64 イベントを探して
リオンはヴァルールでの生活にすぐに慣れた。
仕事にも慣れた。現在はアルバイトだけに、いくらでも自由が利く。
休みを入れて、魔物討伐者のパーティーに参加もしてみたが、よく知らない者と組むのは難しいことを知った。
無茶な行動をする者や、なぜヴァルールに出入りできるのかわからないレベルの低そうな者もいるが、ゲームのようにレベルやステータスなどを確認することができない。
魔物と遭遇したり戦闘になることで、ようやくイマイチな相手だとわかることがほとんど。
パーティーで強い発言権を持つのはパーティーを作ったリーダーで、強力な魔法を使う魔導士の発言権も強い。
リオンは魔法が使えないため、パーティーに誘われるのは人数調整や便利役としての需要。子どもであることや猫族であることなど、物珍しさなどによる理由もあった。
そのせいもあって軽視されやすく、扱いも悪い。まともなことを言っているつもりでも、生意気だの一言で済まされてしまう。
生活手段として魔物討伐をする必要がないことを考えると、安心かつ安定したパーティーに入って行動した方がいい。
無理してよくわからないパーティーに入るよりも、知り合いから良い条件の誘いが来るのを待つのが利口だった。
上級地区の待合施設で、お茶を飲んだり情報交換をしたり暇つぶしをしながら誘いを待っている優れた魔物討伐者の気持ちを、リオンは強く理解できるようになっていた。
この世界はゲームの設定と同じのようで、現実だからこその違いが多くある。強力な魔法を使えない者が気軽に魔物討伐へ行くのは危険だ……。
リオンは自分の命を大事にするためにも、慎重に行動しようと思った。
休日、リオンは早起きすると、散歩に出かけた。
ヴァルールの外への強い興味を、ヴァルールの中へ切り替えた。
朝市を見て食材の知識を増やし、朝食を食べて料理の味を確かめる。
魔物討伐者のために早くから開いている店の様子も調べまくる。
知れば知るほど前世の記憶にあるMMORPGと同じ。
さすがに全てのアイテムを知っているわけでも覚えているわけでもないが、ヴァルールの中で勉強できることには限界があるとリオンは思った。
「……僕も休憩室でお茶を飲んでいればいいのかな?」
その時、リオンは思いついた。
イベントを探せばいいのかもしれない。
ゲームでは特定の人物あるいは街中にいるさまざま人物に話しかけることでイベントが発生した。
壮大なメインシナリオに関係するようなこともあれば、ちょっとした手伝いのようなものもあった。
これまでもリオンはさまざまな人々と話しかけたが、あくまでも情報収集だと思ってただけに、話を聞いただけの状態だった。
僕はイベントを発生させているのかもしれない? でも、進めてはいないということだ。
リオンは素材屋へ向かった。
イベントには誰でも受けやすいものがあり、発生条件がゆるいものもある。
その一つが素材集めのイベント。
何かがほしいと言われ、それを持って来ればイベント終了。報酬がもらえたり、信用が上がったり、より難しい依頼をされることもある。
「最近、素材の方はどう? 不足しがちなものはない?」
リオンは素材屋の店員に尋ねた。
「魔ウサギの毛皮が足りないかもしれない」
魔ウサギ……。
ヴィラージュにはウヨウヨいる魔物。
消費されるのは猫族が大好きな肉の方で、毛皮の方はあまっていた。
しかし、ヴァルールの周辺には弱い魔物が少ない。
上位の魔物のエサになってしまうせいで、滅多に姿を見かけることがなかった。
「魔ウサギの肉もないのかな?」
「それは飲食店次第じゃないか? 店によって扱う食材も違う。ギルドに行けばわかるだろう」
リオンはギルドへ行くことにした。
ヴァルールにはさまざまな店だけでなく、ギルドと呼ばれる特別な集まりがある。
ヴァルールに集まる職人たちが所属しており、その職人たちが作った商品を販売している一方、商品を作るのに必要な素材を集めるための買い取りもしている。
魔物討伐者の多くは、素材を別々の売り手の所へ持って行って交渉するのが面倒なため、素材屋に持ち込んでまとめて売る。
素材屋は魔物討伐者から安く仕入れた素材を各ギルドやほしい者に販売して儲けている。
そのため、一種類の素材だけを売るなら、素材屋よりもギルドに売った方が高く買い取ってくれる場合もあった。
MMORPGでは。
「ほしいもの? 魔ウサギの毛皮だ。全然足りない」
「魔ウサギの肉がほしい。不足している」
革ギルドと食材ギルドに行くと、魔ウサギの毛皮と肉が不足していることがわかった。
リオンはミントのところへ向かった。
現在はお茶屋を正式に開業しておりが、休憩室の一角にあるカウンターにいる。
飲む方のお茶の注文カウンターの隣に持ち帰り販売コーナーを追加、その担当をしていた。
「魔ウサギの毛皮と肉、余っていない? 高く買い取る」
「ええー!」
ミントは困り顔。
「突然言われても。ヴィラージュにいる頃ならよかったのですが、こっちでは魔ウサギの肉が高いのです。ヴァルールの周辺には弱い魔物がほとんどいないので、魔物討伐者が遠い場所まで行かないと手に入らないらしいです」
とてもよくわかるとリオンは思った。
「小耳に挟んだのですが、魔ウサギの毛皮や肉を運ぶ輸送業者が強い魔物に襲われたらしいです。その影響で値段が高くなっているとか。同じルートを使っている輸送業者も危険が高くなったと言って困っていると聞きました」
絶対にイベントだ!
魔ウサギ関連の素材が不足、それを持って行くというイベント。そして、その原因である魔物を倒すというイベントがリオンの頭の中に浮かんだ。
まさかミントに話かけることで発生するとは思ってもみなかったというのがリオンの感想。
しかし、このチャンスを逃す手はなかった。
ゲームとは違い、ヴァルールには多くの魔物討伐者がいる。
リオンと同じように情報を入手した者が魔ウサギの皮や肉を入手したり、輸送を邪魔する魔物を倒せば、イベントは終了してしまう。
「レイディンとセレスティーナはヴァルールにいる?」
「セレスティーナ様はいますよ。今日はまだ来ていませんが、昨日はお茶を飲みに来てくれました。そのまま夕食も一緒に行きました」
「レイディン、いるにゃ」
キティが言った。
「クッキーの予約、レイディンだったにゃ」
セレスティーナはクッキーを買う予約を入れたが、自分ではなくレイディンの名前での予約だった。
それは受け取るのが自分ではなくレイディンにできるようにするため。
キティがそう言いたいのを、リオンは察した。
「いつ? 受け取り日を聞いている?」
「今日にゃ。でも、収納魔法あるにゃ。数日後でもいいって言われたにゃ」
レイディンに会えれば、今日中に解決しそうだ!
リオンはミントに二人に用件があることと休憩室に来たら足止めするように伝え、すぐにホテルへ向かった。
「おはようですわ」
セレスティーナはホテルの部屋にいた。
「先に確認したい。どうしてヴァルールに?」
セレスティーナとレイディンがいるということは、二人で一緒にきた証拠。
何か用事があるなら、セレスティーナに確認した方がいいとリオンは判断した。
絶対に朝から起きていることも踏まえて。
「王都から脱出して勉強するためですわ!」
非常にわかりやすい理由だった。
「レイディンも?」
「そうですわ。書類を再確認するまでの数日間は休養と称してこちらにいる予定ですわ」
大幸運だとリオンは思った。
「魔物討伐に興味は?」
「ありますわ!」
「先にレイディンと話してくる」
「一緒に行きますわ。叩き起こしてあげますわよ!」
二人はレイディンが宿泊している部屋に行き、叩き起こした。
「久々の休みだったのに……何?」
惰眠をむさぼっていたレイディンは目をこすりながらあくびした。
「イベントを手伝ってほしい」
「イベントだって?」
「イベントですの?」
リオンはハッとした。
……失言、かもしれない。
リオンにとってはイベント。ゲームプレイヤーにとってもイベント。
だが、そうではない者にとっては違う。
「ちょっとした用事のことだ。実力者の二人にとっては、催事に参加するような感じかもしれない」
「わかる。でも、内容がわからない」
「詳しく話してくれないとですわ」
隠れ転生者であるレイディンとセレスティーナは、イベントという言葉に内心では猛反応。
ドキドキワクワクしながら、それを悟られないように平静さを保っていた。
「素材屋に行ったら、魔ウサギの毛皮が不足していると聞いた。革ギルドや食材ギルドに行ったら、魔ウサギ関連の素材が不足で買い取り価格も値上がりしていた」
「わかった。ヴィラージュに行きたいんだよね?」
レイディンは素材集めイベントだと思った。
不足なものを持っていくイベント。報酬としてお金やお礼の品をもらえる。
RPGゲームにはありがちな内容だった。
「でも、なぜセレスティーナが一緒なのかな? 僕のところへ転移魔法を頼みに来ればいいだけだよね?」
「ミントが持っていそうだと思って、余剰分があるのか聞きにいった。魔ウサギ関連の素材が不足しているのは、輸送業者が強い魔物に襲われたせいらしい。同じルートを使う輸送業者も困っているという情報をくれた。だから、魔物を討伐すれば輸送業者が喜ぶ。物資の不足も解消に向かうと思う」
魔物討伐のイベントだ!
レイディンは即座に理解した。
「輸送業者を助け、物資の不足を解消しようというわけですわね?」
セレスティーナは、リオンがお金儲けのためにヴィラージュへ行くというよりは、人々が物資不足や輸送妨害によって困っているのを助けたいのだと思った。
「まずはヴィラージュに行って、物資不足を少しでも解消するための素材を持ってこようと思う。アーネストに言えば、すぐにたくさんの毛皮と肉が手に入る。ギルドも喜ぶし、アーネストやヴィラージュの人々も王国貨幣が手に入って喜ぶ」
リオンはヴィラージュとヴァルールの取引の仲介をすることで、両者共に喜べる結果になると考えていた。
「そのあとに輸送業者のところへ行って詳しい話を聞く。魔物を討伐してほしいかどうかも確認するというのはどう?」
「大賛成!」
レイディンは即座に魔法収納を探った。
「すぐに着替えるよ!」
「手分けした方が良さそうですわ」
セレスティーナがそう言った。
「リオンとレイディンはヴィラージュへ。私はその間に輸送業者のところへ行って、魔ウサギ関連の素材が不足している理由が本当に魔物のせいか確認しておきますわ。もし、魔物を討伐してほしいということでしたら、私とリオンとレイディン様の連名で受けておきますわ」
「そうしよう!」
「わかった」
リオンとレイディンはヴィラージュへ、セレスティーナは困っていそうな輸送業者のところへ向かった。




