92 元気を出して
自室に戻ったアーネストはベッドの上に横たわっていた。
常に冷静を心がけてきた。
工夫を重ね、あらゆる努力を続けてきたつもりだった。
だが、うまくいかないこともあれば、失敗もある。
人生には選択がつきもの。間違うことも、後悔をすることもある。
アーネストは自らの過去を顧みていた。
「アーネスト様」
ノックのあとに聞こえたのはミントの声。
「お腹が空いていませんか? 軽食とお茶を持って来ました」
「絶対ぐうぐうにゃ」
キティの声も聞こえた。
心配して様子を見に来てくれたのは明らかだった。
アーネストは重い心と体をなんとか浮上させると、ドアの鍵を外した。
「すまない。心配をかけてしまった」
「大丈夫ですよ」
ミントは優しく微笑んだ。
「ワゴンで運んで来たので、部屋に入ってもいいですか?」
アーネストがドアを開けると、ワゴンを押しながらミントが中に入り、そのあとにキティが続いた。
「危険な魔物って毒竜のことにゃ?」
キティに尋ねられたアーネストは驚いた。
「リオンから聞いたのか?」
「違います。本に載っていたのです」
ミントはヴィラージュを離れる人々が投げ売りしていた本を大量に持っている。
それを参考にしてキティは魔物図鑑を作成していたが、毒竜について書かれている本を見つけたことを伝えた。
「フォレスト・エルフから聞いた話をまとめた内容でした。毒竜が目撃されたのは大昔のことらしいので、あまり関係なさそうだとキティと一緒に話していたのです」
「そうか」
「まだいるなんてびっくりです。でも、私からすると毒竜も他の魔物も全部危険なので、なるようになるとしか言えません。取りあえず、アーネスト様に温かいご飯を食べてもらおうと思いました!」
「元気出るにゃ」
アーネストはミントとキティの気持ちが嬉しかった。
「ありがとう。心配しなくても大丈夫だ。魔物対策をしている国も人々も多くいる。私もその一人だ。ただ、力不足ではある。もっともっと頑張るつもりだ」
「アーネスト様は謙虚ですね。それとも、無自覚ですか?」
ミントはカップにお茶を注ぎ始めた。
「ヴィラージュをあんなに変えたのに、力不足のわけがないです。私から見れば、びっくりするぐらい力がありますよ?」
「すごい領主にゃ」
「まだまだ不十分だ。より整備を進め、必要な施設を増やし、物資を確保しなければならない。少しずつしかできないのがもどかしいぐらいだ」
「少しずつでいいじゃないですか」
ミントは答えた。
「みんなで協力し合う体制はできています。少しずつでも進めることができれば、目指すものに近づいていけます」
「アーネストはちょっぴり休むにゃ」
キティも伝えたかった。
「ヴァルールだって頑張っているにゃ。ちょっとずつ大きくなって、ちょっとずつ強くなっているにゃよ」
「ヴァルール王のおかげですね。困っている人々を助けるために避難所を作りました。最初は小さな避難所だったと思います。でも、その取り組みがあったからこそ、これほど大きな都市ができました。毒竜への対策には苦労しているみたいですけれど、魔境内の拠点づくりは大成功ですよ!」
「ミントの言う通りにゃ!」
アーネストの頭の中に浮かんだのは小さな家。
それが大都市に変貌した。
世界中から集まった者が魔物と戦っているという事実、その力強さをアーネストは感じた。
「明日、リオンはフリューゲルという竜族と会うそうです。竜王に会いに行く話をしているとか。だったらみんなでドラクーンに行こうって話も出ています。アーネスト様も一緒に行きませんか?」
「ドラクーンに?」
アーネストは驚いた。
「他種族の国って気になるじゃないですか。観光です!」
「美味しいもの、見つけるにゃ!」
「エアリスも乗り気ですよ。新しい素材がないか市場を見たいそうです」
アーネストは困った表情をした。
「竜族は他種族に冷たく厳しい。ドラクーンは安心して観光できるような国ではないのだが」
「リオンに秘策があるらしいです」
リオンが何を考えているのか、アーネストは気になった。
「私とキティはお店があるので話し合いに同席できません。でも、エアリスとジスさん、レイディン様とセレスティーナ様も同席するそうです。みんな、ドラクーンに行きたくてたまらないみたいです」
アーネストはウキウキするレイディンやセレスティーナを思い浮かべた。
「アーネスト様も明日の話し合いに参加したらどうですか?」
「明日は予定がある。リオンに任せておけば大丈夫だろう」
「そうですか。では、冷めないうちに召し上がってくださいね」
「元気モリモリにゃ」
ミントとキティはそう言うと部屋から出ていった。
アーネストは湯気がたつカップに視線を向けた。
「見るだけで心が温まりそうだ」
しかし、アーネストの中にある強い気持ちは変わらない。
「リオンに声をかけるとは……」
明日の予定、それはフィアーに会うことだった。




