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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第七章

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63 腹黒第二王子と悪役令嬢



 王都でレイディンは王太子らしくしていた。


 召喚魔法でペンを呼び出し、複数に増やし、一斉に操って書類にサインをしていた。


「兄上の偉大さを感じずにはいられない……!」


 サインをするのは単調。面倒。


 母親が教えてくれた魔法や技能のおかげで書類が山になっていてもどんどん片付くのはある。


 しかし、認識魔法で見つけた問題への対処をしなければならない。


 間違ってサインをしてしまった書類にも訂正が必要。


 見直し作業が必要な書類もどんどん溜まっていくばかり。


 レイディンは王太子の責務がこれほど大変だとは思ってもみなかった。


「つらいよ、兄上……」


 そう言えば、いつも兄のアーネストが助けてくれた。


 だが、今はいない。ヴィラージュに行ってしまった。


 否。ヴァルールにいるという。


 ずるさ倍増。代わりたい。王太子になんかなりたくなかったという気持ちがレイディの中に膨れ上がった。


 ヒロインのせいだ! あの女がいなければ!


 優しい兄は王太子のままだった。セレスティーナが悪役令嬢の立ち位置になることもなければ、婚約破棄もなかった。


 学校を卒業してより重要な仕事を任されるようになり、ヴァルールの仕事もするようになる。レイディンは転移魔法の練習も兼ねて兄をヴァルールに送迎すればいい。


 重責を担う兄をしっかりと支えながら、時には休養も必要だと言って兄弟仲良くヴァルールで過ごせる。


 魔境中にいる魔物を兄弟で倒しまくり、溜まっていた魔力もストレスも発散してスッキリ。


 ポイント稼ぎをしながら美味しいを食べ、珍しいものやすごい装備品を探す。


 もしかすると特別なイベントが起き、大いなる謎を解き明かし、世界の命運を左右する壮大な物語が楽しめるかもしれない。


 レイディンの中にさまざまな妄想が浮かび上がった。


「そもそも、母上が国造りをするはずじゃ!」


 だが、母親は不在。


 父親の国王と一緒に視察に行ってしまった。


 人間らしく馬車でダラダラと地方を巡りながら、国を改善するという。


 追加の新婚旅行だと喜び、レイディンは留守番をするよう言われた。


「新婚旅行はもう行ったはずだ! 単に父上と二人であちこち行って、自分の好きな場所作りをしたいだけだ!」


 レイディンの怒りがペンに伝わり、魔力耐性が相当あるにもかかわらずひびが入った。


 それ以上壊れると、インクが漏れてしまう。


 レイディンは複製魔法を解くと、一本に戻し、ゴミ箱にペンを投げ捨てた。


「誰か、僕の代わりをしてよ……」


 優秀な者がほしい。


 取りあえず、レイディンは腐れ縁のセレスティーナを呼ぶことにした。


 ジスの代理としてヴァルールに行ったものの、一泊だけですぐに戻って来たあとは悔しさを募らせながら暇を持て余している。


 国家機密の書類を見せても安心。良い方法を考えてくれると思った。


「ヴァルールに行きますの?」


 公爵邸からセレスティーナが駆け付けた。


 その理由は勢いよくドアを開けたあとで発した言葉を聞けば明白だった。


「行きたいけれど行けない。僕は留守番だ。宰相が持ってくる書類をなんとかしないといけない」

「そうみたいですわね」


 書類の山をセレスティーナは確認した。


「手伝ってよ。見直しが必要な書類は一枚ずつ見ないといけない。王太子の婚約者として、兄上の手伝いをしていたよね?」

「嫌な方の呼び出しとか」


 確かにセレスティーナはアーネストの婚約者として執務の補佐をしていた。


「遠慮なく言わせていただきますけれど、見直しが必要な書類の量が多いですわ。魔法の才能はレイディン様の方が上なのかもしれませんけれど、執務の方はアーネスト様の方が上のようですわね?」

「父上のせいだ」


 書類に問題がないかどうかを確認するのは国王の仕事。


 国王が確認したものは内容を見ることなくサインだけすればいい。押印でもいい。


 だが、国王は不在。


 しっかりと確認する者がいなければ、不備の書類が多く混ざるのは当然の結果だった。


「となると、やはりここはアーネスト様と同じ方法を使うしかありませんわね」

「兄上と同じ方法?」

「伝授してほしければ、対価が必要ですわ!」

「わかった。ヴァルールに送迎する。一回分ね」

「それでいいですわ!」


 すぐに取引が成立した。


「数枚程度であれば仕方がありませんわ。ですが、ここまで多いのは宰相がしっかりと書類を確認していないからですわね。そこで宰相に全ての書類を再確認させ、サイン前の不備書類を可能な限り減らすのですわ」

「そうか! その手があった!」


 レイディンは気づいた。


 ずっとサインばかりで思考が書類をさばくことだけに向き、宰相の役割分担や責任追及を考えつけなかった。


「さすがセレスティーナだ! 優秀だね!」

「当然ですわ! これでも元王太子の婚約者ですのよ! 飾りではなく実力があってことですわ!」


 オーホッホッホッホッ……!


 悪役令嬢らしい高笑いが響き渡った。


「まずはサインの訂正を先にすべきですわね。そのまま持っていかれると大変ですわよ?」

「そうだね。訂正線は僕がまとめて書く。書類を分けて、問題がある書類にチェックを入れて」


 面倒な方を押し付けて来たとセレスティーナは思った。


 しかし。


「問題個所のチェックはいりませんわ。表紙を一枚つけて、問題があるために再確認が必要と書いておけばいいのですわ。そうすれば、問題場所がどこかを相手の方で探してチェックするはずですわ」

「表紙だけで済ませてしまうわけか!」

「アーネスト様は優しく宰相へ頼んでいましたけれど、レイディン様は容赦なく命令でいいと思いますわ。というか、そういう性格ですわよね?」

「まあね」

「再確認には時間がかかりますわ。数日間の猶予を与え、その間にレイディン様は休養。転移魔法でヴァルールに行けばいいのですわ!」


 宰相の父親は王宮に缶詰め。


 自分がヴァルールに出かけるにも丁度良いとセレスティーナは思った。


「完璧だ! でも、自分の父親なのに、セレスティーナは容赦ないね」

「父親なのに娘の勉強に理解を示さず、ヴァルールに行かせてくれないなんて酷いですわ。この程度の報復は余裕で許されましてよ。宰相という重職にありながら、職務怠慢という方がよほど罪深いですものね?」


 さすが悪役令嬢だとレイディンは思った。


「僕の両親も同じだ。王都で留守番をさせるために呼び戻すなんて! 王国最強の大魔導士になるためにも、魔法の練習をしたいのに!」

「魔法は何度も練習しないと技能が向上しませんものね。転移魔法という最高難易度の魔法であれば余計に」


 腹黒第二王子と悪役令嬢は頷き合った。


「王国最強の大魔導士になるためには修行が必要だ。宰相の職務怠慢を見逃すわけにもいかない。この二つを同時に解決するため、王都脱出作戦を決行する。ヴァルールへ行くためにも協力してくれるよね?」

「承知いたしましたわ」


 黒い笑みが二つ浮かんだ。


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