07 第二王子レイディン
僕、第二王子レイディンは転生者だ。
ある日突然めまいがして倒れてしまった時、前世は日本という国で暮らしていた平凡なゲーマーだったことを思い出した。
大好きなのはRPGとシミュレーションと……まあ、やれそうなものはやってみた。
乙女ゲームもたしなみ程度にやった。
まさかその知識が役に立つ日が来ようとは思いもよらなかった。
前世の知識によると、僕はヒロインが攻略する対象の一人である第二王子。
このゲームについては詳しくやり込んでいない。それでも基本的な情報はわかる。
王道カップルはヒロインと王太子、つまりは僕の兄アーネスト狙いだ。
一度クリアすると悪役令嬢モードが追加され、悪役令嬢になって好きな相手とカップリングを目指すことができるようになる。
その場合、ヒロインはライバルというか、ほぼ敵。
悪役令嬢モードをやり込むほど、ヒロインが酷い女性であることがわかっていく仕様。
重要なのは、第二王子モードはないということ。
つまり、僕から見てハッピーエンドになる保証はない。
ヒロインや悪役令嬢のセレスティーナがどんな行動をしてくるかを考えながらどうするかを決めなければならない。
そして、僕が転生者ということは、ヒロインやセレスティーナも転生者である可能性があるということ。
正直、どちらにも狙われたくなかった。
なぜなら、僕には王国最強の大魔導士になれると言われるほどの才能がある。
どう考えても生まれ持った魔法の才能を駆使して魔境攻略をした方が楽しい。
そのためには魔法剣を使える兄のアーネストを攻撃役に配置、氷魔法の使い手であるセレスティーナを防御役に配置、白魔法を使えるヒロインを補助として活用するのが良さそうだった。
でも、ここはあくまでも乙女ゲームの世界。魔境攻略に全力を尽くすパーティーを結成して突き進むゲームの世界じゃない。
となると、恋愛問題が発生して面倒そうな女性は捨てて、兄上を最優先キープ。
兄上を一人最前線で無双させつつ、僕が後衛になってサポート、時々ドッカンドッカン大魔法を撃つのがいいかもしれない。
兄弟無双……うん、悪くない。全然ありだ!
兄上は馬鹿がつくほど優しくてお人よし。絶対に裏切らないのも確定。
問題はないはずだった。
でも、兄上はやっぱりバカだった。
僕がなんとかしてセレスティーナから引き離そうとしても、幼馴染だから、魔力の扱いが雑だからとかなんとかいって面倒を見ていた。
優しい。でも、僕は困る。
セレスティーナが転生者で兄上に惚れて攻略しようと思ったら大変だ。
仕方なく二人の好意を僕の方に向けておこうと思った時はすでに遅し。
兄上とセレスティーナは普通に仲良くなって、父上と宰相の話し合いによって婚約してしまった。
ここはもうヒロインを突撃させて二人の仲を壊すしかない!
そして、都合の良いことに、ヒロインは兄上を狙いにいった。
よくやった、ヒロイン! それで大正解だ!
でも、兄上とヒロインがめでたくゴールインするのも困る。魔境に兄上を連れて行けない。
どうすればいいか一人黙々と悩む日々。
そんな僕を兄上は心配して優しく気遣ってくれた。
やっぱり馬鹿がつくほどお人よしだけど、そんな兄上が僕は好きだ。
一緒に魔境に行きたい。兄弟無双をしたいという想いは募るばかり。
いっそのこと、兄上に打ち明けようかと考えたこともある。
でも、無理だ。頭がおかしいと思われたくない。兄上にだけは!
結局、流されるままに日々が過ぎ去っていくようでいて、ただでは転ばないのが僕。
兄上を粘着するように調べ上げ、心に秘めた想いを知った。
どうやら兄上は王国の将来を憂い、魔境が広がるのを阻止するためにヴィラージュに行こうと考えている。
嬉しい! 大正解! 僕もそのつもりだった! 大まかにはね。
ただ、大問題がある。
国王の子どもは兄上と僕だけ。どちらかは王都に残らなければならない。
二人で一緒に行きたいと言っても父上は許可しない。兄上も僕が危険な目に合うことに反対する。
そこで、まずは兄上を先に魔境へ行かせることにした。
僕の方は王宮に巣食う者たちをなんとかしてから向かい、兄上と合流するプランだ。
実を言うと、僕の母上の正体は魔人で、人間として振る舞っている。
それで僕の魔力が多くて魔法の才能があるのかって……まあ、感謝しているけれど。
母上はこの国を自分の思うままにしたいらしい。
別にいいよ。好きにすれば?
但し、僕の邪魔をするなら許さない。
母上と協定を結べるかどうかを探り、問題なさそうであれば王宮というかこの国のことは母上に任せて僕は魔境へ行く。
兄上、待っていて! 最高最強の補給物資は僕だから!
控えめに言って、兄上は無自覚なチート能力者。
僕が行く前に魔境を完全攻略してしまわないかが気になって気になって……溢れ出る魔力で王宮を燃やしてしまいそうだ。