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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第七章

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67 ライト・エルフの顧客



 明後日。


 手土産のクッキーを持ち、リオンが向かったのは最高級ホテル。


 ライト・エルフの国ルイールの王太子妃と王女が来ており、有名な猫少年がいるということで呼ばれた。


 相手はヴァルールにとっても銀行にとっても最上級の客。


 無礼なことはできない。猫族やリオンを軽視する可能性もあるが、我慢するようにとリオンは言われていた。


「猫耳があるわ!」


 早速興味を示したのは金髪碧眼の王女ルキアだった。


「しっぽもあるわ! 触っていい?」

「ダメだ」


 リオンは答えた。


 猫族は耳やしっぽに触られたくない。


 リオンは当然の対応だったが、支配人と銀行の上司は驚いた。


 母親である王太子妃の表情が瞬時に優しそうなそれから冷たいそれに変化した。


「なんですって?」


 口調もきつい。


「触るぐらいいでしょう?」

「エルフは特別な耳を持つ。初めて会った者に耳を触っていいか聞かれたらどうする? 許すのか?」


 王太子妃はハッとした。


「ここはヴァルールだ。多種多様な種族がいる。ライト・エルフの王族であれば礼儀作法を重視すべきだ。王女が他種族を軽視する行動をすれば、それは国民にも伝わる。僕が王女のためにたった一回我慢したことがきっかけで、猫族の耳やしっぽを触ってもいいのだと誤解されたくない。触ってはいけないと教えるのが誠実だと思う」


 反論の言葉はない。


 それはリオンが正しい証拠だった。


 しかし、ルキアは違う。


「一回だけ! 少しだけならいいでしょう?」

「断る」


 ルキアはむっとした表情になった。


 無理やり触ろうとするが、リオンは素早く逃げた。


「逃げるなんて!」

「王女なのにわかっていない」

「やめなさい。耳を触られたら嫌でしょう? それと同じことのようです」

「別にいいわ」


 ルキアはそう言った。


「私の耳をちょっとだけ触らしてあげる。その代わりしっぽにちょっとだけ触ってもいいでしょう?」

「断る」

「どうしてよ!」

「嫌だから」


 リオンははっきり伝えた。


「王女の耳に触りたいとは思わない」

「無礼だわ!」

「無礼なのはどっちなのか考えるべきだ」


 リオンはルキアを真っすぐに見つめた。


「相手の嫌がる行為、特に体に触れる行為はよくない。犯罪者扱いになることもある。王女らしい慎重で賢明な行動を心掛けるべきだと思う」

「ありえないわ! 私を犯罪者と同じにするなんて!」


 ルキアは怒りのあまり魔法で攻撃した。


 だが、リオンの防御魔法が発動した。


「正当防衛ができるようになった」

「やめなさい! ここはヴァルールよ! 勝手に魔法を使ってはいけないと言ったでしょう!」

 

 しかも、相手を攻撃する魔法。


 防御魔法が発動したことがわかるのはその証拠。


 ホテルの支配人、銀行員という証人もいる状況。


 下手をすれば、ルキアは問題を起こす人物ということになり、ヴァルールに出入り禁止になる可能性があった。


「手が滑ったのよ。イライラしただけだわ」


 ルキアはそう言ったが、故意に決まっていた。


「警備に通報もできる」


 リオンの言葉に緊張感が走った。


「王女は子どもだ。仕方がない」


 さっさと許せば問題は解決。面倒にならないとリオンは冷静に判断した。


「魔力が溢れているなら、ヴァルールの外で魔物相手に発散すればいい。耳やしっぽがあるような魔物もいる。その魔物を倒して、耳やしっぽを触ればいい」

「名案だわ! そうしなさい!」

「えー、面倒だわ」


 ルキアは魔物と戦いたくなかった。


 今回は魔物と戦う訓練のため、しぶしぶヴァルールに来ただけとも言う。


「私は魔物ではなく、猫に触りたいの!」

「僕は猫じゃない。猫族だ」

「猫がつくじゃないの!」

「同じじゃない。人権がある」


 さすがのルキアも黙り込んだ。


「でも、猫族ではない猫もいる」


 リオンはそう言うと、魔法の袋から箱を取り出した。


 箱の中身は猫の形をしたクッキー。


「この猫なら触っても平気だ。味わうこともできる」

「可愛い!」


 ルキアは猫の形をしたクッキーに驚いた。


「お母様、見て!」


 箱を奪うようにしてルキアは母親のところに持って行った。


 普通は侍女などに受け取らせる。


 娘に呆れつつ、母親の王太子妃は箱の中身を確認した。


「そうね。とても可愛らしくて珍しいわ。香りもいいわね?」

「バター味、チョコレート味、香草味、栗味だ」

「栗!」

「栗味!」


 母親と娘は揃って目を輝かせた。


 だが、問題は一つしかないということ。


「お母様、魔物を倒す訓練をするから、私に栗味を頂戴!」

「訓練をするのは王女として当然の義務です。珍しいお菓子だけに、確かめるのが王太子妃の務めです」


 母親と娘はにらみ合った。


「それは王女のものだ」


 リオンがそう言うと、ルキアは顔を輝かせた。


「当然よ! 私が受け取ったものだもの!」

「奪うように持って来たではありませんか」

「もう一箱ある」


 リオンは全く同じ箱を取り出すと侍女に渡した。


 侍女はすぐに争いをおさめるべく、王太子妃に箱を届ける。


 中に入っていたのは全く同じもの。栗のクッキーも入っていた。


「良かったわ」


 栗味入りで。


「一人一箱だったのね」

「違う。本当は一箱だった。でも、特別な顧客だと聞いていたから、僕の分を融通することにした」


 つまり、特別な配慮。


 王太子妃は早速栗味のクッキーを手でつまんだ。


「特別な配慮については覚えておくわ」


 誰にも奪われないように、王太子妃はすぐにクッキーを食べた。


 栗の香りと味が瞬時に広がり、幸せな気分が訪れた。


「ああ、栗が……なんて美味しいの!」

「何枚でも食べれちゃう!」


 ルキアも同じ選択。


 栗味のクッキーと聞いて我慢することはできなかった。


 食べるしかないというのが当然の選択。


 香草よりも栗なのか……。


 栗はエルフに愛される食べ物のようだとリオンは思った。



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