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08 ノルマ達成、にゃあ!



 森の中。


 アーネストは軽く首を傾げた。


「どうしました?」


 ミントが尋ねる。


「なんとなく……呼ばれているような気がした」

「えっ、新手の魔物ですか? 誘惑系だったら大変です!」


 ミントは慌てて周囲を見渡した。


「木ばかりで視界が悪いですし、ここはアーネスト様の魔法でバッサリなぎ倒して広場にするのはいかがでしょうか? またここに来た時、キャンプする場所にできます」

「そうかもしれない。でも、あまりに日数が経ってしまうと、元通りな気もする。ここは魔境だから」

「そうですね。あっという間に木が成長しそうですよね」


 ミントはアーネストの推測に頷いた。


「正直、結構歩きましたけれど、何の収穫もないですよね」

「そうだな。木と草はあるが……」


 わざわざここで素材集めをするようなものではなかった。


「できれば美味しい魔物か、美味しい木の実か、美味しい果物、調味料になりそうな植物なんかと巡り合いたいです」

「ミントは食べ物のことばかりだ」

「食べることは人間の三大欲望ですよ」

「食欲か」

「そうです」

「あと二つはなんだ?」

「睡眠欲と性欲です」


 アーネストは真っ赤になった。


 ……アーネスト様はびっくりするほど純情みたいですね。


 ミントは反省したが、もう遅い。


「……ミントは物知りだ」

「耳年寄りですからね。さあさあ、無駄口を叩いていないで、何か探さないとですよ! 手ぶらで帰るなんてできません! ノルマがあります!」

「ノルマがあるのか」

「あります!」

「そういうのは王宮を出れば無縁だと思っていたのだが」


 すると、アーネストに肩車されていたキティがくんくんと匂いを嗅いだ。


「どうした?」

「あっちにゃ」


 キティが何かを発見したようだった。


 アーネストはノルマのために、ミントはお土産のために足を速める。


 そして見つけたのは、


「パオンの木です!」


 コッペパンのような形の実がなる木で、火であぶって食べるとパンのような味がする。


「バタータの木もあります!」


 ジャガイモのような実がなる。


 しかし、ジャガイモと違って毒性がなく、安心安全簡単手軽に調理できる食材。


「これはものすごいお土産です! ノルマ達成ですね!」


 問題はこの木をどうするか。


 一、実をできるだけ収穫して持ち帰る。


 二、この場所をマーキングして、何度も来やすいようにする。


 三、アーネストに任せる。


「どうしますか?」


 ミントは第三の選択肢を選んでみた。


「植え代えることは可能だろうか?」


 第四の選択肢が発生。


「さあ、どうでしょう? 小さな木であればともかく、これだけ大きいとわかりません。うまく根付くのかどうか」

「試してみよう」


 まずは熟している実を収穫、毒性がないかどうかを調べる。


「問題ない。少し離れてほしい」


 アーネストは魔力を暴力的に使ってパオンの木を引っこ抜いた。


 その勢いで落ちてしまった実はミントとキティで拾って袋に詰める。


「もう一つか。一緒に抜けば良かった」


 アーネストはもう一度、魔力を暴力的に使ってバタータの木を引っ張るが、引っこ抜けない。


「難しい。根がしっかりと張り付いているようだ」


「残念です」

「バタータ、食べたいにゃ」


 キティが要望を言うのは珍しい。


 なんとかしたいと思ったアーネストは、バタータの木を浮かせたまま残っている根の部分を魔法の風で切った。


 それによってバタータの木も確保。


「今日はこの二つを持ち帰って植え代えよう。実がダメになってしまう可能性もある。戻ったら全部収穫だ」

「はい!」

「にゃあ!!!」


 アーネストとミントはキティを見つめた。


「にゃあと叫んだが……?」

「猫族らしい喜び方です」

「猫族なのか」

「知らないで自分の子どもにしたのですか?」

「危険なことをする子どもを放っておくわけにはいかないだろう? 私が保護すべきだと思った」


 保護? 捕縛じゃなくて?


 ミントはそう言いたい気持ちになったが、アーネストが普通じゃないことやとても優しい性格であることを思い出した。


「アーネスト様は本当に優しいですね。平民の私とも普通に話してくださるし」

「ミントも普通に話していいと言っただろう? 私はもう王太子ではない。ヴィラージュでは誰もが普通の人間だ」


 普通じゃないですって、アーネスト様は。


 ミントはすぐさまそう言いたいのを抑えた。


「にゃあ」


 キティが甘えるような声を出してアーネストにすりすりした。


「おねだりされているような気がする」

「私もそう思います。こんなキティは初めて見ました」

「たぶんだが」


 アーネストは上を見上げた。


「バタータが食べたいのではないだろうか?」

「にゃあ」

「揚げ物にしましょうか? とても美味しいので」

「にゃあ!」

「たぶんですが、賛成のようです」


 キティは何度も頷いた。


 二つの木を浮遊魔法で持ち帰ったアーネストは、魔ウサギを放し飼いにしている柵の側に木を植えた。


「取りあえずはここにする」

「中ではなく外なのですか?」

「柵は追加する。うまく根付いてくれればいいが」

「今夜はパオンとバタータの揚げ物です。楽しみにしてください!」


 ミントは揚げて揚げて食べまくるつもり。


「にゃあ!!!」


 キティも大賛成だった。



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