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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第九章

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82 上空の会談

すみません。久しぶりの更新です。

寒暖の差があるせいか、インフルエンザや風邪が蔓延中。

読者様もどうかご自愛くださいませ。



 青く澄み切った大空を飛竜が飛んでいた。


 その背中に乗るのはアーネスト。


 ヴァルールからヴィラージュへ向かう途中だったが、飛竜が目指しているのは魔境の奥地。


 いつもは飛行ルートを飛竜に任せているアーネストだったが、今回については魔境の奥の上空を通るルートを指示していた。


「ダメか」


 飛竜は指示通りのルートを進んでいたが、突如ルートを変更した。


 それはアーネストが指示したからではなく、危険を察知したことによる変更だった。


 大空を飛ぶ生物で飛竜以上に力を持つ存在は少なく、遭遇する可能性も極めて低い。


 それでも飛竜が危険を感じたのは、大気に含まれる毒素を感知したからに他ならなかった。


「地上はなんとかなっても、空は難しい」


 アーネストは独り言をつぶやきながら、ため息をついた。


 と、その時、


「どういう意味かな?」


 姿をあらわしたのはジスだった。


「なぜここに?」


 アーネストは驚きながら尋ねた。


「それは私が聞きたい。なぜ、このルートを?」


 二人は見つめ合う。

 

 先に視線を外したのはアーネストの方だった。


「互いに話すということではどうだろうか?」

「わかった。実はヴィラージュ方面に行く用事があった。転移魔法は魔力を使うだけに、こっそり便乗した」

「どうやって?」

「単純だよ。魔法具で感知できないようにしただけだ」

「それはおかしい。同乗者がいれは重くなる。気づかないわけがない」


 アーネストと飛竜は召喚関係にある。


 飛竜に自分以外の同乗者がいれば、アーネストは気づけるはずだった。


「普通はそうだね。でも、私は普通じゃない」


 アーネストはジスをじっくりと上から下まで見つめた。


「……浮遊状態を紐づけているのか?」


 飛竜が同乗者を感知するのはその分の重量がわかるからに他ならない。


 つまり、飛竜が重量を感知できなければ、飛竜にも召喚士にも知られることなく同乗できる。


 魔法の重量は基本的に空気と同じようなもので、感知できるほどの重さがない。


 だからこそ、姿を隠したジスが浮いた状態で、別の魔法で飛竜につないでいるだけであれば、飛竜に重量を感知されることはない。


 目的地まで飛竜が引っ張りながら連れて行ってくれるということになる。


「ご名答。飛竜には魔力がある。魔法具で魔力の気配も抑えてしまえば、気づかれることなく同乗できる。飛竜だけでなく浮遊船にも使える」

「そうやってあちこち行商に行くわけか」


 転移魔法は便利ではあるが、行ったことがない場所にはいけない。


 あまりにも遠い場所だと膨大な魔力がかかってしまい、命にかかわることもあり得る。


 ジスは転移魔法以外の移動方法を考え、自分が目指す方向へ行くものを活用していた。


「次はアーネストの番だよ」

「輸送ルートのことだ」


 アーネストはヴィラージュとヴァルールを結ぶ輸送業をしている。


 これまでは召喚した魔物にどのようなルート設定を任せていたが、他の誰かに輸送業を依頼するとなると事情が変わる。


 どのようなルートが安全かつ最適なのかを調べる必要があると感じ、今回は魔境の奥の上空を通るルートを指定した。


 しかし、魔境の奥は手前とは違う環境になっている。


 そのせいで飛竜は危険を感じ、勝手にルート変更をしてしまった。


 すでにいくつかの空路を考えて指定してみたが、どのルートも飛竜が危険を感じてルート変更をしてしまっていることをアーネストは説明した。


「魔境の奥は空気が悪い。そのせいではないかと思う」

「その通りだよ。魔境の奥に行くほど大気中に毒素が含まれている。普通の人間にとっては猛毒だ。すぐに死んでしまうだろうね」


 ジスはアーネストを探るような視線を隠さなかった。


「なぜ、飛竜に防御魔法をしないのかな? 魔法をかけてあげれば、もっと先まで飛ぶかもしれないよ?」

「私は防御魔法を使えるが、輸送業を頼む相手が防御魔法を使えるとは限らない。竜人の魔力は豊富だが、防御魔法を得意としているかどうかは別だ」

「なるほど。アーネストには使えても、別の者にとっては使えないかもしれないね」


 ジスは納得するように頷いた。


「まあ、無理して奥地の上空を通る必要はない。真逆に行く場合でない限り、最短ルートにはならないよ?」

「それはわかっているが、ヴィラージュとヴァルールの直行便とは限らない。別の経由地があると、奥地の上空を通るのが最短になる場合もあり得る」

「直行便以外も考えているわけか」

「ヴァルールとヴィラージュ間の輸送業だけでは儲かりにくい。別の目的地とのルート上にヴィラージュを追加してもらえないかと思っている」

「なるほど。その方が了承してもらえるかもしれないね」


 ジスはにっこりと微笑んだ。


「アーネストは優秀だ。輸送業について、そこまで考えているとは思わなかった」

「私は領主だ。ヴィラージュのためにできることはしたいと考えている」

「つまり、ヴィラージュに残り続けたいわけか」

「どこに移っても何かしらの問題はある。恐れるばかりでは、生きる場所がなくなってしまう」

「毒竜が来るかもしれないよ?」

「毒竜は来ない」


 しばしの沈黙。


「なぜ、そう言える?」

「私はジスよりも毒竜について知っている」


 ジスは目を細めた。


「どうしてかな? アーネストは人間だ。年齢的に考えても、私の方が多くを知っていると思うよ?」

「守秘義務がある。そして、特別な情報を知る者は協力しなければならないことにもなっている。それでも知りたいだろうか?」

「知りたくはあるけれど、協力できるとは限らない。私にはしたいことがあるからね。命をかけるようなことには関わりたくないのもある」

「だったら話せない。聞かないでほしい。私も難しい立場にある」

「どんな風に難しいのかな?」

「王太子として多くを知らされていたが、現在は王太子ではない」

「なるほど。確かに難しそうな立場だね?」


 ジスは考え込んだ。


「となると、王太子になったレイディンも特別な情報を知ることになるはずだ」


 アーネストは黙っていた。


「アーネストは人間としては優秀な方だと思う。でも、魔力や魔法についてはレイディンの方が上だ。技能面で細かい調整ができないようだけど、訓練すれば向上できる。最終的にはアーネストをはるかに凌駕する王太子になれそうだね」


 響くのはすさまじい風の音。


 防御魔法で守られているアーネストとジスには関係ないが、二人の会話は途切れたまま。


 やがて、大草原の中にある城が視界の中に入って来た。


「老体だと言っていたけれど、かなり速く飛ぶこともできるようだ」

「加速魔法をかけている」

「そろそろ失礼するよ。ヴィラージュに行くつもりはないからね」

「目的地は?」

「複数ある。ただの行商だよ」


 ジスはそう言うと転移魔法を発動させた。


 飛行中の状態から転移魔法を発動させるのは難しい。


 それができるのは転移魔法の技能が極めて高い証拠だった。


「転移魔法を使いたい……」


 アーネストは呟かずにはいられなかった。



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