70 家族のぬくもり
ルイールのへの出張がどうだったのかを知りたいということで、リオンはジスから夕食に誘われた。
話を聞いたジスは微笑んでいたが、どこか困ったようでもあった。
「リオンに声をかけたのは街中での仕事をさせるためだ。魔物と戦うようなことについては想定外だよ」
リオンがパーティーに入りたがるのはリオン自身の選択と責任。
しかし、銀行員としての業務の中に顧客の魔法訓練や魔物討伐の予定があったことをジスは問題視した。
「銀行員は魔物の専門家でも討伐者でもない。危険な場所に同行させるのは問題だ」
「護衛担当の騎士がついていた」
「リオンは王女の訓練に同行した時は猫系魔物を探しに行った。王子と魔物狩りに行った時は連続戦闘をするために魔物を探しに行った。その時も護衛が付き添っていたのかな?」
どちらの時もリオン一人だった。
「……防御魔法も補助魔法ももらった」
「どの程度の効果かわからない。無敵になる効果があるわけではないんだよ? ヴァルールにある銀行は一つしかない。問題が起きるとかなりの影響がある。銀行員として客の訓練に同行したり魔物討伐に行ったりしてはいけない。いいね?」
「わかった」
「但し、個人活動であれば平気だ。勤務時間外や休日は問題ない。でも、リオン自身の命にかかわることだ。友人とはいってもエルフの王族だという部分も注意しないといけない。身分者への対応は結構難しい。子どもだから許されている部分があることを忘れないように」
「気をつける」
「もらった装備を見せてほしい。保証人として確認する」
リオンは爆弾弓や魔力の指輪をジスに見せ、その効果を説明した。
「魔力の指輪は魔石が大きくて質の高いものほどいい。これは最高級品だ」
「やっぱり。すごく高そうな品だとは思った」
ゲームにおいては、効果が高い指輪ほど大きな石がついていた。
「これほどの指輪を贈るとは、ライト・エルフの王子は相当リオンが気に入ったようだね? 爆弾弓もいい。魔力調整ができれば、状況に応じて使い分けができる。魔力があれば、矢を補充できる点もいい」
「それは思った」
矢が必要な弓は攻撃回数に限りがある。
魔力次第ということであれば、矢を多く用意しておく必要がない。
「この弓は私もほしいぐらいだ。でも、使用者指定の術式がある」
「本来はライト・エルフにしか与えない武器だと聞いた。でも、他の種族が使った場合のデータがない。それを今後の開発に活かしたいと言われた」
「なるほどね」
ジスは装備を返却した。
「装備自体は良いものだし、リオンが信頼されている証拠というのはわかる。でも、子どもに爆弾のような効果がある武器を渡すのはどうかな。リオンでなければ取り上げているよ」
少し……怒っている気がする。
リオンはジスから不機嫌さを感じた。
「リオンに必要なのは武器よりも防具だ」
食事が終わったあと、ジスはリオンを防具屋に連れていった。
「気になるものは?」
「重装備は堅いけれど、機動力がなくなる。僕の一番の優れている能力を邪魔する防具はいらない」
「魔法装備を見にいこう」
いくつかの店を回ったが、リオンやジスの目に留まるものは一つもなかった。
「リオンもなかなか目が肥えているようだ」
前世の知識があるせいで、いい装備に思えないというのがリオンの本音。
「私の持っている装備を貸すにしても、軽装備はほぼ魔導士用だ。力や俊敏性を上げるものでもない。難しい」
「無理して装備をする必要はないと思う。僕は銀行員だ。毎日魔物討伐に行く者とは違う」
リオンはそう言ったあと、ジスを見つめた。
「ところで、聞いていい?」
「何かな?」
「普通の服に見えるけれど、それって魔法服だよね?」
「そうだよ」
「防御力は高い?」
「かなり低い」
リオンは首をひねった。
「そうなんだ?」
「魔法服の長所は魔法効果がついていることだ。私の場合、防御力は魔法で上げればいいだけだからね」
「それもそうか」
リオンは頷いた。
「その衣装はお気に入り?」
行商人というよりも貴族のような衣装。
白い衣装のせいもあって清廉さがあり、高貴さや知的さも感じられる。
そして、リオンが記憶しているMMORPGでは見たことがない装備だった。
シナリオに登場する重要な人物はオリジナルの衣装や装備を身につけている。
ジフの衣装はそういったものではないかとリオンは感じていた。
「気になる?」
「気になる。なんとなくだけど、世界に一つしかなさそうだ」
「私だけの衣装ではある。素材もかなりこだわっているよ。だけど、デザインについては簡単に真似できるからね。とても評判が良くて、どこで仕立てたのか聞かれることもある」
「どこで仕立てたのか聞いてもいい?」
「普通の場所ではないということは教えてあげるよ」
そうだろうとリオンは思った。
「他種族の町かな? 僕もいつか行ってみたい。色々な場所へ」
「銀行員なのに?」
「浮遊船に乗れば、あちこち行ける。ルイールにもまた行きたい。普通に観光をしたり買い物をしたりするような時間がなかった」
「弓大会と魔物討伐のせいだ。まあ、結果的にはその方が有意義だったのかもしれないけれどね」
ジスは苦笑した。
「浮遊船で行けるのは一部の国だけだ。リオンなら他の種族の国や町にもいつか連れて行ってあげるよ。特別にね?」
ずるい。
特別だと言われると嬉しくなる。他の者よりも配慮され、大切にされているような気さえしてしまう。
ジスは商人。しかも、相当な富豪だと思えることからも、かなりのやり手。
優しく微笑んでいても、本心はわからない。打算的で冷たい性格を隠しているだけかもしれないと思い、リオンは警戒していた。
だというのに、保証人としてヴァルールで会うようになり、だんだんと信用するようになっている。
それがジスの狙いなのかもしれないと思っても、リオンはジスに対する好感度を上げずにはいられなかった。
本当に優しいのはアーネストだけど……。
リオンは唐突にアーネストのことを思い出した。
急激に押し寄せたのは寂しさ。
「リオン?」
ジスはリオンの異変に気づいた。
「……何でもない」
「配慮したつもりが、かえって気に障ってしまったかな? 私は装備にこだわっている。リオンに合いそうなものを考えるから待ってほしい」
「装備のことじゃない。ただ、気になった」
「何が気になったのかな?」
「アーネストが元気かどうか」
アーネストはヴィラージュに帰った。
そのことが今になって、とても大きなことだったのだとリオンは実感した。
「どうしてかな?」
ジスにはわからなかった。
「装備の話をしていて、なぜアーネストのことを? まだ、エアリスの方がわかる」
「前にとても軽い小手をエアリスに作ってもらった」
「小手があるのか」
「魔ウサギ捕獲大会というのがあって、アーネストの家に住んでいるメンバーで参加した。お揃いの小手を装備して、一緒に力を合わせて……優勝できなかったけれど、すごく楽しかったし充実感もあった」
「それはよかった」
「でも、今はもう思い出だ。みんな別々の家に住んで別々の仕事をしている。一つの家に住んでみんなで毎日食事をしたり、いろんな話をしたり、イベントに参加したり……もうできないって思うと寂しくなった」
「ホームシックかな?」
「アーネストやヴィラージュの家が気になるという意味なら、そうかもしれない」
「仕方がない。そういう気分になることもある」
ジスはリオンの手を掴んだ。
「転移するよ」
次の瞬間、景色が変わった。
ヴィラージュにあるアーネストの家の前。
「この時間だからいるよ。寝ているかもしれないけれどね?」
ドアをノックすると、少ししてからドアが開いた。
「リオン!」
アーネストは驚いた。
「ちょっとだけ会いたくて」
次の瞬間、リオンはアーネストに抱きしめられた。
「私も会いたかった。よく来てくれた!」
強くて優しい。家族のぬくもりだとリオンは感じた。
「ジスに感謝する。お茶を飲んでいかないか? 軽食なら用意できる」
「夕食は食べてきた。私は水でいいよ」
「リオンは?」
「お腹は空いていない。でも、アーネストがあぶったパオンがなんとなく食べたい」
「わかった」
アーネストが優しく笑う。
「肉も魚もある。挟むこともできる。卵料理はどうだ? 最近、練習してできるようになった」
「卵料理? どうするの?」
「作ってみせる」
「面白そうだね」
三人はキッチンに向かった。
知っているそのままの部屋。
リオンには懐かしくも嬉しくもあり、ひと気がないのが寂しくもあった。
「素晴らしいものを手に入れた!」
キッチンに行くと、アーネストはフライパンを手に取った。
「エアリス特製のフライパンだ!」
珍しい……アーネストがドヤ顔だ。
リオンは少しだけおかしな気分になった。
「くっつきにくく、こげにくく、耐久度も抜群。それでいて洗いやすい」
どこかで聞いたことがあるような説明だとリオンは思った。
「アーネストの場合、洗い物は浄化魔法だよね?」
「まあ、とにかく見ていてくれ。耐火も鍛えてある」
アーネストは次々と卵を割ってフライパンの中に入れる。
そして、一気に焼いた。
「目玉焼きだ!」
「目玉焼きだね」
「目が三つある魔物のような料理ということかな?」
ジスがそう言うと、アーネストとリオンは笑いを堪えきれなくなった。
「いや、黄味と白味の部分が目のようだと言いたかっただけだ」
「なるほど」
「まあ、夜食というか、少しだけ試食してみてほしい」
アーネストはフォークで目玉焼きを三つに分けた。
「フォークがいる者は?」
「僕は必須だよ。魔力で浮かせるなんてできない」
リオンはフライパンの目玉焼きを直接フォークで一口分切り分けた。
洗いものを出さないために皿は出さない。
「美味しい。焼き加減も丁度いい」
「塩コショウをしていなかった」
「僕はこれでもいい。味覚も結構鋭いから」
アーネストがあぶったパオンを渡すと、リオンは半分に割いた部分に残った目玉焼きを入れた。
「サンドイッチにするのか」
「目玉焼きサンドにしようかなって」
「私も試してみたい」
アーネストはジスと自分の分のパオンをあぶった。
そして、二人共にリオンの真似をして、目玉焼きを挟んでかぶりつく。
「一緒に食べると美味しい」
「あぶったパオンに卵を挟むとは思わなかった」
リオンは首を傾げた。
「ヴァルールにも卵サンドイッチは売っているよ?」
「スクランブルエッグだ。目玉焼きではない」
「ああ、そうだね」
「シンプルだが、私は好きだ。ただ、人間としては塩コショウがほしくはある」
「それはお好みで追加すればいい。マヨネーズも合うと思う」
「そうする。ミントの作ったマヨネーズはとても美味しい。なくなったらヴァルールに行って補充しなければと思うほどだ」
「私もマヨネーズがほしい。味を確かめたい」
ジスがリクエストした。
「わかった」
リオン、アーネスト、ジスの三人は夜食を食べた。
そして、リオンがルイールに行ったこと、友人が増え、新しい装備が増えた話をした。
「友人が増えたのはいいが、魔物討伐はできるだけ行かないように」
「ほらね? アーネストも私と同じだよ」
「保護者と保証人の意見は尊重する。でも、爆弾弓の有用性を探ってみたい」
「今更かもしれないが、子どもに爆弾効果の弓を与えるのはどうかと思う」
「同感だよ。ライト・エルフはわかっていない」
「ライト・エルフの感覚には気をつけなくてはいけない。危険に対する認識が甘い」
ライト・エルフは生まれつき魔力が豊富で誰でも光魔法が使える。そのせいで防御魔法や回復魔法の能力が非常に高い。
危険な武器を開発しても、防御魔法の恩恵で危ないと感じるようなことが少ない。
大爆発が起きても軽傷。回復魔法ですぐに治るため、全く問題がないと判断する。
しかし、それはライト・エルフの感覚。他の種族には全く通用しないことをアーネストは説明した。
「ライト・エルフにとっては爆弾など痛くもかゆくもないだろう。危険でもない。だから、リオンにも平気で武器を渡した。わかるか?」
「強力な防御魔法が前提の考え方か」
リオンはもっと意識して考えようと思った。
「魔法の弓の開発を進めるにしても、弓を扱う者の育成が進んでいないのはどうかと思う」
「適当に放てばいいと思っているね」
「自然破壊をするなとうるさい割に、平気でこのようなものを作る」
「ライト・エルフらしいよ。まあ、他の種族も似たり寄ったりだけれどね」
次々と話題が上がる。
アーネストとジスはことごとく共感し合っていた。
二人は……仲が良い?
リオンは父親や兄と一緒に夜更かしをしているような気分を感じていた。




