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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第六章

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54 一人だけになって



 アーネストは領主としての仕事を終えて家に帰った。


 ヴィラージュでは一人暮らしができればと思っていた。


 しかし、すぐにキティを養い子にして、食料担当者のミント、二人目の養い子リオンという順番で同居者が増えた。


 そのあともエアリス、レイディンとセレスティーナが来て、大家族のようになった。


 それは偶然だったが、アーネストにとっては幸せな時間だった。


 しかし、永続するものではない。


 それぞれの人生がある。


 王都から来ていたレイディンとセレスティーナはまだ帰れないと言いつつ、一人暮らしを始めた。


 アーネストも一人暮らしができればと思っていただけに、ダメだとは言えない。


 エアリスは森林火災のあとに森の担当者から外れ、自分の家に戻って錬金術師としての仕事を開始した。


 整理整頓と掃除をする小人を知り合いに貸し出してもらったため、溜まっていた素材を使ってさまざまなものを作り、持ち物を整理している。


 ミントは薬師の仕事が増え、手伝っているキティとミントの家兼店の方にいる。


 ミントとキティは夕食までには戻るようにしているが、女子会をするといってミントの家兼店の方に泊っている。


 セレスティーナやレイディンが合流する日もあるため、安全だということだった。


 リオンは将来的に独立することを考え、他の都市へ行って短期間の勉強を兼ねた仕事をしている。


 レイディンの話によると、そのままその都市に住めそうなほど優秀さを認められ、しっかり稼いでいるということだった。


 喜ばなければいけない……。


 今夜も一人かと思いながら、アーネストはミントが用意しておいてくれた夕食を確認にしにキッチンへ向かった。


 すると、キッチンには一人のエルフがいた。


 銀髪。紫の瞳。


 誰なのか、アーネストにはすぐにわかった。


「初めまして、アーネスト」


 ジスはにっこりと微笑んだ。


「突然の訪問だけに驚くとは思った。でも、一緒に夕食をどうかと思って誘いに来た。話をしたい」

「……わかった」


 アーネストは驚きに固まりかけたが、なんとか答えた。


「会えて嬉しい。噂は聞いていた」

「どんな噂かな? あまり良い噂ではないと思うけれど」

「苦労していると聞いた」

「否定はしない。でも、楽な人生なんてないからね。魔物が多くいるような場所では特に」

「厳しいことが多くあるのは事実だ」


 アーネストは答えた。


「夕食に誘ってくれて嬉しい。だが、ミントが夕食を作ってくれた。ここで一緒に夕食を取るのはどうだろうか?」

「それでもいい。だけど、随分と質素だね?」


 ジスはキッチンで夕食の内容を確認していたが、用意されているのはサラダだけだった。


「今夜は女子会といって、女性たちで集まるらしい。新作のお茶を飲んで感想を言い合うということだった」

「知っている。私が頼んだ仕事だからね」

「やはり、知り合いの商人というはジスのことだったのか」


 ジスはフォレスト・エルフとの関係がうまくいっていない。


 そのせいか、ミントは知り合いの商人というだけで、ジスの名前を出していなかった。


「領主にしては質素過ぎる。ドレッシングに栄養が多く含まれているという感じでもなさそうだ」

「パオンと魚をつけたそうと思っていた。それでいいだろうか?」

「構わない」

「私はミントの料理が好きだが、エアリスはドレッシングがない方がいいということもある。サラダを半分ずつにして、試食するということではどうだろうか?」

「そうするよ。人間の食事にも領主の食事にもアーネストの食事にも興味がある」

「普通にあるものを食べている。珍しいのはミントのドレッシングだけだ」


 アーネストはそう言うと、キッチンのテーブルに浄化魔法をかけ、大きな皿を二枚用意した。


 魔法収納から魚を取り出し、浮かせたまま火魔法で一気に焼いた。


 残ったのは白身のみ。


「そうやって焼くのか」


 ジスは驚いた。


 なぜ、魚が炎で包まれた後、白身だけになるのかわからなかった。


「鍋やフライパンで焼くのが普通だが、洗い物が増えてしまう。焦げてしまうと、取れにくい。だったら空中で焼けばいい。焦げてもくっつかない。洗い物も減らせる」

「なるほど」


 空中で焼くのは利便性や効率を重視していることがわかった。


「焼き加減が難しいが、慣れると簡単だ」


 アーネストは二つの白身をそれぞれの皿に置いた。


 次はパオンの実を二つ取り出し、やはり同時に二つをあぶって焼く。


 テーブルには浄化魔法をかけてあるため、パオンは直置き。皿には載せない。


 あとはミントが作ったサラダを魚と同じ皿に分けて載せるだけ。


 アーネストはフォークを持ってくると、サラダを二つに分けた。


「これで完成だ。調味料はいるだろうか? 塩や胡椒もある。確か棚に」

「いらないよ」

「そうか」


 二人はフォークで魚を食べ始めた。


 共に無言。


 アーネストがパオンを食べると、ジスもパオンを食べる。


 アーネストがサラダを食べると、ジスもサラダを食べた。


「……全く同じように食べる必要はない。自由に食べればいい」

「礼儀作法ではないということか」

「関係ない。王都では魚をほとんど食べない。食べるとしても、フォークとナイフを使う」

「なるほど」


 静かな夕食が続いた。


 食べ終わると、アーネストが皿を片付けた。


 残ったものは火魔法で完全焼却。皿やフォーク、テーブルも浄化魔法と保護魔法で綺麗にした。


「お茶を入れた方がいいか?」

「アーネストはいつもどうするのかな?」

「自分だけの時は水を飲む」

「だったら水でいいよ」


 水が入ったカップが二つ。


 一応、客用のいいもの。


「人間の食事はどうだった?」


 アーネストが話しかけた。


「人間には凝った料理を好む者が多い。身分の高い者は余計にその傾向が強い。予想以上にシンプルだった」

「今夜は私一人だけだと思っていたのもあって、簡単に済ませようと思った」

「なるほど」


 ジスは頷いた。


「調理方法に驚いた。二つ同時に空中で火魔法を使ってあぶるのは初めてみた」


 普通は一つずつ。


「魚が肉だけになるのも驚いた。食べない部分は魔法で焼き切ってしまうのかな?」

「そうだ」

「相当な調整力がいる。私にはできない」

「裏技がある。肉だけに防御魔法をかけておくと、他を焼き切っても肉だけ残る」


 ジスは驚いた。


「そういうことか……」

「防御魔法の強度と火力を考えないといけない。火力が防御魔法を上回ると、肉も残らない」

「今度試してみる」

「防御魔法を解いてから食べないといけない。かじれない」

「勉強になるよ」


 ジスは微笑んだあと、アーネスト見つめた。


「アーネストは良い領主なのかもしれない。でも、ここに人間の住む場所を作るのは間違いだよ。魔境から出て行ってほしい。それを伝えに来た」


 アーネストはジスが来た理由を理解した。


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