62 探求心と共に
夜。
アーネストが宿泊しているホテルで夕食会が開かれた。
参加者はアーネスト、セレスティーナ、ミント、キティ、リオン、ジス。
「まさかあれほど人気とは思いませんでした」
ミントは広い休憩室に女性客がたくさんいて、全員がお茶を何回も注文していることに驚いていた。
しかも、休憩室は空席待ちをしなければならないほど人気。
正直、なぜここまで人気なのかわからなかった。
「しかも、お茶が高いです」
びっくりするほどの価格設定。
一杯だけで、ものすごい料理が食べられそうだとミントは思った。
「最高級のお茶だからだよ」
ジスが答えた。
「薬師の資格を持つミントと嗅覚に優れたキティが厳選した茶葉と花を使っている。ヴァルールは魔境の中にあるだけに物資が限られているのもある。その中で最高級のお茶を最高に美味しい状態で味わえるのはとても贅沢なことだよ」
「なるほど」
「ヴァルールにいる人々は高給取りだ。お茶を提供するために雇った者の人件費も高くつく。それでも利益が出るのは、休憩室だからという事情も関係している」
通常は自分で店を構える必要がある。家を買うか、借りるか。
しかし、休憩室でお茶を提供するだけであれば、家賃がかからない。
「利益が高く感じられるかもしれないけれど、私が直接運ぶほどではない。特別な魔法の対価としてはあまりにも少ないよ」
転移魔法でジスが運ぶことに見合うほどの対価ではないということ。
「でも、私がヴァルールに移住して直接お茶を売ったら、ジスさんは儲からなくなるのでは?」
「間接的には入る。あの休憩室がある施設を所有しているのは私だからね」
ヴァルールにいる者で最も多いのは魔物討伐業の人々。
魔物討伐業の人々の多くは一人で出かけず、一緒に組むパーティー仲間を探している。
しかし、そういった人々が公共の場や道路に多くいると迷惑になってしまうため、待合施設と呼ばれる場所で待機や交渉を行っている。
ジスは会員制の待合施設を作り、そこへ出入りするための会員権を売っていた。
「待合施設はいくつもあって、それぞれに特色を出している。あの待合施設は上級地区にあるから、高級感と特別感を売りにしている」
会費が高い待合施設を利用しているのは、それだけの身分、財力、実力がある証拠。
自分を誇りたくてたまらない者が利用するため、金払いもいい。
もちろん、そういった顧客を満足させるためのサービスもあり、ミントのお茶を提供するのもその一環だった。
「ミントの特別なお茶は、あの施設でしか手に入らない。プレミア感がある」
「なるほどです!」
「あそこには銀行の支店と両替屋もある。いずれリオンが異動か転職してくれると嬉しいかな」
リオンの就職を世話した理由がわかった。
ジスが所有する施設のためだった。
「ヴァルールの貢献ポイントは、必要と思われる有能な者をスカウトすることでも入る。紹介者も紹介された者にもポイントが入るから得だ」
「私やリオンに声をかけたのはそのためなのでしょうか?」
「そうだよ。でも、行商の片手間ではある。専業にしている者もいるけれど、相手を厳選しないと余計なトラブルに巻き込まれてしまうからね。責任を取れと言われても困る」
「ヴァルールを作った人はとても頭がいいですわ。貢献度を示すポイント制度をうまくつかって、優秀な人々だけでヴァルールを維持できるようにしていますものね」
セレスティーナはヴァルールの統治方法にも興味があった。
「普通は魔境の中に都市なんか作りませんわ。作ったとしても維持できないと思ってしまうはずですもの」
「そうですよね。本当にすごいです。しかも、こんなに大きな都市です!」
「すごいにゃ」
セレスティーナ、ミント、キティは休憩室を利用することで、他の利用者からの会話からさまざまな情報を得ており、余計にヴァルールのすごさを感じていた。
「ヴァルールを統治しているのは魔人だという噂を聞いた」
リオンが言った。
「それは本当?」
「さあね。そう言われているのは確かだけれど」
「魔境には豊かな資源があるとしても、危険な場所に都市を作るなんて変わっていますわね」
「悪口を言う者がいるのは確かだ。魔境の富を独占するためだとかね」
「誰なのかはわかりませんが、すごい人ですよ! だって、こんなにたくさんの人々を受け入れています!」
ミントはそう思った。
「どのような者が統治しているのか興味がありますわ」
「怖い人にゃ?」
ジスは微笑んだ。
「大勢の人々がヴァルールを統治している者に会いたがる。魔人だと言われているなら尚更だ。でも、謎に包まれている。ヴァルールの統治関係者に聞けばわかるかもしれないね」
「ジスはヴァルールの統治者関係者ですの?」
「私はただの行商人だ。魔人について興味を持つのはいいけれど、目を向けるべきことは他にも多くあるよ」
ジスは微笑んだ。
「魔境も広大だけど、わかっているのはほんの一部でしかない。多くの人々の中に知りたいという気持ち、探求心がある。そして、探求するための実力がある者だけが、ヴァルールに集っていると思っている」
「私もヴァルールに住んで、さまざまなことを探求したいですわ!」
「僕も」
「私もです!」
「キティもにゃ!」
セレスティーナにも、リオンにも、ミントにも、キティにも、探求心が溢れていた。
「たくさんポイントを貯めると、ヴァルールの統治関係者にならなかいかと声がかかることもあるらしい。まさに選ばれし者だね」
「非常に興味がありますわ!」
「僕も興味がある。銀行や両替屋の仕事は簡単だ。ヴァルールで生活しながら、自分の才能を活かせそうなことを見つけたい」
「私はキティと一緒に勉強します。新しい食材調べや調理方法を探るためにも、全部のお店を順番に回って、多種多様な料理を食べたいです」
ミントはヴァルールにある多くの食材と料理にも興味津々だった。
「美味しいもの、食べたいにゃ」
お菓子も好きだが、美味しいものも食べたい。それがキティ。
「アーネストは? ここにどのぐらいいるつもり?」
「長居はしない。正直、ヴィラージュから思っていた以上に近かった。また来ようと思えばできる。キティ、リオン、ミント、そしてここにいたいと思っているセレスティーナやレイディンのことも気になる。何かあったら私に相談してほしい。力になりたい」
「父を説得してほしいですわ」
セレスティーナはそう思った。
「それは無理だ。もう婚約者でもない。余計なことに口を出すなと宰相に言われるだけだ」
「レイディン様に頼むしかないですわね」
「それはセレスティーナの勝手だが、迷惑はかけないでほしい。レイディンは王太子だ。重責を担っている。邪魔をしてはいけない」
「わかっておりますわ。でも、王家とヴァルールは王国貨幣の取引をしていますわ。魔物討伐についても、お役に立てると思いますのよ」
「それは国王夫妻や宰相の判断次第ではないか?」
「そうですわね」
「まだまだ時間は多くある。じっくりと考えながら、自分の人生を歩いていく。それでいいと思う」
「アーネスト様らしいです」
「そうですわね」
「にゃ」
「こうやってまた一緒に食事ができるのがとても嬉しい。ヴィラージュに一人で帰るのは寂しいが、皆の人生を応援している。幸せになれるよう心から祈ってもいる」
「もう一度乾杯したいですわ」
セレスティーナが提案した。
「賛成です!」
「にゃ!」
「名案だ」
「悪くないと思うよ」
「では、乾杯しよう」
それぞれが手にグラスを取った。
「皆の幸せと輝く未来に!」
「乾杯ですわ!」
「乾杯です!」
「乾杯」
「にゃ」
グラスが高く掲げられた。
ヴァルールに集った者たち。その目的は一人一人違う。
自分で選んだ道を歩いていくだけだった。
六章はここまで。




