68 訓練同行
ルキアが魔物を倒す訓練に、リオンは同行することになった。
それは猫族のような耳と尻尾を持つ魔物を教えるため。
だが、都合よく見つかるわけもなく、別の魔物と遭遇。
ルキアと護衛騎士が魔物の相手をしている間に、補助魔法をもらったリオンは聴覚と嗅覚を活用して目当ての魔物を探しに行った。
「いた」
魔虎を発見。
リオンは慎重に付近を確認してから、わざと音を立てた。
魔虎が反応したのと同時に逃げる。
振り切ってしまわないように、つかず離れずの絶妙な距離感で魔虎を誘導したあと、護衛騎士の一人に盾役として引き取ってもらった。
あとは訓練の様子を見ているだけだとリオンは思ったが、
……弱い。
ルキアの攻撃魔法は驚くほど弱かった。
ひたすら護衛騎士が魔虎の注意を引き、ルキアが倒せるようにしている。
しかし、魔虎に攻撃するルキアの魔法が弱すぎて、時間が経っても魔虎を倒せる気配がなかった。
「王女の魔法は予想以上に弱い。これまで訓練していなかった?」
リオンは自分を守る役目を任されている護衛騎士に小声で聞いた。
「白魔導士だからだ。回復魔法などの訓練が優先だった」
白魔導士は回復や状態異常を治すような白魔法を得意とする者のこと。攻撃には向いていない能力者。
治癒関係の技能だけであれば優秀だが、王女だからこそ一通りできるようにということで、攻撃魔法も訓練しなければならないことが説明された。
「見ているだけで何もすることがない。猫系魔物は教えたし、先に帰ってもいい?」
「同行者だろう? 応援でもしたらどうだ?」
「大きな声を出したら魔物の注意を引いてしまう」
「だったら大人しくしていろ。耐えているのは盾役だけではない」
リオンは周囲を見回した。
確かに耐えている。全員が。
騎士たちはルキアの訓練に耐え、ルキアもやりたくない訓練に耐えていた。
「他の訓練にしたらどう? 魔物が強すぎるみたいだ」
「魔物を連れて来たのはお前だが?」
「あんなに王女の魔法が弱いとは思わなかった」
リオンはレイディンやセレスティーナとパーティーを組み、その実力を知っている。
ルキアはエルフで王女。かなりの魔法を使えるのだろうと思っていたが、全然違った。
元々光魔法の攻撃が弱いのもあるが、技能が低いせいで余計に弱いのだと思われた。
「魔法で攻撃されて驚いたけれど、あれって平手打ちぐらいの威力?」
「ライト・エルフは常時防御魔法がある。あの程度では全くダメージがない。あくまでも非常に怒っているということを相手に示すための行動だ」
しかし、その常識が通じるのはライト・エルフや自国のみ。
他の種族やヴァルールでは常識も法も違うため、魔法は使わないよう注意されていた。
しかし、いつものくせで使ってしまっただけということが説明された。
「早速勉強できた。うまく収めてくれて感謝している。あの件はもう忘れてほしい」
「魔物の方も忘れそうだ」
魔物はずっと護衛騎士を相手にしていたが、疲れたのか面倒になったのか、突然攻撃をやめて逃げようとした。
だが、そうはいかないとばかりに騎士が立ち塞がり、魔物を攻撃した。
魔物は新しい敵とみなし、攻撃を開始。
盾役交代。
ずっと耐えていた騎士は喜びの表情を隠さなかった。
そして、新しく盾役になったエルフの騎士は嫌そうな顔を隠さなかった。
「全然、倒せないわ!」
ルキアも限界だった。
「一生懸命攻撃しているのに!」
「もっとしっかりと魔法を撃たないといけません」
「訓練を重ねれば強いダメージを与えることができます」
MMORPGの設定では魔法に技能項目があったけれど。
技能が低いと魔法が強くならない。
普通は使用回数を増やすことで技能を上げていく。
しかし、それはゲームだからこその仕様。現実ともなると、嫌々撃っているだけでは技能を上げられないのではないかとリオンは感じた。
「ヴァルールの魔物は強い。ダラダラと弱い魔法を当てるのはよくない」
「わかる。だが、あくまでも練習だ」
「我々は強い。魔物を倒し過ぎるわけにはいかない」
見学中だった他の騎士も暇過ぎて会話に参加してきた。
「自然界のバランスを崩してしまう」
「ヴァルール周辺の魔物がいなくなると、魔法討伐者が困る」
「我々にとって魔物はただの練習相手だが、魔物討伐者にとっては生活を支える恵みだ」
エルフらしい考えや発言だとリオンは思った。
しかし、アーネストはヴァルールに入るため、周辺の魔物を数百匹倒した。
その影響でヴァルール周辺に魔物がいなくなってしまったと思う討伐者もいたが、より遠くまで探しに行けばいいだけの話。
数日間もすれば、別の場所にいた魔物が活動範囲を広げてやってくる。
結局はだんだんと元通りになってしまうほど、魔境には多くの魔物がいることをリオンは知っていた。
「魔法の的当てなら、魔物である必要はない気がする」
「普通の的に当てる練習は終えている」
「動く的当てもやった」
「魔物に当てる経験が必要だ」
「魔物相手の戦闘は緊張感があるだろう?」
「それはわかる。でも、今の状況は護衛も多いし安全だ。逆に魔物を甘く見ることにならない?」
騎士たちは答えなかった。
「これから魔虎に矢を射る。その矢に当てるように魔法を撃てる?」
リオンはルキアに話しかけた。
「矢に当てるの?」
ルキアは驚いた。
「そんなことをしたら、攻撃を邪魔してしまうわ!」
「それでいい。当てて邪魔してみて」
「簡単だわ! 動く的当ては散々やったもの!」
リオンは魔法の袋から弓と矢を取り出した。
「じゃあ、矢を射るから」
「いつでもいいわ!」
リオンは魔虎めがけて矢を放った。
命中。
興奮した魔虎の注意がリオンに向いた。
盾役が慌てて剣で攻撃、魔物の注意を引きつけた。
「魔法は?」
「は、速くて……タイミングを逃しちゃったわ!」
ルキアは魔物が自分のいる方を見たことに動揺していた。
自分の魔法よりもたった一本の矢の方がダメージを与えていそうだという事実にも。
「もう一回する」
「わかったわ!」
リオンは再び矢を放った。
ルキアもすぐに魔法を撃ったが、かすりもしなかった。
「どうして? ちゃんと的当ての練習をしたのに!」
「細くて速いからだ」
通常の的は練習専用の的だけに大きい。
だんだんと的を小さくする練習はしても、慣れてしまっているだけにそれほど難しくはない。対象物が小さいというだけ。
しかし、それを的ではないものにすると、途端に当てにくくなる。
単に形状の問題ではなく、飛んでいくタイミングも軌道も速度も違う。
瞬時に判断できなければ当てられないことをリオンは説明した。
「魔物に攻撃を当てるのは簡単だ。より難しい攻撃、矢や魔法に当てる練習をした方がいい。訓練場でもできるはずだ」
「帰ったらそうするわ。もっと矢を射って! 次こそは必ず当てるわ!」
「ヴァルールに来るなら、強い魔物を倒しに行った方がいい。白魔導士なら騎士たちを適切に援護する方法を学べる。余裕があるようなら、時々魔法を撃ってみれば?」
「そうするわ! 訓練内容を変更するわよ!」
「わかりました!」
「魔物を倒しに行きましょう!」
「その方がヴァルールらしい訓練だ!」
騎士たちもリオンの案に大賛成。
ルキアの弱い魔法を心の中で嘆いている者ばかりだった。
「狩場はどこがいいだろうか?」
「森を抜けて平地へ向かうといい。中型の魔物がいる。たぶん、そっちの方が緊張感もあるって経験になる。でも、ここより強い魔物だけに、騎士たちは油断してはいけない。防御魔法と補助魔法をしっかりとかけないとダメだ」
「わかった!」
「平地へ向かおう!」
森を警戒しながら抜けるのも緊張感があり、平地にいる中型の魔物を相手にするのも新鮮さがあった。
ルキアは見たことがない魔物に驚き、ほとんど何もできなかった。
しかし、騎士たちも回復魔法は使える。大ダメージを受けないように連携しながら対処する訓練ができて喜んだ。
「リオンがいてくれてよかったわ」
ヴァルールに戻ると、ルキアはリオンに感謝の言葉を伝えた。
「もっと礼儀作法や魔法や魔物の勉強をしないといけないみたい。ルイールに帰ったら、早速矢に魔法を当てる練習をするわ!」
「その方がいい」
「またヴァルールに来たら訓練に同行して! 栗のクッキーも頂戴!」
「ぜひ、頼みたい!」
「報酬を出すわ」
ルキア、護衛騎士たち、母親の王太子妃は大賛成。
しかし。
「正直に答える。訓練への同行も菓子の用意も断る。僕は訓練の手配人でもお菓子屋でもない。ヴァルールの銀行員だ」
リオンの言葉は、銀行との付き合いを強化する必要があるとライト・エルフ側に感じさせた。
翌日。
リオンは出勤すると、支店長に呼び出された。
「すごいぞ、リオン!」
ルイールの王太子妃が王女名義で大口の預金をした。
リオンを担当にしてほしいという強い要望があったこともわかった。
「今月の営業成績は間違いなくトップだ!」
「今月も、です」
「圧倒的にトップだというべきだったか」
「いつも圧倒的にトップです」
「正直に言う。本店に行ってもトップになれると思うぞ?」
リオンの仕事は順風満帆。
銀行員としての評価は上がるばかりだった。




