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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第九章

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92 元気を出して



 自室に戻ったアーネストはベッドの上に横たわっていた。


 常に冷静を心がけてきた。


 工夫を重ね、あらゆる努力を続けてきたつもりだった。


 だが、うまくいかないこともあれば、失敗もある。


 人生には選択がつきもの。間違うことも、後悔をすることもある。


 アーネストは自らの過去を顧みていた。


「アーネスト様」


 ノックのあとに聞こえたのはミントの声。


「お腹が空いていませんか? 軽食とお茶を持って来ました」

「絶対ぐうぐうにゃ」


 キティの声も聞こえた。


 心配して様子を見に来てくれたのは明らかだった。


 アーネストは重い心と体をなんとか浮上させると、ドアの鍵を外した。


「すまない。心配をかけてしまった」

「大丈夫ですよ」


 ミントは優しく微笑んだ。


「ワゴンで運んで来たので、部屋に入ってもいいですか?」


 アーネストがドアを開けると、ワゴンを押しながらミントが中に入り、そのあとにキティが続いた。


「危険な魔物って毒竜のことにゃ?」


 キティに尋ねられたアーネストは驚いた。


「リオンから聞いたのか?」

「違います。本に載っていたのです」


 ミントはヴィラージュを離れる人々が投げ売りしていた本を大量に持っている。


 それを参考にしてキティは魔物図鑑を作成していたが、毒竜について書かれている本を見つけたことを伝えた。


「フォレスト・エルフから聞いた話をまとめた内容でした。毒竜が目撃されたのは大昔のことらしいので、あまり関係なさそうだとキティと一緒に話していたのです」

「そうか」

「まだいるなんてびっくりです。でも、私からすると毒竜も他の魔物も全部危険なので、なるようになるとしか言えません。取りあえず、アーネスト様に温かいご飯を食べてもらおうと思いました!」

「元気出るにゃ」


 アーネストはミントとキティの気持ちが嬉しかった。


「ありがとう。心配しなくても大丈夫だ。魔物対策をしている国も人々も多くいる。私もその一人だ。ただ、力不足ではある。もっともっと頑張るつもりだ」

「アーネスト様は謙虚ですね。それとも、無自覚ですか?」


 ミントはカップにお茶を注ぎ始めた。


「ヴィラージュをあんなに変えたのに、力不足のわけがないです。私から見れば、びっくりするぐらい力がありますよ?」

「すごい領主にゃ」

「まだまだ不十分だ。より整備を進め、必要な施設を増やし、物資を確保しなければならない。少しずつしかできないのがもどかしいぐらいだ」

「少しずつでいいじゃないですか」


 ミントは答えた。


「みんなで協力し合う体制はできています。少しずつでも進めることができれば、目指すものに近づいていけます」

「アーネストはちょっぴり休むにゃ」


 キティも伝えたかった。


「ヴァルールだって頑張っているにゃ。ちょっとずつ大きくなって、ちょっとずつ強くなっているにゃよ」

「ヴァルール王のおかげですね。困っている人々を助けるために避難所を作りました。最初は小さな避難所だったと思います。でも、その取り組みがあったからこそ、これほど大きな都市ができました。毒竜への対策には苦労しているみたいですけれど、魔境内の拠点づくりは大成功ですよ!」

「ミントの言う通りにゃ!」


 アーネストの頭の中に浮かんだのは小さな家。


 それが大都市に変貌した。


 世界中から集まった者が魔物と戦っているという事実、その力強さをアーネストは感じた。


「明日、リオンはフリューゲルという竜族と会うそうです。竜王に会いに行く話をしているとか。だったらみんなでドラクーンに行こうって話も出ています。アーネスト様も一緒に行きませんか?」

「ドラクーンに?」


 アーネストは驚いた。


「他種族の国って気になるじゃないですか。観光です!」

「美味しいもの、見つけるにゃ!」

「エアリスも乗り気ですよ。新しい素材がないか市場を見たいそうです」

 

 アーネストは困った表情をした。


「竜族は他種族に冷たく厳しい。ドラクーンは安心して観光できるような国ではないのだが」

「リオンに秘策があるらしいです」


 リオンが何を考えているのか、アーネストは気になった。


「私とキティはお店があるので話し合いに同席できません。でも、エアリスとジスさん、レイディン様とセレスティーナ様も同席するそうです。みんな、ドラクーンに行きたくてたまらないみたいです」


 アーネストはウキウキするレイディンやセレスティーナを思い浮かべた。


「アーネスト様も明日の話し合いに参加したらどうですか?」

「明日は予定がある。リオンに任せておけば大丈夫だろう」

「そうですか。では、冷めないうちに召し上がってくださいね」

「元気モリモリにゃ」


 ミントとキティはそう言うと部屋から出ていった。


 アーネストは湯気がたつカップに視線を向けた。


「見るだけで心が温まりそうだ」


 しかし、アーネストの中にある強い気持ちは変わらない。


「リオンに声をかけるとは……」


 明日の予定、それはフィアーに会うことだった。


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