76 午後のお出かけ
「午前中で完売したんだ?」
「午前中だけの販売だったのもあるが、かなりの勢いで売れた」
留守番をしていたリオンとポロンは昼食を買って帰って来たエアリスとジスから、話しを聞いていた。
「売れるだけ売るとあっという間に品切れになる。しばらくは午前中のみの営業で、一日分が完売した時点で閉店することにしたよ」
話題性もあって最初は高価でもよく売れる。
儲けるためには売れるだけ売ってしまった方がいいが、そのあとに欠品や休業状態だと信用が悪くなる。
そこであえて毎日少しずつ売ることをジスが提案した。
そうしないと、エアリスがひたすら商品を作るための錬金術をする日々になってしまい、自由な錬金術の研究が続けにくいという事情もあった。
「それはわかる。でも、お店として成り立つ?」
「いくつか問題点はある。それについては一カ月以内に改善しなければならない」
まず、魔法薬店の販売員について。
現在はヴァルールでも人気の販売員を雇うことで接客がスムーズになるようにしているが、あくまでも一時的な雇用者でしかない。
人気の販売員はどの店でも引っ張りだこで高給取り。あまりにも人気があると常時雇えるだけの給与が払えなくなるため、短期間だけ新規開店メンバーとして雇うことも多い。
今回も一週間だけの契約になっており、それ以降はエアリス一人で販売しなければならないが、エアリスは接客の仕事を負担に感じていた。
「エアリスは錬金術に専念したいらしい。それで信用のおける者に販売を任せたいと思っている。ただ、ヴァルールで人を探すとかなりの高給取りだ。その分の売り上げを確保しないといけない」
「商品を作るのは当然だと思っている。だが、ヴァルールの物価は高い。原材料費を抑える工夫もしたい」
「ヴィラージュから運んで貰えば?」
「それはすでに考えてある。草原に薬草園を作って栽培してもらえる」
フォレスト・エルフが管理している果樹園の側に薬草園を作り、材料を入手しやすくすることになっていた。
しかし、エアリスが引っ越すことになってから決まったことで、薬草園作りはこれから。
当分の間は在庫や溜め込んでいた素材で何とかする気だったが、魔法薬の売れ行きがあまりにもよくてエアリスは心配していた。
「魔物討伐者は採集もしていると聞いた。ヴァルールの周辺で採れる材料があるなら、私も採集をしてみたい」
「強い魔物がいるから勧めないと言っているのに、エアリスは外の様子も見てみたいらしい」
「わかる。僕もヴァルールに来たばかりの時は、外の様子が気になって仕方がなかった」
「魔物討伐の方が稼げることもあって、採集者は少ないと聞いた。もしかすると、店を閉めた後に採集に行けるのではないかと思った」
「なるほど」
「魔物討伐者は朝に出かけるから、ヴァルール周辺にいる魔物はすでに狩られてしまっている。午後なら比較的安全に採集できるとは思うけれど、絶対じゃない」
「片付けは夜にして、昼食を食べたら採集をしてみようと思う。リオンも一緒にどうだ?」
「留守番は?」
「ポロンがいるよ」
「上位種になれたようだ」
森イチゴを嬉しそうにほおばっていたポロンが反応した。
「エアリス様、なぜわかったのですか?」
「魔力が急激に増えている」
「夕食の時に披露しようと思いましたのに!」
ポロンは立ち上がると、くるりと回った。
羽が生えている。
パタパタと羽をはばたかせ、飛んで見せた。
「これからはお掃除妖精ですわ!」
「お祝いをしないとだね」
ジスが微笑んだ。
「新しいエプロンを買おうか? それとも頭巾を新調する?」
「お掃除妖精らしいエプロンドレスがほしいですわ!」
「わかった。特注しておく」
「小物でほしいものはないか?」
小人のポロンが使うほうきやバケツはエアリスが作ったものだった。
「大丈夫ですわ! これからは前よりもたくさん浄化魔法を使えますわ!」
「便利そうだ」
「とりあえず、留守番を頼むよ。何かあったら隠れていればいい。羽があるなら飛んで逃げることもできる」
「わかりましたわ!」
留守番はポロンが務めることになった。
ヴァルールの外に出たエアリスは予想以上に明るい森であることに驚いた。
「上空から見た時はかなりの木々があると感じたが、下にいると明るいな?」
「ヴァルール周辺の木は大きくなりすぎないように伐採している。木を登って不法侵入されると困るからね」
「木材が必要だから伐り出してもいる」
「なるほど」
「輸送業者は明るい場所を通る。そこが道になっているよ」
「草もほとんど生えていないか、少ない場所が道だ。ヴァルールへ続いている」
「なるほど。だが、陸路の輸送は難しいのではないか?」
「いくつかルートがあるけれど、魔境の中だけに陸路はどこも危険だ」
「あそこにあるのは薬草じゃないかな?」
「そのようだ」
リオンが見つけた薬草をエアリスは確認した。
「どう?」
「悪くはない。普通の薬の材料にはできるが、上級品を作るのは無理だ」
「作る前からわかるのか」
「エアリスの目利きはすごいよ」
「ここは採らない。もっと量が増えるようであれば採ってもいいが、その前に誰かに採取されそうだ。生え方が自然ではない」
「エアリスは採集についても詳しそうだね」
「とても詳しい。フォレスト・エルフは狩猟と採集で生活しているからね」
三人は魔物に警戒しながらヴァルールの付近の森を散策、生息している植物や採集物を調べた。
その結果、フォレスト・エルフの町の周辺とは違う植物が多くあることがわかった。
「生息する魔物が違うだけに、植物も違うのは当然だが、ここまで違うとは思わなかった」
手に入りにくいと感じていた植物が多く自生していることがわかってエアリスは喜んだ。
「リオンがいてくれると助かるが」
エアリスは注意がどうしても植物の方に向いてしまい、魔物への警戒を最優先にできなかった。
「銀行が休みの時は付き合える」
「可能であれば同行を頼みたい」
「二人だけで行く時は、遠くに行かないように」
ジスが注意した。
「ほとんどの魔物は浮遊魔法で浮かんでしまえば逃げられる。でも、この辺は魔鳥も生息しているよ。時々、大型の魔鳥が獲物を探して飛んでいることもある。風魔法が効きにくい魔鳥だと、木の影や茂みを使って逃げないといけない」
「爆弾弓で撃ち落としてみたい」
「リオンがいるならその手もあるね」
「爆弾弓?」
「ライト・エルフの友人に貰った。魔法の弓だ」
「気になる。使ってみてほしい」
「木に向かって撃つと、破片が飛び散って危険かもしれない」
「魔鳥を狩りに行こう」
ジスの提案で急遽魔鳥狩りも追加された。
その結果、
ドカーン! ドカーン! ドカーン!
大砲のような音が丘陵地帯に何度も響き渡ることになった。




