90 凄いお土産
ヴィラージュに戻ったアーネストは大量の輸送品を担当者に渡し、問題が起きていないかを確認した。
順調に都市整備が進んでいることを確認したあとは、フォレスト・エルフの町へ行く。
族長のエルフリードと会って毒竜のことについて話し合い、有事の際は協力し合うことを約束した。
更に足を向けたのはドワーフの鉱山。
毒竜及びその襲撃時について尋ねたところ、ドワーフは全く問題がないと答えた。
鉱山内の岩盤は強く、坑道を作りながら設置する支柱によって、内部空間の強度が増すように工夫している。
鉱山内の空気が常に清浄に保つための魔法植物も植えていた。
但し、坑道は小さな体であるドワーフサイズで、他種族だと立って歩くことはできない。
他の種族が避難するために坑道のサイズを変えることはできないというのがドワーフ側の意見だった。
「わかった。これは手土産だ」
アーネストがヴァルールで手に入れた酒を取り出すと、ドワーフは大声で喜び合う。
これからも互いにうまく付き合っていこうということで話し合いは終了した。
アーネストは加速魔法を使ってヴィラージュへ戻る。
領主として、少しでも多くのことをしておきたい。
改善の成果はしっかりと出ており、食料問題は解決。生活水準も向上。心安全に暮らすための都市計画も緊急時に備えた対策も進んでいた。
「できるだけ早く進めなければ……」
人間は短命種。寿命が尽きるまで生きている保証もない。
突然の事故や病気で死ぬ可能性もあるだけに、時間的猶予は長命種よりもはるかに少ない。
ヴィラージュ領の対策だけで一生を終えてしまうわけにはいかないとアーネストは思った。
週末。
「おかえりにゃ」
ヴァルールの家に戻ったアーネストを出迎えたのはキティだった。
「お土産あるにゃ?」
「ある。だが、菓子ではなくその材料だ」
「小麦粉にゃ?」
「正解だ」
アーネストはキティの頭を優しく撫でた。
「ヴィラージュは辺境領だ。徐々によくなってはいるが、ヴァルールに比べてしまうと何もないに等しい。土産は難しいからな?」
「そんなことないにゃ」
キティが答えた。
「ヴィラージュにはすごいものがあるにゃ。土産になるにゃ」
「すごいもの? 何だろうか?」
「アーネストにゃ。みんなをまとめるすごい領主にゃ。ここに帰ってくるのが、キティには一番のお土産にゃよ」
アーネストの胸に強い喜びが込み上げた。
使命感もまた。
「頑張る」
真剣な表情で答えるアーネストの姿は、キティの予想とは違った。
「どうしたにゃ? 何かあったにゃ?」
「予想外の答えで驚いた。嬉しい。とにかく頑張ろうと思った」
「本当に嬉しいにゃ?」
「言葉にできないほど嬉しかった。大丈夫だ」
アーネストは微笑むと、キティの頭を優しく撫でた。
「ミントは?」
「キッチンにゃ」
「一緒に行こう」
アーネストとキティはキッチンへ向かった。
「おかえりなさい! 食材はありますか?」
アーネスト見た瞬間、ミントはヴァルール産の食材について尋ねた。
「ある」
「ありがとうございます! 最高のお土産です!」
「ミント、アーネストが来ると食材が来たって思っているにゃ」
「そ、そんなことないですよ!」
ミントはそう答えたが、正解なのが明らかだった。
「前にも言ったが、食材はヴァルールにもある。自由に使っていい資金も置いていったはずだが?」
「ミントはケチにゃ。ヴァルールは物価が高くてお得じゃないって言うにゃ」
「節約家と言ってください。お金を使いたくないわけではなく、できるだけ有効に使いたいだけです!」
普段は財布の紐をしめ、必要な時やいざという時にまとめて使うのがミントの主義だった。
「小銭も積もり積もれば山になりますからね。エアリスの小銭がすごかったのを思い出してください」
「確かに山になってたにゃ。キティ、埋もれてしまいそうだったにゃ」
「持ってきた食材は貯蔵庫や冷蔵庫に入れておく」
「わかりました!」
「実は私も食事の当番をしようと思っている。週末だけになってしまうが、どうだろうか? ヴィラージュで少しずつ練習した」
「アーネスト様は本当に努力家ですね。でも、アーネスト様の負担が増えてしまう気がします」
当番制は日々の負担を減らすためにある。
ヴァルールの家にいる者は、週に一回か二回の当番をすれば、他の日は何もしなくても温かい夕食が食べられる。
だが、アーネストは週末しかヴァルールにいない。ヴィラージュでは自分で食事を用意しているだけに、週末ぐらいは他の者に任せればいいというのがミントの考えだった。
「私の料理をアーネスト様にも食べていただきたいですし、ヴァルールには飲食店がたくさんあります。みんなで食べ歩きするのもいいじゃないですか」
「全員で外食する日にするわけか」
「良い香りがする」
エアリスが部屋からやって来た。
「カレーはいくら食べても飽きない」
「パンも食べてください。バランスよく食べないと栄養が偏ります。病気になったら困りますよね?」
「エアリスに朗報だ。ニンウィーが販売員をやってみたいと言っている。どうだろうか?」
アーネストはエアリスの店を手伝ってくれそうな者をヴィラージュで探してみた。
「非常に嬉しい。だが、ヴァルールに来るには手続きが必要だろう?」
「それは私の方でできる。取りあえず、ニンウィーに返事をしてもいいか?」
「ここに住むのか?」
「そうだ。短期間だけでもいいとは思っている。広い世界を感じる経験になるだろう」
「そうだな」
「ますますにぎやかで楽しくなりそうです!」
「ウサギ族も追加にゃ!」
ミントとキティもニンウィーが来ることを歓迎した。
「ところで、香りはカレーだというのに見た目が赤いな?」
「トマトカレーなのです」
「それでか」
「昨日はジスさんが用意したココナッツカレーでした。アーネスト様にも食べさせたかったです」
「あれは甘かった。私は辛い方がいい」
「エアリスは当番の日に激辛のカレーを用意したんです。キティやリオンの舌が死んじゃいますよ!」
「普通のも用意しただろう? 辛さを選べる店があって、そこのカレーをいくつか買ってきた」
「いろいろなカレーを食べ比べているのか」
「今週はカレー週間なのです」
トマトカレーをかき混ぜながらミントが答えた。
「当番が工夫して違う味のカレーを用意しています。毎日カレーですけれど、全然飽きません!」
「カレーうまにゃ」
「カレーに関連した知識を披露し合うのもいい」
「勉強にもなっています」
「楽しい話もいろいろと聞けそうだ」
種族に関係なく人々が集い、大きな家族になっている。
そのための場所がある。
守りたい……家族も、人々も、そのための場所も。
だからこそ、自分は頑張るのだとアーネストは思った。




