52 この世界は
リオンとレイディンはヴァルールに到着。
身分証を提示して、門を抜けた。
そのまま討伐者のライセンスを発行しに向かい、素材屋に魔物を売り、わずかな報酬を受け取った。
「ここは普通の場所じゃない。魔境の中だ。ヴィラージュとは全然違う。もっともっと奥の場所だよ!」
やることが一段落つくと、レイディンはもう一度リオンを怒った。
「ごめん」
「僕には魔法がある。でも、リオンにはない。これはとても大きい差だ。そして、一人なのもよくない。魔物以外にも残虐非道な存在がいるってことを忘れてはダメだよ!」
「残虐非道な存在って何?」
「他の場所でいうところの犯罪者もいる。でも、ここでは犯罪にならない。なぜなら、無法地帯、弱肉強食だからだ」
ヴァルールの中には独自の法がある。
それを守ることが、ヴァルールに出入りしたり滞在したりするために必要になる。
ヴァルールの法を取り締まる警備もいる。
「ヴァルールの外には警備がいない。だから、法もない。誰かが死んでも、魔物に襲われただけということで終わり。わかる?」
「わかる」
「まあ、徐々に勉強していくしかないだろうけれど……先にヴァルールの中の方の勉強をすること!」
「わかった」
二人は話しながらリオンの住む集合住宅へ向かった。
「部屋は何番? 番号がわからないし、管理人も教えてくれないし、代わりにドアをノックしてもらってもいないようだと言われてね」
「ここ」
リオンは部屋の番号と場所をレイディンに教えた。
「わかった。セレスティーナにも教えておく。ところで、ちゃんと職場に行く気ある? 魔物討伐で稼ぐつもりじゃないよね?」
「アルバイトはする」
「だったらいい。時々、様子を見に来るから。夕食を一緒にどうかなと思って誘いに来たら、ヴァルールの外に出ているからびっくりした」
リオンは気まずそうに肩を落とした。
「言っておくけれど、身分証には魔法効果がある。ヴァルールの外にでていることはわかるからね?」
「そうなのか」
「門をくぐる時に自動的にチェックされる。だから、リオンの身分証がどの門を出入りしたかを調べることができる」
「なるほど」
だが、リオンは不思議だった。
「でも、レイディンがなぜ調べることができるのかわからない。ヴァルールの者でも保証人でもない」
「やっぱりまだまだだなあ」
レイディンはため息をついた。
「知り合いの子どもが迷子だって言えば、警備が門の出入りを調べてくれる。どこの地区にいるかはわかるから、そこを探せばいいってことになる。探すのは僕だけど」
そういうことかとリオンは思った。
子どもだからこその対応。
「ものすごく焦ったよ! 一人暮らしの初日で魔物に襲われて死んでしまったら、ジスも僕も困るよ! 兄上に何て言えばいいんだよ!」
「ごめん」
「まあ、リオンが予想以上に強くて驚いた。とはいえ、ヴァルールの周囲では弱い魔物だった。もっともっと強いのが多くいる、魔法だと近寄らなくても倒せるけれど、武器で倒す場合は近づかないといけない。危険だからやめてほしい。兄上が心配するというか、外に出て魔物と戦っていたなんて絶対に言えないよ!」
「ヴァルールに魔物が侵入することもある。その時は全員が戦闘する可能性があると聞いた。だから、魔物がどのぐらい強いのか知っておきたかった。足には自信があるし、強そうなら逃げるつもりだった」
「わかるよ。リオンは猫族として狩りをする種族だ。魔物と戦うことを学んでいるだろうし、興味もあるはずだよ。だけど、いきなり知らない場所に来たことを忘れてはいけない。安全第一だからね!」
「わかった」
「じゃあ、僕の住所も教えておくから」
レイディンは最高級ホテルに宿泊中。セレスティーナも同じだった。
「僕とセレスティーナは長期滞在用の特別な部屋だから、客を呼ぶことができる応接室がついているし、ゲストルームもある。だから、リオンが部屋に直接来ても、何らかの事情で泊っても平気。もし、集合住宅に問題があるようなら、僕のところに来ていいよ。贅沢をしたいだけという理由はダメだ。一人暮らしの経験を積めなくなるからね」
「わかった」
「それから最も重要なことを言う。僕やセレスティーナがヴァルールにいるのは秘密だよ。兄上に言ったら許さない」
「わかった」
「夕食はホテルのレストランにしよう。その服でもいいけれど、お洒落した方がいい。一緒に買いに行こう」
「さっき、ジスと買った」
「僕が買う。リオンの一人暮らしのお祝いをしないとだからね。護身用の装備はエアリス、魔法具はジスが贈るって聞いたから、何がいいのか困っていた。こっちで買うものがいいかなと思っていたから」
「うん」
「魔法靴にしよう。浮遊魔法をかけた時に空を走れるようになる」
「嬉しい」
レイディンとリオンはレストランの予約をしたあと、魔法具屋に行って、さらに魔法靴を買ってホテルに戻った。
レストランに行くと、イラっとした様子のセレスティーナが出入口にいた。
「なぜ、私を誘わないのかしら?」
「男同士で語らうために決まっているよ」
「別の日に変更ですわ。予約は四名に変更しましたわ」
「ジスも一緒?」
「一緒ですわ」
夕食はリオン、レイディン、セレスティーナ、ジスの四人で珍しい料理を食べた。
リオンは肉が好きだということで、ハンバーグがメイン料理だった。
「食べやすくて美味しいですわ!」
「肉を切るより簡単だからね」
「わざわざ肉を細かくするなんて、エルフは絶対にしない。面倒だからね」
あるある。わかる。エルフらしい。
頷く三人。
「私も何かお祝いをしようと思いましたのよ。ジスに聞いたら、リオンにも魔力があるらしいですわね?」
「少しだけだった」
「まだ子どもですし、きっと伸ばせますわ。私も幼い頃から魔力を含んだ果物を食べることによって魔力を育ててきましたのよ。今もできるだけ食べるようにしていますわ」
「僕も食べている」
レイディンも同じ。魔力を含んだ果物を食べ、魔力が多くなるよう成長をうながしてきた。
「リオンも果物を食べれるように贈ろうと思いますの。それでいいかしら?」
「嬉しい」
四人の夕食会が終わり、ジスに連れられてリオンは集合住宅の部屋に帰った。
「危ないことをしてはいけないよ」
ジスの口調は優しかった。
「自分から危険に近づくのは覚悟があるだけにそれほど怖くはない。冷静に対処しやすくもある。でも、予想外のことが起きると、途端に対応できなくなる恐れがあるからね」
「ごめん」
「外に出て次々と来る魔獣を倒してしまうなんて……リオンは強いというよりは臨機応変に対処できるようだ。とても賢いようだね?」
ジスは探るような視線をリオンに向けた。
「この世界にいる人々の中には、前世の記憶を持つ者もいると言われている。生まれた時から記憶を者もいれば、ある程度知能が高くなると、突然思い出すということもあるらしい」
ジスの口調はとても静かだった。
「ヴァルールに来た時、驚かなかったね? 冷静になるよう努めていたのかもしれない。でも……知っていたのかな? なんとなく、記憶にある風景だった?」
リオンはジスを真っすぐ見つめ返した。
「驚き過ぎて固まっていた。一瞬で移動ができる魔法があることにも驚いた」
「そうだったのか」
ジスは頷いた。
「勘違いだったようだ。でも、キティはどうかな? 幼いのにとても賢いらしいね? 前世の記憶があるせいなのかな?」
「知らない。でも、普通だと思う。僕も賢いから」
「ああ、そうだね。兄も妹も賢いのは素晴らしいことだ」
ジスは微笑んだ。
「家族がいて羨ましいよ」
「ジスは?」
「いないのと同じだね」
「エルフは長命種だ。家族と会えなくても、どこかで生きているかもしれない」
「死んだよ、たぶんね」
ジスは言った。
「魔物のせいだ。両親が住んでいた場所の方に、とても強い魔物がいたらしい」
「ごめん」
「気にしなくていい。リオンの両親も魔物と戦って死んだと聞いた。この世界は本当に厳しい。でも、大丈夫だ」
ジスは微笑んだ。
「私もリオンも自分の力で生きていける。実力をもっと伸ばせる。そのために、リオンをここに連れて来た。勉強するためにね」
「感謝している。仕事を頑張る」
「これからだよ。始まったばかりだ」
「わかっている」
「ゆっくり休むといい。明日からは仕事だ」
「そうする」
リオンは部屋に戻ると、窓を開けた。
大都市のヴァルールは夜も明るい。多くの魔法灯が輝いていた。
風が吹く。草原とは全く違う風が。
人々の声、さまざまな音、匂いが運ばれていく。
「ヴァルールに住めるなんて思わなかった」
しかし、いつか、そうなればいいとリオンは思っていた。
ここは……MMORPGの世界。
リオンは前世の知識を持つ転生者だった。




