87 深い事情
メリークリスマス!
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
かなり寒くなってきていますので、温かくしてお過ごしくださいませ。
翌日。
リオンは統治宮へ行き、レオンへの面会を申し込んだ。
「やっぱし来たか……」
「申し込み用紙とか、必要そうな書類を持って来た」
「投資なんかどうでもいいんだけどなあ」
「僕のためだと思って」
「どう考えてもそうだな」
レオンは申し込み用紙に記入した。
「大公は何か言っていた?」
「武装品の監視を強化するらしい。とにかく、一番ほしい人材をさっさと探せって」
「ヴァルールには多くの人々がいる。統治関係者は貴族のようなもので、なりたいと思っている者が多いと聞いている。それでも人材不足なんだ?」
「ほしい人材ほど魔法契約を嫌がる。高い報酬をもらえても、命がかかっているとなれば話は別だ。一番ほしい人材は該当者がいない」
「どんな人材?」
「魔人」
「該当者がいないっていうのがわかりやすい」
「だろ?」
レオンは深いため息をついた。
「お前の用事の方は終わりか?」
「記入してもらった書類を持ち帰るだけだ」
「じゃあ、俺の方の用事だ。説明したくないが、説明するよう言われたからな」
レオンはしぶしぶといった様子で立ち上がった。
「ついて来い」
応接間らしき場所を出た二人は統治宮の廊下を歩き、魔法エレベーターに乗って上階へ向かった。
「この魔法エレベーターに乗れるのは、かなり偉いやつだけだからな?」
「どのぐらい偉い感じ?」
「ヴァルールの統治者に会えるかもしれないようなやつ」
「僕は会った」
「だから、使えるってことだ」
到着した先はヴァルールの間。
黄金色の玉座は空席で、フィアーの姿はなかった。
「表向きには今日初めてここに来たってことになる。ここはヴァルールの間だ。ヴァルールの統治者が謁見に使う」
「大公はいないね?」
「椅子に座っているだけじゃ、ヴァルールを統治できねーよ」
「確かにそうだね」
「執務室が別にある。外出していることの方が多いけどな」
「不在が多いってこと?」
「知らねーよ。ヴァルール王はずっと不在だけどな」
「それだけど、統治者は大公なんだよね? なのに、王もいるんだ?」
「ヴァルール王の代理をするために選ばれた者が大公だ。まあ、結局は統治者だ。ヴァルール王は毒竜と戦って死んじまったらしいからな」
リオンは首をひねった。
「なぜ、大公が王にならないのかな? ヴァルールを作ったのは魔人だって聞いたことがある。それってヴァルール王のこと? それとも大公のこと?」
「説明する」
かつて、一人の魔人が魔境の中に家を建て、食料や薬になる魔法植物を植えた。
それを毒竜によって住む場所を失った人々の避難所として開放した。
それがヴァルールの始まり。
だが、避難所は絶対に安全というわけではない。毒竜から遠く離れた場所にあるだけ。
毒竜が生きている以上、猛毒地帯は増え続ける。
いずれは避難所も、魔境も、世界も毒竜の猛毒に汚染されてしまうのがわかっていた。
避難所を作った魔人は毒竜討伐を決意、様々な国へ協力を頼みに向かった。
いくつかの国は理解を示し、毒竜討伐に協力することを約束した。
だが、毒竜を討伐することはできなかった。
そこで毒竜の行動を魔境内の一定範囲に留め続けるための作戦が決行された。
作戦は成功したが、まとめ役だった魔人が死んでしまい、仲間の気持ちが揺らいでしまった。
すると、仲間の一人が死んだ魔人がいかに偉大だったかを忘れないため、ヴァルール王の称号を贈ることを提案した。
ヴァルール王への感謝と共に再び仲間の気持ちが結集、王の代理を務める大公が作戦を継続することになった。
しかし、年月が経つほど、重要な役目を担っている魔人たちの数が減ってしまったことをレオンは説明した。
「このままじゃ、王の作戦を維持できなくなる。毒竜が行動範囲を広げれば、世界はどんどん猛毒まみれだ。多くの生物が死に絶える未来がやってくるのは時間の問題だってよ」
毒竜によって世界が毒まみれになってしまうかもしれないという話は、リオンが知っているゲームのメインシナリオと同じだった。
でも、毒竜は封印されていて、封印が解ける前に倒そうという話だったはず……。
世界観は同じ。しかし、レオンの話を聞く限り、毒竜は封印されているわけではない。毒竜の行動を魔境内の一定範囲に留め続けているだけ。
ゲームのメインシナリオとは近いものの、違う状況のようだとリオンは思った。
「魔人を探すのを手伝えってさ」
ゲームのメインシナリオでは、毒竜討伐に参加できる実力者を探していた。
プレイヤーの種族に魔人はない。それ以外の種族が対象。
そこも違う部分だとリオンは思った。
「銀行の情報を知ることができるだろう? 預金口座を持っている者の中から魔人を探す役目だ」
「探しても見つからない」
「だろうな。魔人だって自己申告するやつなんてほとんどいるわけねーよ。魔物討伐者のライセンスはヴァルールで監視しているが、魔人として申告している者は一人もいない」
「銀行口座の持ち主にも魔人はいない」
リオンは答えた。
「名前と魔物討伐者のライセンス番号しか書いていない者が圧倒的に多い。種族欄の記載があるのは他国の身分証で口座を作った場合がほとんどだ」
「新人で魔法契約もしていないんじゃ、機密は教えられない。機密口座情報を調べればいるかもしれない」
「僕には王族の顧客がいる。銀行の運営に関する情報については開示されていないけれど、トップクラスの営業として顧客情報については見ることができる。魔人はいない。種族欄に記載されているかどうかだけの話で言えばだけど」
「となると、無記入のやつか別の種族にして誤魔化しているやつを探すしかないな」
「そうなるね。あるいは組織や団体とかの口座とか」
「相当な数だろーな。でも、全部調べろって言われるだけだ」
レオンはやる気がなさそうな表情で答えた。
「まあ、普通の業務をするついでに銀行の顧客を調べればいいだけだ。上司や銀行にバレて問題になったら俺に連絡しろ。なんとかする」
「ちなみに探すのは魔人だけ? 魔人とのハーフは関係なし?」
「わかるなら嬉しい。でも、無理だろ。本人がベラベラ話すわけもないし、本当に魔人とのハーフなのかを証明するのだって難しい」
「ハーフなら知り合いにいる」
「なんだってえええーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
レオンは絶叫した。
「誰だ? ハーフってことは、両親のどっちかが魔人ってことだよな?」
「父親が魔人、母親がエルフだ」
「だったら」
そこまで言った途端、レオンは言葉を止めた。
「ああ、俺ってば天才! わかっちまった。ダメだ。その情報は使えない」
「なぜ?」
「お前が言っているのはジスのことだろう?」
優秀な猫族の銀行員が弟のことだと知ったレオンは、調査書をしっかり見直した。
「すでに知っている者だからダメってこと?」
防音装置を発動させている状態にもかかわらず、レオンはキョロキョロと周囲を見回した。
「ジスには教えるなよ? 毒竜案件には巻き込まないことになっている。これはもうすでに決まっていることだ」
「そうなんだ?」
「大体、毒竜のことになんか興味ないだろう。行商してればいいんだよ。それだけで十分ヴァルールの役に立っているからな」
「色々と深い事情がありそうだね?」
「あるに決まってるだろーが!」
リオンはレオンをじっと見つめた。
「大公はアーネストのことを知っていた。義理の母親にあたる王妃のことも知っているのかな?」
「そっちもダメだ。すでにティアラは重要な役目を担っている。別の魔人を探してくれ」
やっぱり王妃は魔人だったのか……。
リオンは予想通りだと思った。
「レイディンにも毒竜の話はするなよ? 危険な役目を担った魔人の子どもには手伝わせない。役目は免除っていうのがルールらしい」
「親子で頑張るつもりはないんだ?」
「毒竜は絶対に倒せないらしい。それでも危険な役目を担っている魔人がいるのは、ヴァルール王のためか、自分の子どものためなんだよ。世界やその他大勢はついでって感じだ」
「なるほど」
「俺やお前は面倒に巻き込まれただけだ。でも、毒竜に対峙するだけの力がない以上、危険な役目はしなくていい。有益な情報や人材を探せばいいだけだ。毒竜と戦うことと比べれば簡単だっていうのが大公の考えだ。わかるな?」
「わかる」
「じゃあ、俺からの話は終わりだ。銀行に戻れ」
「その前にちょっといい?」
「なんだ?」
「時間的に早いけれど、一緒に昼食を食べに行こう」
レオンは驚きの余り目を見開いた。
「銀行員は顧客と昼食を食べながら打ち解けて、それを営業に活かす。美味しいものを食べに行こう。できれば、兄様が利用している店がいい。普段、どんなところで食事をしているのか知りたい」
レオンは額に手を当てた。
「俺と関わるのは危険だって教えただろう?」
「僕は大公の側近候補だ。今更だよね?」
「あいつのせいだ、全部な!」
レオンはそう思った。
「むしゃくしゃするから、美味いものを食べに行く。奢ってやるからついて来い!」
「兄様と一緒に食事ができて嬉しい。どんな料理か気になる」
「焼き肉に決まっているだろーが」
「やっぱり。兄様らしい選択だ」
リオンはレオンと一緒に焼き肉を食べに行くことになった。




