81 三つの質問
更新が遅くなり申し訳ありませんでした。
突発的なことや体調不良が重なってしまいました。
当分の見通しとしては執筆も更新もゆっくりになると思います。
よろしくお願いいたします。
ジスは行商中でヴァルールを不在にていたが、リオンはようやく会うことができた。
「エアリスから毒竜の話を聞いた」
「そうか。でも、大丈夫だよ。ずいぶん昔の話だからね」
ジスは優しく微笑んだ。
「三つ聞きたいことがある」
「なかなか多いね?」
「一つ目は町に残している荷物のことだ。町の者はいざという時に備えて荷物整理をしていると聞いた。ジスはしないのか気になった」
「荷物整理はしてある。大事なものは魔法収納にある。町に残してあるのはどうでもいい。処分するのが面倒でおいてあるだけだ」
ジスはそんなことかというような表情で答えた。
しかし、リオンの質問はジスに答えやすいと思わせるためのものだった。
「二つ目はジスの父親のことだ。町を追放されたと聞いた。毒竜のせいでもあるけれど、町の人のせいでもある。ジスは町の人を恨んでいる?」
「なかなか踏み込んだことを聞くね? でも、答える必要はない」
答えないという答えもまた選択の一つ。
「私はすでに町を出たようなものだ。エアリスがいなければ、あの町に行く必要もない。エアリスがヴァルールに来てくれてよかったよ。隣に住んでいれば錬金術を依頼しやすい。とても便利だ」
便利なだけじゃない。安全だからだ。
リオンはそう思ったが、三つ目の質問があった。
「三つ目だ。僕に優しくしてくれるのは転生者だと思うから?」
「それはすでに答えが出ている。私の勘違いだったようだ。気にしなくていい」
「でも、僕の防具についてエアリスを話した。本当はまだ疑っているせいで、配慮されている気がした」
「私はリオンの保証者だ。どれほど優秀であっても、子どもというだけで軽視されることがある。ヴァルールに連れて来た以上、大人になるまでは面倒を見るつもりだ」
「わかった。話は終わり。忙しいのに時間を取らせてごめん」
「今度は私の番だよ」
ジスは笑みを浮かべた。
「リオンだけ質問をするのはフェアじゃない。等価交換だ」
「わかった」
リオンは頷いた。
「質問はどんなこと?」
「なぜ、毒竜について聞かなかったのかな?」
毒竜についてエアリスから聞いたのであれば、普通は興味を持つ。
より詳しい情報についてジスから聞くチャンスだったというのに、リオンは毒竜自体への質問はしなかった。
「エアリスとジスは交流がある。エルフは見た目だけでは判別しにくいけれど、同じぐらいの年齢だと思った。そうなると、毒竜が来た時のジスは生まれていないか子どもだ。知っているとしてもエアリスと同じぐらいの情報だと思った」
「なるほど」
ジスはリオンの優秀さを知っている。
より詳しい情報は得られないと判断したという答えはおかしくないと思った。
「二つ目だ。転生者に対する質問はすでに答えが出ている。わざわざ質問する必要はないと思ったけれど、なぜまた質問したのかな?」
「転生者について聞かれたことが、ずっと気になっていたからだ。何かと配慮されているのもそのせいかもしれないって思うから、もう一度確認したかった」
「三つ目の質問というより確認だ。リオンは転生者ではないね?」
リオンが予想していた質問が来た。
「転生者を探す理由はエアリスから聞いた。特別な知識がほしいからだと。でも、特別な知識というのが何かがわからない。僕なりに考えてみた」
ジスの両親はフォレスト・エルフの町を出る時、父親が元々住んでいた場所が気になるといって戻ることにした。
エアリス曰く、その後の消息は不明。
ジスに家族のことを聞いた時、恐らくは死んだと言った。とても強い魔物がいたらしいとも。
それらを合わせて考えると、ジスは両親がどうなったのかを知るために奥地に行きたい。
しかし、奥地に行くほど強い魔物がいる。毒竜がまだ生きているなら極めて危険。
そこで特別な装備がほしい。
転生者がいるのであれば、強い装備や薬のレシピ、あるいは魔法を教えてほしい。
可能であれば毒竜に有効な対処方法あるいは倒すための情報を聞きたい。
「というのが僕の推測。違う?」
「リオンは本当に子どもなのかな?」
ジスの表情は変わらない。しかし、その口調には先ほどとは違う何かが込められていた。
「もし転生者だということであれば、子どもの姿をした大人だ」
「そうかもしれないし、そうではないかもしれない」
リオンは答えた。
「普通はジスの言う通りだ。でも、前世では大人になるまで生きていればの話だ」
ジスはハッとした。
「もし、子どもの内に死んでいれば、転生者の記憶は子どものものしかないということになる。そもそも転生者が前世の記憶の全てを覚えていると考えるのは都合が良すぎるよね?」
前世の記憶で引き継いでいるのは一部かもしれない。覚えていることも一部かもしれない。そうなると、わかるのはほんの少しだけになってしまう。
役に立たないことしか覚えていない可能性もある。
非常に曖昧で不確定な転生者の記憶に期待するのはどうなのかとリオンは疑問に感じた。
「結局のところ、転生者かどうかに関係なく、僕は僕として答えるしかないと思う」
「確かにその通りだ。だからこそ、教える。リオンの推測通りだ。私は奥地に行って両親がどうなったのかを知りたい。だけど、私一人だけで向かうのは難しいというのが現状だ」
両親がどこに住んでいたのかはわからない。
奥地とは言っても非常に広い範囲。そして、奥地の方へいくほど魔物は強い。数も多い。
そこで行商人をしながら情報、装備、資金を集めた。
ヴァルールの存在を知ったのは比較的早く、魔物討伐者兼行商人として出入りするようになり、貢献ポイントが多いこともあって市民権を得ることができた。
それからはヴァルールを拠点に幅広く活躍する行商人としての活動に力を入れながら、奥地へ行く魔物討伐者の支援をしながら情報を入手した。
自分が奥地に行くための装備もまた集めながら、他にも役に立ちそうなことはないかと探していたおかげで、転生者の噂を耳にした。
「転生者だけでなく魔人のことも探していた。魔人なら奥地のことを知っているだろうからね。でも、魔人の見た目は人間と同じだ。判別しにくい。だけど、レイディンを見つけた」
転移魔法は魔人特有の魔法だと父親から教わった。
レイディンは使える。魔人の血を引いている証拠だった。
本人が魔人なのか、魔人の子どもあるいは子孫なのか区別がつきにくかった。
しかし、レイディンの母親は魔力が豊富で元凄腕の魔物討伐者。飛竜を所有していたことを考えると、魔人かもしれない。
アーネストは転移魔法を使えない。義理の母親である王妃ティアラを紹介してほしいと頼んだが、断わられた。
そのことを考えても、王妃ティアラが魔人である可能性が強まったことをジスは説明した。
「レイディンの母親に会えれば、奥地の情報を聞くことができそうだと思っている」
「僕も転移魔法が使えるレイディンのことが気になっていた」
人間のレイディンが、エルフと魔人のハーフであるジスと同じ転移魔法を使えるのが不思議だった。
レイディンは第二王子。
父親の国王が魔人であれば、第一王子のアーネストも転移魔法を使える可能性が高い。しかし、飛竜で行き来していることを考えると、アーネストは転移魔法を使えない。
そうなると、父親が再婚した王妃ティアラが魔人かもしれない。
そうであれば、レイディンは人間と魔人のハーフ。転移魔法を使えてもおかしくない。母親から教わっただけだということになる。
そう考えたことをリオンはジスに話した。
「ティアラはヴァルールに銀行口座があるのかな?」
「ある。でも、それは王妃としての口座だ。個人口座じゃない」
「種族欄はどうだった? 銀行の方で確認している?」
「自己申請だけで確認はしない。ジスだってエルフになっている。魔人とのハーフということにはなっていない」
ジスは笑みを浮かべた。
「エルフ特有の耳があるからね。嘘ではないし、種族欄にハーフという項目はないからね」
「銀行口座を作るのは簡単だ。身分証か魔物討伐者のライセンスがあればいい。名前とライセンス番号しか書いていない者が多い。魔人の顧客は一人もいない」
「そうなのか」
もしかすると銀行の顧客名簿から魔人が見つかるかもしれないとジスは考えていた。
しかし、銀行に勤めているリオンが入手できる情報において、それは無理だということ。
「守秘義務もあるから銀行自体の重要事項は話せない。でも、個人的に入手した情報については話せる。毒竜や奥地の情報に詳しそうな者を探してみようと思う」
「リオンは私の期待通りだよ。銀行内の情報が気になっていた。行商人として情報収集はしているけれど、やはり出回る情報に違いがあるはずだからね」
「有用そうな情報があったらジスに話す」
「わかった」
「それから僕が転生者かどうかだけど」
「言う必要はない」
ジスはそう言った。
「リオンはリオンだ。転生者かどうかは関係ない。その方が私も付き合いやすいからね」
「わかった」
「これからもよろしく頼むよ」
「それを言うのは僕の方だ。ずっとジスの世話になりっぱなしだ。必ず僕が力になってみせる」
「楽しみだ」
リオンとジスは微笑みあった。
第八章はここまで。




