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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第六章

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59 正直者



 アーネストはレイディンとセレスティーナと別れると、リオンが働く銀行へ向かった。


 リオンはアーネストが来たことに驚いた。


「どうやってここに?」

「馬のようなものに乗って来た」

「馬のようなものって何?」

「魔物だ」

「……魔物で来れるんだ?」

「加速魔法をかけた。浮遊魔法も使った。ヴィラージュは魔境の一部だ。魔法を駆使すれば、それほど遠くはない」

「そうなのか」


 リオンが知っているのはMMORPGの感覚。


 実際に歩いたり馬に乗って来たりしたわけでもない。ジスの転移魔法で来た。


 そのせいもあって、アーネストの説明に納得することにした。


「アーネストはここのこと、知ってたんだ?」

「ヴァルールは王国貨幣をほしがり、王国貨幣の発行国と取引をしている。各王家の国王や王太子は知っているが、ヴァルールのことは可能な限り秘密だ。国によっては王子や王女であっても知らない」

「そうなのか」

「仕事を邪魔したくない。昼食を一緒に食べながら話そう。おすすめの店を教えてほしい」

「わかった」


 午前中の仕事が終わると、リオンはジスに教えてもらったおにぎり屋にアーネストを連れて行った。


「ここ、美味しい」


 リオンは肉おにぎり定食が気に入っていた。


「リオンは肉が好きだろう? 植物の割合が大きいが、いいのか?」

「ここは平気。パオンとパンは似たような味だ。米は味が違うのが気に入っている」

「なるほど」


 アーネストは魚おにぎり定食にした。


「……アーネストは魚が好き?」

「王都ではほぼ肉料理だ。魚は珍しい方の料理だ」

「そのせいか」

「レイディンとセレスティーナにも会った。私と同じホテルに宿泊していた」


 リオンはうつむいた。


「二人は力になってくれた。相談に乗ってくれている。怒らないでほしい」

「大丈夫だ。私は怒っていない。実力があるのは知っている。さまざまなことを勉強するのはいいが、安全とは言えない場所だ。両親が心配している。二人は王都に戻り、両親と話し合うことになった。戻るか戻らないかは話し合い次第だ」

「わかった」

「保証人のジスは常にここにいるわけではないとレイディンたちから聞いた。私はしばらくここに滞在する」

「えっ!」


 リオンは驚いた。


「ヴィラージュのことは?」

「領主が不在にするということは普通にある。国王に呼ばれれば、王都に行かなければならない。何かあった時は、私以外の者が対処できるようにするため、練習も兼ねて任せることにした」

「なるほど」

「ミントとキティのことはエアリスに頼んだ。大丈夫だ」

「エアリスがいれば安心だ」

「午後は両替屋の方だろう? 仕事は難しいのか?」

「任されていることは簡単だ。貨幣の仕組みは大体わかった。なぜ、銀行と両替屋があるのか、王国貨幣が公用通貨なのかとか」

「そうか」

「でも、疑問がある」


 リオンはアーネストだからこそ話したかった。


「ヴァルールについては守秘義務があると聞いた。どうしてジスが僕に仕事を紹介したのか気になっている」

「条件にあてはまったからだろう」


 アーネストは静かな口調で答えた。


「ヴァルールは常に魔物に囲まれている。優秀な者がいなければ、この場所を守り切れない。実力者がほしい。だから、勧誘する」

「僕のことを優秀だと思ったから?」

「そうだ。そして、ヴァルールに移住する可能性が高いと判断された。誘っても来ない者であれば、教える意味はない。ヴァルールに住みたい、出入りしたいと思いそうな者にだけ声をかける。そして、ほとんどの者が移住したくなると聞いている」

「そうなのか」


 リオンは少し安心した。


 ヴァルールに移住したいという気持ちが強まっている。


 それは自分と同じように誘われた者、ヴァルールの存在を知った者も同じであり、普通のことなのだと感じた。


「ミントも声をかけられている。料理の腕前かもしれないと思ったけれど、ヴァルールには多くの店がある。お茶や石鹸もたくさん売っている。なぜ、声をかけられたのか不思議だ」

「不思議ではない」


 アーネストは答えた。


「ミントは懸命に工夫して、新しいものを生み出そうとしている。独自性の開発者だ。ヴァルールは珍しいものが多くある。それを使った独自性のあるものを開発する人材も求めている」

「なるほど」


 独自の研究や開発をしたいミントにとっても、そういう人材にさまざまものを作ってほしいヴァルールにも益がある。


 両者の求めるものがうまく結びつくため、勧誘されたということをリオンは理解した。


「とても美味しい。夜も一緒にどこかで食べたい。別の店を教えてくれないか?」

「わかった」

「私が両替屋まで迎えに行く」

「勤務時間は三時間だ。ヴァルールに慣れるためにも街中を見たいし、残業はしてない」


 昼食が食べ終わると、アーネストはリオンの働く両替屋を教えてもらった。


「なかなか立派な店構えだ。繁盛してそうだな」

「この両替屋はとても繁盛している。王国貨幣の保有量が多いから利用者も多い」


 両替屋の利用者が最も望むのは王国貨幣への交換。


 王国貨幣を多く保有しており、いつでも安心して王国貨幣に交換できる両替屋を好む。


 最初は少しでも得をするように手数料が低い場所を選ぶが、ヴァルールに滞在する期間が長いほど所持金が増える者がほとんどで、微々たることは気にしない。


 わずかな手数料よりも手間と時間を惜しみ、便利で必ず交換できる店を選ぶということをリオンは説明した。


「もしよかったら、好きな貨幣に交換する。僕に渡せば無料でどんな貨幣にも交換する」

「無料でいいのか?」

「ここで働く者の特権だ。あまりにも多いと、代理交換だってわかる。手数料を下げてもいいから、固定客にするよう言われる。手数料をもらわない交換ばかりだと店が潰れるから僕も困る」

「そうだな」


 リオンと別れ、アーネストはヴァルールの街を歩いて回った。


 全てが同じではない。前とは様子が変わっている。


 新しくできたものには新鮮さを感じ、古くからあるものは懐かしく感じた。


 ヴァルールとヴィラージュとの差を感じるばかりだ……。


 発展度で言えば、ヴァルールの方が圧倒的に上。


 安全度で言えば、ヴィラージュの方が圧倒的に上。


 どちらも遠く離れた場所にいる人々から見れば魔境だが、魔境の手前と中では全然違うった。


 そして、これほど多くの多種多様な人々がヴァルールに集い、支え合い、魔物を倒している。その事実をアーネストはすごいと感じ、嬉しくも思った。


 しかし。


 多種多様な種族がいるからこそ、考え方も多種多様。


 ヴァルールにいる全員がヴァルールを守るためや魔物を倒すためにいるわけではない。


 実力を示したい者、貴重な経験をしたい者、金を稼ぎたい者、研究心や探求心に溢れた者もいる。


 結果として、ヴァルールに集っている。生計を立てる手段として支え合っている。魔境にいる魔物の数を減らしている。世界中に魔物の脅威が広がるのを防いでいる。


 よくできていると言えればいいが……。


 人々が魔物を倒すほど、安全で平和な世界に近づいているとは限らない。


 環境破壊が進み、自然界のバランスが崩れてしまった状態かもしれない。


 弱い魔物がいなくなることで強い魔物の距離が近づき、人々の困難や犠牲が増えるかもしれない。


 誰にも倒せない魔物と遭遇し、多くの命が無情に奪われていくだけの未来が訪れてしまう可能性もあった。


「それだけは……ダメだ」


 アーネストは深いため息をついた。


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