73 新居に集合
いつもお読みいただいありがとうございます。
体調不良で更新遅れました。すみません。
多忙により感想等に返信できていないのですが、とても嬉しく思っています。
本当にありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
「今日から、ここか」
リオンは豪邸を見上げた。
アーネストが新しく借りる家は最高級住宅街だった。
飛行許可があるヴァルールの東側で、魔物での飛行や離発着が認められている地域。
移動用の飛行魔物を所持する者たちにとっては憧れかつ最高に利便性の高い居住地として知られていた。
リオンは一人暮らしをやめ、アーネストの家から走って通勤することにした。
「ノック、必要かな?」
自宅とも言えるが、アーネストの家でもある。
リオンが迷っていると、内側から玄関のドアが開いた。
「おかえりにゃ」
キティが顔を出した。
「ただいま」
リオンは懐かしいと感じた。
猫族の村で、狩りから帰ったリオンを出迎えるのはキティの役目だった。
無事かどうか、ちゃんと村に帰っているかどうかを確認する係とも言う。
「おかえりなさい!」
ミントが玄関ホールにある階段に座っていた。
「ただいま。ここに座って待っていてくれたんだ?」
「キティと本を読んでいました。そろそろ帰って来ると思ったので」
「アーネストとエアリスは?」
「たぶんですけれど、そろそろ戻ります」
アーネストとエアリスは午前中に到着。
どうしても素材市場を見に行きたいというエアリスの要望もあって、引っ越しの片づけを後回しにして全員で外出した。
昼食はカレー屋に行った。
ミントとキティは先にジスの転移魔法で帰ったが、アーネストとエアリスは午後もヴァルール内の店を見にいったことをミントが説明した。
「魔法薬をたくさん作ってきたので、お店の方に持っていくと言っていました」
「エアリスの店はかなりの注目度だ」
ジスが所有する待合施設はヴァルールの最先端、流行が生まれる場所とさえ言われている。
エアリスが開く店の噂は瞬く間に広まり、どんな魔法薬が扱われるのかが注目されていた。
「明日の開店に向けて、並んでいる人がいた」
「今からですか?」
「最近は夜に魔物を狩りに行く者も多い。パーティーの誘いを待ちながら、明日の開店を待つつもりだと思う」
好条件の誘いがあればパーティーを組んで魔物を討伐に行く。
そうでなければ、大注目されている新規の魔法薬店が開くのを待つということ。
「前日から並ぶ人がいるのはわからないでもないですけれど、さすがに早い気がします」
「ミントはお店に来なかったけれど、昼食に行く時にも並んでいる人がいたよ」
「えーっ!」
「早いにゃ」
「休憩室の方は常に満席だしね。どっちの廊下で待つかの違いだ」
「なるほど」
「ところで、片付けは終わった? 僕の荷物は魔法の袋に入る程度だ。共用部分の掃除を手伝おうか?」
「私とキティの部屋は終わりました。共用部分はポロンさんがしてくれています」
「小人だよね? こんなに広い家だと大変な気がする」
「やりがいがあっていいそうです。むしろ、これほど広い場所を掃除したことがないので、レベルアップができるかもしれないと張り切っていましたよ」
「レベルアップ?」
リオンは興味を持った。
「それって……単に掃除がうまくなるってだけだよね?」
「たくさん掃除や整理整頓をして経験値を積むと成長できるそうです。ポロンさんはお片付け小人からお掃除妖精になりたいそうですよ」
「そうなんだ?」
レベルアップ。
リオンには気になる言葉だった。
MMORPGではよく聞く言葉だったが、お片付け小人やお掃除妖精が登場した記憶はなかった。
「にゃ!」
キティが反応すると同時に、空中に魔法陣が現れた。
その中にいるのはジス、アーネスト、エアリスの三人。
「おかえりなさい!」
「ただいま」
「やはりリオンはこっちだったか」
「銀行に行ったがいなかった」
「あ、ごめん。終業時間と同時に走って帰った」
通勤時間がどの程度かかるのかを調べるため、リオンはすぐに銀行を出た。
「引っ越しの方は?」
「僕はこれからだけど、明日でもいい。休みを取ってある」
「私とキティは終わりました。共用部分はポロンさんがやると言いまして」
「気合が入っているね」
「私の荷物整理を頼みたかったのだが」
相当な荷物を持って来たエアリスは、ポロンに収納するのを手伝ってもらおうと思っていた。
「ミントに頼まれたものを渡していなかった」
小麦粉の袋、卵、野菜、肉、魚などヴィラージュで採れる食材。
「だが、食料はヴァルールでも手に入るだろう?」
「物価が高いので、ヴィラージュの食材を安く買いだめしておこうと思いました。いくらですか?」
「キッチンの食材は共用にする。私が出すから好きに使っていい」
「ありがとうございます!」
「私も頼まれたものを買ってきたよ」
ジスが取り出したのは炭酸水。
乾杯用の花汁水のために用意するはずが、ミントは買い忘れてしまった。
「すみません。うっかりしてしまって。いくらですか?」
「これもキッチンの食材だ。私が出すから気にしなくていい」
「ありがとうございます!」
「また来たにゃ」
ホールに魔法陣が浮かび上がった。
中にいるのはレイディンとセレスティーナ。
「兄上、引っ越しおめでとう!」
「おめでとうございます。引っ越し祝いにアイスクリームを持ってまいりましたわ!」
アーネストがヴァルールに住むことを、レイディンとセレスティーナは心から喜んでいた。
今後はアーネストに会いたい、相談したいなどとさまざまな理由をつけ、ヴァルールに行けると考えていた。
「夕食にどうかと思って、王宮料理を持ってきた」
「王宮料理ですか? 食べてみたいですーーーー!」
「お姫様料理にゃ!」
ミントとキティは大喜び。
「僕は久々に食べれるミントの料理の方がいい。兄上の焼いてくれたパオンやバタータでもいいけれど」
「私、バターとチーズもたっぷり持ってきましたのよ!」
バタータを代用にしたジャガバター、ジャガチーズ狙い。
「ちなみに夕食のメニューは何?」
レイディンは引っ越しの日の夜に全員で集まって夕食を取ろうとアーネストから誘われていた。
しかし、夕食のメニューについては知らなかった。
「今夜はそばパーティーです」
「そば?」
「そばですの?」
レイディンとセレスティーナは驚いた。
「旅人に聞いたことがあるのです。引っ越しの時に食べると縁起がいいとか」
「また旅人か」
「ミントは旅人由来の知識が豊富ですわ」
レイディンやセレスティーナは、ミントも自分と同じ転生者――前世が日本人という記憶を持っている者ではないかと疑っていた。
しかし、ミントは乙女ゲームに全く関係がない人物。
出会った旅人が隠れ転生者だった可能性もある。
ヴァルールには異国料理としてのカレーやおにぎりといった日本料理もあるため、ヴァルールに出入りしていた旅人だったのかもしれないと思ってもいた。
「すぐに乾杯用の花汁水を作ってきます! ダイニングルームの方に行っていてください」
「わかった。というか、僕が持って来た料理の置き場があるかな?」
「アイスクリームは食後に出せばいいですわよね?」
全員でダイニングルームに移動する。
そこにはいかにも金持ちが使いそうなダイニングセットが置かれていた。
「ゴージャスだなあ」
「お金をかけていますわね!」
「この家は家具付きの賃貸だ。個人部屋の家具は自分で用意しないとだが、共用部分の家具は必要最低限揃っている」
「部屋、余ってない? 僕も時々こっちに泊まりたいなあ。大好きな兄上と一緒にいたい」
レイディンはお願い攻撃を始めた。
「出ましたわね。でも、私も一部屋いただきたいですわ。ホテルは便利ですけれど、ヴァルールの物価は高くて。お小遣いは買い物の方につぎ込みたいのですわ」
宿泊費がかかるせいで、物価が高いヴァルール内での買い物をセレスティーナは楽しみにくいと感じていた。
ヴァルールでは魔法製品も多く扱っているため、今後はそういったものにお金をかけたいという思いもある。
「客間がいくつかある。好きに使えばいい。ベッドだけはあるが、それ以外は自分で揃えるように」
「やった!」
「感謝いたしますわ!」
「お姫様料理、まだにゃ?」
「そうだった!」
「そば山がありますわ……」
大きなダイニングテーブルの上にそばがまさに山を作っていた。
「これを崩して食べるということですの?」
「はしがある。トングもある。フォークもある。好きに取る感じではないか?」
「上の方は浮遊魔法がないと無理だな」
「下から取って行けば、いずれ崩れていきそうでもありますわね」
「スープに入れて食べるにゃ」
ミントと一緒に夕食の用意をしたキティがテーブルの上にある鍋を指差した。
「熱々にゃ」
つけそばということですわね。
そう思いながら鍋の蓋を開けたセレスティーナは驚愕した。
「こ、この香りは!」
「うわっ! すごい!」
王宮料理を魔法収納から取り出していたレイディンも驚いた。
醤油とだしの香りだーーーーーーーーー!!!
さすがミント、期待を裏切りませんわ!!!
「とても美味しそうだ。香草と一緒に食べたい」
「ネギ、お好みにゃ」
刻みネギは別に山盛り。各自お好みで追加できるようになっていた。
「はいはいはい! おまたせですーーーー!」
乾杯用の炭酸花汁水をミントが持ってきた。
「乾杯しよう」
それぞれがグラスを受け取った。
「ヴァルールに無事引っ越しができた。荷物整理はこれからだが、全員で集まって夕食を楽しめることを心から嬉しく思っている」
アーネストはヴィラージュで一緒に暮らしていた全員で集まれる場所が、ヴァルールにもできたことを喜んでいた。
「私は保護者としてリオンやキティの成長を見守りながら、輸送業を担うことによってヴィラージュを豊かにしたい。みんなもそれぞれのしたいことがあるはずだ。元気に頑張ってほしい。乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯ですわ!」
「乾杯です!」
「乾杯!」
「乾杯にゃ!」
「乾杯!」
「乾杯」
次々と乾杯の声とグラスが上がり、涼やかな音が響いた。
「乾杯のあとは、そばだーーーーーー!!!」
「そばですわーーーーーーーー!!!」
「つけ汁をスープボウルに入れますので、そこにネギという香草とそばを入れて食べます」
「オッケー!」
「わかりましたわ!」
次々とつけ汁を受け取った者はそばとネギを入れて食べる。
「美味しいーーーーー!!!」
「美味ですわーーーー!!!」
レイディンとセレスティーナは泣きそうなほどの郷愁を感じていた。
前世の記憶的に。
「美味しい」
「香りもいい」
アーネストとリオンもそばを堪能した。
「にゃ?」
キティは二人のエルフを見た。
「ネギ、入れすぎにゃ」
「お好みだろう?」
「エルフだからね」
エアリスとジスのスープボウルにはネギが山盛りだった。




