57 来場者
加速魔法で移動したアーネストは付近に誰もいないのを確認した。
召喚魔法を使い、一角獣を呼び出して乗る。
見た目は馬に近いが、魔人に選ばれただけあって妖しさ満点。
鋭く立派な角を見れば、どう見ても魔物だった。
「まあ、普通の馬ではいけない場所だからな」
アーネストは一角獣に加速魔法と防御魔法をかけた。
「ヴァルールへ行く。大丈夫だ。私が守る」
アーネストが語りかけるようにそう言うと、一角獣は瞬時に走り出した。
向かうのは森とは逆方向。
直線距離で目指すと魔物が多い地帯を通ることになる。
遠回り。それが一角獣の選択。
「とても賢い選択だ。優れている」
褒められたことを喜ぶように、一角獣の速度が増した。
アーネストの一人旅が始まった。
「よかった」
ヴァルール到着。
ヴィラージュは魔境の端だけに、王都から行くよりもヴァルールは近い距離にあった。
だが、問題がある。
夜だけに、城門が閉まっていた。
もちろん、開けてはもらえない。朝の開門まで待つ必要がある。
召喚した一角獣を戻し、アーネストは一人になった。
安全を確保するのは比較的簡単。
浮遊して高度を保てば、地上を離れられない魔物に襲われることはない。
ただ、城門を守る警備がいる。
話しかけることはできるが、浮遊魔法を使って中に入ろうとするのを警戒されていることもわかっている。
城門の上に乗ったり腰かけたりすれば、即座に不法侵入扱い。
捕縛されてヴァルールに入る手もなくはないが、今後のことを思うと避けたかった。
「仕方がない」
アーネストは魔法をしっかりかけ直すと、森の中を歩き出した。
月のおかげでやや明るい。魔法もあるので問題はない。
当然、魔物がいる。
遭遇は大歓迎中だった。
「探し回るのは大変だ」
一匹目を倒すと、魔法の風を起こしながら門の方へ歩き出す。
すぐに血の匂いを嗅いだ魔物が集まり、アーネストやすでに絶命した魔物を糧にしようとした。
しかし、アーネストは魔法が使える。
魔法で次々と安全に魔物を倒した。
そして、それを魔法収納にしまうことなく、次の魔物がくるためのエサにする。
その様子に気づいた警備が城壁から見て唖然とした。
「助けなくて……いいか」
「というか、門の近くで困る」
「確かに」
その声を聞いたアーネストはすぐに浮遊魔法で浮かび上がった。
「夜分、すまない。朝の開門を待っている。開けてほしいとは言わないし、朝になったら警備の方で状況を確認してほしくもある。討伐者ライセンスを発行してほしい」
魔物討伐者のライセンスがない者は、ヴァルールに入れない。
だが、門のそばで魔物を倒し、それを警備が確認すれば、ヴァルールの役に立っていることがわかる。
自分の力で倒したことも証明できるため、魔物討伐者としてライセンスを取得できることにアーネストは活用しようとした。
「わかる。だが、問題視されるぞ?」
「門の近くで魔物を倒すのは迷惑行為だ」
「魔物が集まりやすくなる」
「血の匂いが残るからな」
「朝になったら浄化魔法をする。今夜だけはライセンス発行のために見逃してほしい」
「浄化魔法は誰が使う? 募集するのか?」
「自分で使える」
「ならいいか」
「しっかりかけてくれ。迷惑行為として認定されると、ライセンス発行どころか出入り禁止だ」
「わかった。しっかりと浄化魔法をかける」
アーネストは戻ると、集まった魔物を適当に片付けた。
朝。
門の近くには多くの魔物の山ができていた。
一晩中たった一人でずっと。しかも、わざわざ血の匂いを風でばら撒くほどの豪胆さ。
警備は朝までアーネストが生き残るかどうかではなく、何百匹討伐するかを賭けていた。
すごい魔物討伐者がいるということがわかり、ヴァルールにいた魔物討伐者、警備関係者、素材業者が門の側に集まり、開門した途端、競うようにして外に出た。
「ぜひ、取引を!」
「倒し過ぎだろう!」
「数えるのが面倒くさい」
さまざまな声に、アーネストはすまないと謝り、こうしないとヴァルールに入れない、ライセンスがもらえないと思ったことを話した。
夜勤の警備から、アーネストが討伐者のライセンスがほしいことも、ヴァルールにとって有用な実力者であることも、浄化魔法をすることもわかっている。
魔法収納に倒した魔物を素早くしまい、浄化魔法で綺麗にしたのもあって、注意するだけになった。
「同じようなことを何度もされるのは困る」
「大丈夫だ。ライセンスがあれば、このようなことをまたする必要はない」
「そうだな」
アーネストは討伐者ライセンスを発行してもらい、多くの魔物を討伐したポイント、それを全てヴァルールの業者に売り渡したことでもポイントを稼いだ。
「魔物討伐を生業にしているのか?」
「いや。養い子がいたが、養われなくても生きていけるようここで働いている。真面目に仕事をしたり学んだりしているか見にきた」
「そうなのか」
「養い子?」
「優秀な子どもなのか?」
「優秀だ」
「魔物討伐業か?」
「いや、銀行で働いていると聞いた」
「銀行……」
「コネか?」
「普通に考えてコネだ」
「いや、猫だ」
とりあえず。
アーネストは何かあった時のための連絡先と住所を求められ、宿を確定させてから警備に連絡することになった。
向かったのは最高級ホテル。
高い宿泊料を支払えば、それでもヴァルールへの貢献ポイントが貯まる。
ヴァルールではとにかく貢献ポイントが多いほどいい。
役立っていると示すことができ、追い出されない。ヴァルール関係者の態度もよくなることをアーネストは知っていた。
「アーネスト様!」
ホテルの支配人が飛ぶようにして来た。
「突然、すまない。宿泊できないだろうか?」
「大歓迎です! 何日ぐらいご滞在でしょうか?」
「決めていない。できるだけ高い部屋にしてほしい。ポイントを貯めたい」
「かしこまりました」
「ああ、待ってほしい」
アーネストは討伐者ライセンスを取り出した。
「これにポイントをつけてほしい」
支配人は魔物討伐者のライセンスとアーネストを交互に見た。
「なるほど。こちらですか」
「いろいろと事情が変わった」
「存じております」
支配人はアーネストが王太子位を返上したことを知っていた。
「すぐに手配を。何かご用意するものがありましたら、遠慮なくお申し付けください」
「レイディンの部屋はあの部屋か?」
支配人は頷いた。
「はい。王太子殿下なので」
「セレスティーナは?」
「近くにあるお部屋です。高いお部屋の方がポイントを貯めれるとご説明すると、その方がいいと言われまして」
「宰相が仕送りしているのか?」
「いいえ。ご自身で払っています」
「ここだけの話だ。二人のポイントを教えてくれないか? 私は二人の保護者同然だ」
「そう言われると思いました」
支配人はこっそり二人のポイントを教えた。
短期間で多くのポイントを貯めている。
最高級ホテルの宿泊だけで貯まるわけがないほどに。
「……強盗団を討伐した褒美旅行だ。オプションも楽しみたいに決まっている」
「そうではないかと思いました」
支配人は察した。
アーネストの言う通りということでいい。触らぬ神に祟りなしだと。
「ああ!」
そして、気づいた。
「王立学校魔法大学部のご卒業おめでとうございます。何かお祝いをさせていただきたく」
「気にしなくていい。目立ちたくない」
「かしこまりました」
「二人を私の部屋に。朝食を一緒に食べたい」
「かしこまりました」
支配人は恭しく頭を下げた。




