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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第八章

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80 打ち明け話



 週末になると、アーネストがヴィラージュから帰ってきた。


 現状においてヴィラージュの人々の食料確保は問題ない。


 しかし、森林火災等でフォレスト・エルフがヴィラージュに一時避難すると一気に人口が増える。


 ウサギ族が移り住む際に備蓄を放出したが、想定以上に早くなくなってしまったことも踏まえ、より多くの備蓄をする必要がある。


 森の資源に頼らなくても自給自足ができる体制を整える必要もあることをアーネストは夕食時に伝えた。


「そういうわけで、ヴァルールとの取引は重要になると考えている」

「ずっとアーネストが往復するの?」

「そうするしかない。だが、飛竜と魔法収納を活用すればいいだけだ。問題はない」


 アーネストの魔力は豊富で、魔法収納もその分多い。


 飛竜を襲うような魔物の類はほぼいないため、一番安全な輸送方法だった。


「しばらくは私の方でどの程度の輸送力があるか、利益が出るかも調べる。将来的には竜族に輸送を頼めないか交渉してみるつもりだ」

「竜族に? 僕も交渉に行きます!」

「私も!」


 キラキラと目を輝かせたのは、アーネストが戻るのに合わせて王都から来たレイディンとセレスティーナだった。


「にゃ!」


 キティまで乗り気。


「気持ちはわかる。だが、あくまでも理想論のようなもので、交渉するのはかなりの難しさだろう」


 飛竜を操る竜族はヴァルールの空輸を担っている。


 人間の国々も竜族に空輸を担ってほしいと何度も交渉したことがあるが、ことごとく断われていた。


「師匠のコネで父上が交渉したことがあるのだが、師匠がどうにかすればいいと言われて断られた」

「まあ、飛竜持っているならそうだろうね……」


 転移魔法もあれば、飛竜さえいらないし。


 レイディンは心の中で呟いた。


「竜族の中には利益重視の者もいると聞く。ヴィラージュとの取引で利益が出るとわかれば、誰かが交渉に応じてくれるかもしれない。とはいえ、現状ではヴァルールやエルフの国々との取引以上の利益が出るとも思えない。」

「前途多難ですわね」

「それこそ兄上が領主として輸送担当をすればいいって言われそう」

「先は長い。飛竜を手に入れたおかげでヴァルールとの取引も始められるだけでも幸運だ。少しずつ取り組んでいく」

「わかった。僕も何かあれば協力するよ! 週末だけだけど」

「私も週末ならお手伝いできますわ!」


 レイディンとセレスティーナは、ありとあらゆる手段によって週末はヴァルールで過ごす気でいた。


「父上や宰相がうるさいのではないか?」

「大丈夫。父上と母上は新婚旅行に行ったからいない。王太子の僕がトップだ!」

「そのせいでお父様と重臣たちの仕事が増えて忙しいようですわ」


 腹黒第二王子と悪役令嬢らしい笑みが浮かんだ。


「新婚旅行? 父上は王都にはいないのか?」


 アーネストは初耳だけに驚いた。


「いないよ。母上が可愛い国造りをしたがっていたから、二人仲良く馬車でダラダラと地方視察に行っちゃったよ」

「お気に入りの場所を見つけて、そこから可愛くする予定だとか」

「どこへ向かったか聞いているか?」

「聞いていない。お忍びの外出だから」

「暗殺等を防ぐための警備上の都合らしく、お父様も連絡できなくて困っているとか」

「だから王太子は王都にいないとなんだけど、まあ、僕はいつでも戻れるし、ヴァルールにいることは宰相にも伝えてあるから」

「週末だけですし、何かあれば魔法の鳥で連絡が来ると思いますわ」

「そうか」


 アーネストは考え込んだ。


「母上には何も言っても仕方がないよ。父上も同じ。したいようにするだけだ」


 国王夫妻を止められる者はいない。


 なにせ、王妃は魔人。夫の国王は妻にベタ惚れ。どうしようもないというのが宰相など、王妃の素性を知る関係者たちの本音。


「もしかしたら、新しい飛竜を捕まえに行く旅行旅行かも? それなら一緒に行きたかったなあ」

「飛竜と一緒に調教されてしまいますわよ?」

「修練だよ!」


 レイディンとセレスティーナが言い合いを始めたが、アーネスト同様全員がすっかり慣れていた。


「アーネスト、食事のあとで時間を取ってほしい。話したいことがある」


 エアリスが言い出した。


「わかった」

「レイディン、セレスティーナもできれば一緒に。任意だが」

「ん? 大丈夫だよ!」

「わかりましたわ」

「では、食事のあとの予定も決まりましたし、デザートを用意しますね!」

「手伝う」


 ミントとリオンが席を立った。


「味見を手伝うにゃ」

「味見はしなくて平気だ」

「キティには子ども分を追加しますね」

「だったらいいにゃ」

「子どもだから減らすわけじゃなくて、追加なのか!」

「お得ですわね」

「ミントが優しいからだ」

「子ども、得々にゃ」


 キティはニヤニヤした。





 食事のあと、応接間に集まったのはエアリス、アーネスト、レイディン、セレスティーナ、そしてリオン。


 話の内容は毒竜の存在について。


 エアリスは最初の飛来よりもずっとあとに生まれたために、一度目の襲撃については両親や年長者の話を聞いて知っているだけ。


 恐ろしい魔物だと思われるが、実際にその姿を見たことはない。


 最初に森の方へ飛来したのは百年以上前のことだけに、毒竜が生存中であるかどうかもわからないことを説明した。


「ヴィラージュの人間は年々減っていた。短命種であることも考えれば、教えても意味はないと思った。だが、ウサギ族や猫族も一緒になった。これからは逆に人口が増えるかもしれない。整備や備蓄の準備などは一気にできるようなことはではない。前もって話していた方がいいと感じた」

「ヴィラージュのことを心配してくれて嬉しい。エアリスに心から感謝する」


 アーネストは微笑んだ。


「人口増加については地区整備をする時にも話をしていた。将来的に独り立ちをしたり子どもが増えたりすることを見越した整備をしてほしいと言われていた」

「そうか」

「それから毒竜についてだが……」


 アーネストはレイディンとセレスティーナに一瞬視線を変えた。


「私は知っている。王太子として、万が一の時のために教えられていた」

「やはりそうだったか」


 レイディンやセレスティーナが驚きの表情を浮かべる一方、アーネストは冷静な表情のままだった。


 それだけに、すでに毒竜の存在については知っていそうだとエアリスは思っていた。


「毒竜だけでなく魔物全般の襲撃を受けた場合の備えはある。ヴィラージュの中心にあるヴィラージュ城の地下には頑丈な石造りの地下室があり、倉庫兼避難所になっている」


 かなりの深さがあり、地上で魔物が暴れても平気なほどの強度がある。


 住民が避難した後であれば、強力な魔法も使いやすいようになっていることが説明された。


「新設した各地区にも一時的な避難所を地下に作るつもりだ」


 新しく整備した地区からヴィラージュ城へ行くには距離がある。


 領都の門が閉まるまでに避難しにくいため、アーネストは門の外側にある地区ごとに一時的な避難所を作ることにした。


「アーネストは優秀な領主だ。私から話す必要はなかったか」

「いや。フォレスト・エルフがどのように考え、行動するかわからなかった。町の者は毒竜のことを知っており、いざという時は逃げるということで間違いないだろうか?」

「それは間違いない。だからこそ、町全体が荷物整理をしている」

「わかった。戻った時に、族長と話してみる」

「そうしてほしい」


 話し合いは終わり。


 しかし、全てをアーネストに任せるだけではダメだとリオンは思った。


 僕は転生者だ。前世の記憶は必ず役に立つ。


 アーネストを支える力になれるはずだとリオンは考えていた。

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