのか?」

「大丈夫だ」


 そう言うと、アーネストは魔法収納から角がついたヘッドバンドを取り出した。


「これをつけるだけで平気だ」

「竜族へのリスペクトをあらわすものです」


 リオンが説明をつけ足した。


「竜族は角を大切にしています。このヘッドバンドをつけることで、竜族の価値観を理解していることや尊重していることが伝わるのではないかと」


 アーネストとリオンはヘッドバンドをつけた。


「どうだろうか?」

「なかなか似合っている」


 竜王はアーネストやリオンを見ながら答えた。


「リオンは猫族の耳だ。角があるのはおかしいのだが、その辺りは気にならないらしい」

「確かにそうだな。だが、リオンの見目は優れている。そのせいで何でも似合うだけではないか? アーネストも同じだ」

「そうなのか?」

「新しい意見だね」


 リオンとアーネストは顔を見合わせたあと、互いの姿をじっくりと検分した。


「まあ、リオンは何でも似合いそうだ」

「アーネストも似合っているよ」


 アーネストはフリューゲルの方を見た。


「……幼少時の事故で角を損傷したと聞いた。どうなっているのかを見せてもらってもいいだろうか? もしかすると、魔法で治療できるかもしれない」

「それは無理だ」


 竜王が断言した。


「竜族の角は自身の魔力そのものだ。他の魔力に反発する。回復魔法は効かない。自然治癒もしない。どうしようもない」

「ドラクーンだけでなくさまざまな国の医者や魔法治療の使い手に診せた。だが、無理だった」


 フリューゲルは折れた部分につけている角を外した。


「なるほど。綺麗に折れた感じか」


 アーネストはじっくりと角の根元を見つめた。


「治療を受ける者の魔力が大量にあれば治りそうな気がする。試してみるか?」

「本当か?」

「「ぜひ、試してほしい!」

「わかった。少しだけビリッとするかもしれないが、動かないでほしい」


 アーネストはフリューゲルの折れた角に雷魔法を撃ち落とした。


「雷魔法?」

「治療ではなかったのか?」


 直撃を受けた角にフリューゲルの魔力が集まり、全力で反発する。


 次の瞬間、アーネストはフリューゲルの折れた角に成長魔法をかけた。


 大量の魔力を一気に消費したフリューゲルはよろめいてしまい、側にいたリオンに支えられた。


「うまくいったようだ」


 フリューゲルの頭上には失われたはずの角が生えていた。


「奇跡だ……」


 竜王は信じられないといった表情で驚いていた。


「角の治療するのは不可能だと思っていた!」

「普通の方法では無理だろう。角が折れてしまうと、成長するための起点がなくなってしまう」


 竜族の角は最初に生えた部分を起点として、上に伸びるように成長していく。


 角が折れてしまうと上へ伸びるための起点がなくなってしまい、角が上に伸びなくなる。


 そこで、アーネストはわざと雷魔法を角に直撃させた。


 竜族の角は自分の魔力そのもので、他の魔力や魔法に反発する。


 攻撃魔法に反発するようにフリューゲルの魔力が攻撃された場所に集まるのは、角の起点に魔力が集まって成長しようとする状態と似ている。


 その状態が失われない内に成長魔法をかけ、角を再成長させたことをアーネストは説明した。


「あまりにも斬新な治療方法だ!」


 竜王は感激していた。


「これで角を負傷してしまった多くの竜族が救われる。アーネスト、心から感謝する。竜族にとっての大発見であり、大恩人だ!」


 竜王は貨幣の改善だけでなく、角の治療についても全力で取り組むことを決めた。


「リオンがいなければ、竜族が抱えている問題に気付かなかった。リオンが竜族に寄り添って行動したことが全ての始まりだ」

「役に立つことができてよかった。でも、僕一人の力じゃない。アーネスト、フリューゲル、みんなのおかげだよ」

「多くの力が集まれば、新しい未来を切り開ける。リオンの言う通りだった」


 アーネスト……。


 リオンは満面の笑みを浮かべた。


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