61 休憩室偵察
ミントとキティはジスの転移魔法でヴァルールに行った。
そして、アーネストと話し合うことにした。
「アーネスト様には申し訳ないのですが、ヴァルールに移住してお店を出したいと思っています」
アーネストが次々と現状を改善する対策を打ち出したことで、ヴィラージュは変貌した。
ヴィラージュにずっと住みたいという気持ちがある。
その一方で、自分の責務を果たすために王都に戻ると決めたレイディンとセレスティーナ、ヴァルールで働いているリオンの選択に心が揺れた。
もっともっと多くの勉強をして、素晴らしい薬や料理を作り出したい。
それを叶えるために、ミントは決断したことを話した。
「そうか。わかった。正直に話してくれて嬉しい。ミントの人生だ。その選択を尊重する。心から応援したい」
「ありがとうございます! このままヴィラージュで過ごす選択でもありますが、私はまだ若いです。ヴィラージュでさまざまな素材と向き合いながら、多くの人々に喜ばれるものを提供するために頑張りたいです!」
「素晴らしい。高い目標を掲げて努力する者は多くいる。ミントであれば、きっと夢を叶えることができる。自分の信じる道を歩いてほしい」
「はい!」
アーネストとミントの話し合いはうまくいった。
しかし、キティについてはアーネストもミントも不安があった。
ミントが保証人になってキティをヴァルールに連れて行くこと、二人で力を合わせてお茶やお菓子を作って販売するのはいい。
しかし、ヴァルールには貢献度を示すポイント制度がある。
キティはポイントを稼ぎにくく、長期滞在ができるかわからなかった。
「リオンと同じようにまずは短期滞在で勉強と仕事に挑戦ということでどうだろうか?」
「わかったにゃ」
ポイントを稼げなければヴァルールから通告が来る。
キティについてはアーネストが保護者として迎えに来るが、ミントも店の状況を見て、ヴィラージュに戻るかどうかを検討するということになった。
こうして、ミントとキティはアーネストの支援の元、ヴァルールへの移住準備を進めることになった。
移住準備中のミントとキティはジスの転移魔法でヴァルールに来ていた。
この日はミントのお茶がお客にどう思われているかを確認するため、お茶を試験的に提供している休憩室の様子を見に行くことになった。
心細いのでジスに同行を頼んだが、とても忙しいと言って断られた。
その代わり、一度王都に戻ったセレスティーナがジスの代わりとして二人に同行してくれることになっていた。
「準備はよろしくて?」
「よいにゃ」
「ドキドキです」
前回のミントとキティはおのぼりさん状態だったが、今回はセレスティーナが宿泊するホテルでしっかりと服装を整えた。
セレスティーナの母親が用意した衣装だけに、二人は貴族のようなドレス姿。
キティは絵本に出て来るお姫様のようだと言って大喜びだったが、ミントは恥ずかしくてたまらなかった。
「私がこんな衣装を着るなんて……恐れ多いです」
「見た目は問題ありませんわ。でも、礼儀正しく。静かに。高貴な者らしく振る舞うこと。実力者が多いので問題を起こさないように。特にキティ」
「にゃ!」
キティはドキリとした。
「ヴァルールには子どもはとても少ないようですの。いるとしても、かなりの高身分者か裕福な者の家族、優秀な魔導士などに限定されてしまうようですわ。気をつけないとですわよ?」
「頑張るにゃ!」
「では、行きますわよ!」
三人はホテルを出発、休憩室がある待合施設へと向かった。
休憩室に到着した三人は予想外の事態に出くわした。
「まさかの空席待ち……」
ミントのお茶が大人気で、空席がなかった。
しかも、長居する者が多く、余計に席が空かない。
通路に置いてある待合席も埋まっており、座りきれない者は通路の壁沿いに並ぶしかなかった。
ジスさんに同行を断られたのって、こうなるからだったりして……。
ミントはそう思った。
「セレスティーナ様、申し訳ありません。これほどとは思っていなくて」
「構いませんわ」
セレスティーナにとっては、ヴァルールに行けることが重要だった。
「むしろ、チャンスですわ」
「チャンス、ですか?」
「どんな客が利用しているのか、待ってでも利用したい者はどの程度いるのか。服装、態度、種族、会話の内容、何でも情報収集になりますわ。私も氷菓事業をヴァルールでできないかと考えているので、無駄にはしませんことよ!」
さすが悪役令嬢、じゃなくてセレスティーナ様! 優秀です!
ミントは驚き、見習おうと思った。
キティも同じく。しかし、、
「つらいにゃ」
限界が早かった。
「本を出しましょうか?」
「出してにゃ」
退屈しのぎにキティ用の本を持って来ていた。
ミントは魔法の袋を取り出した。
「その袋、どうしましたの?」
価格は王国貨幣で一億。
セレスティーナは自分で買ったが、ミントに買えるほどの蓄えがあるとは思ってもいなかった。
「これは移住記念としていただきました」
「アーネスト様に?」
「ジスさんに」
なんですってーーーーーーー!!!
セレスティーナは驚愕した。
「もしかして、移住するとヴァルールからもらえますの?」
移住特典かもしれないとセレスティーナは思った。
「いいえ。違います。ジスさんが個人的にお店で買ってくれました」
なぜですの? まさか、ミントに特別な好意を……?
ここは乙女ゲームの世界と同じだと思っているセレスティーナだからこそ、恋愛要素があるのではないかと勘繰った。
「キティもほしいにゃ」
「この袋を活用して引っ越しをしたり、お店を出したりするように言われましたよね? 私も一生懸命頑張りますので、もう一つ買えるぐらい稼ぎましょう!」
「にゃ!」
引っ越しやお店のためでしたのね。だとしても、一億。貢がれている感が……いえ、これは初期投資ですわ!
セレスティーナは心の中であれこれ妄想したり納得したりした。
時間が過ぎていく。
結局、二時間ほど並んでも、空席がなくて廊下に並んだまま。
昼食に行く者が休憩室を出て行ったせいで少しだけは進み、三人はようやく待つための椅子に座れることができた。
しかし、このあとの状況は全くわからない。
整理券配布はしていないため、諦めて廊下の待ち列から離れてしまうと、午前中に並んだのが無駄になってしまう。
どうしようかと悩んでいると、銀行の仕事を終えたリオンがやって来た。
「やっぱり空席待ちか。人気があるから難しいと思った。昼食に行く?」
「迷っていました」
「時間をずらして昼食に行く者がいるかもしれませんわ。そのあと一気に空くかもしれないですし」
「中を見て来る」
リオンはそう言うと、休憩室の方へ入っていった。
顔見知りが結構いることを確認する。
「失礼。これから昼食に行く。一緒に行く気がある者は廊下に来てほしい」
リオンは廊下に並んでいるミントたちのところへ戻った。
「多少は空くと思う。僕は仕事があるから昼食に行く」
休憩室から多くの女性たちがやって来た。
「リオン!」
「一緒に行くわ!」
「知り合い?」
「お友達かしら?」
「まさか、恋人?」
「……家族?」
ミント、セレスティーナ、キティに女性たちの視線が向けられた。
クールで知的で容姿端麗。猫耳がチャームポイントの猫少年。銀行と両替屋で働く優秀なリオンは、ヴァルールにいる女性たちにかなりの人気があった。
「僕の妹と同行者だ」
「妹にゃ」
本を読んでいたキティはパタンと本を閉じた。
素敵なドレスに合わせて、ちょっぴりお姫様のように振る舞おうと思いながら。
「しまうにゃ」
「あ、はい!」
ミントは魔法の袋を取り出して、キティの本をしまった。
王国貨幣で一億の袋であることを、そこにいる女性たちは瞬時に見抜いた。
お金持ちだわ!
服装からいって、高位の身分者?
リオンは驚くほど優秀だし、もしかして猫族の王子とか……。
女性たちの中にさまざまな妄想が広がった。
「行くにゃ」
たくさんの女性たちが出てきたため、席が空いたのは確実だった。
「では」
「助かりましたわ」
キティを先頭に、ミントとセレスティーナが休憩室へ入る。
「席数の関係があるから速い者勝ちだ」
リオンは休憩室から出て来た女性たちに顔を向けた。
「走る。ついてきて」
ビュン!
リオンが走り出す。
女性たちは次々と魔法をかけたり、魔道具をつかったり、身体能力を頼りに走り出した。
全力でついて行きます!
絶対に負けないわ!
とにかく速く!
推し猫と一緒に昼食を取る機会に恵まれた女性たちは、席取り合戦に全力で挑んだ。




