50 一人暮らし
「一人暮らしをしようと思います」
「私も」
レイディンとセレスティーナが宣言した。
「ずっと考えていたのですが、経験してみたくて」
「王都では無理ですけれど、ヴィラージュでは可能ですわ!」
それはわかるとアーネストも思った。
アーネストも一人暮らしをしたくて、城ではなく普通の家に住んでいる。
「レイディンは問題ない気がする。だが、セレスティーナは女性だけに気になる」
「ミントも一人で暮らしていますわ」
ミントは特注品の制作で忙しく、店の方に行って泊まることが多くなっていた。
「アーネスト様はとても優しくて世話焼きだということは昔から知っておりますわ。でも、私も一人でさまざまなことをしていけるようになりたいので」
「そうか」
「ミントを見習いたいのですわ。私よりも弱いのに、一人で立派に生活しているどころか、旅をしていましたのよ? 驚くべきことですわ」
「だが、女性の一人暮らしは不安があるということで、ミントもこの家にも住んでいる」
「ヴィラージュの治安はとても良いと思いますわ!」
「そうですね。アーネスト様が領主になったことで、ヴィラージュはすごく変わりました」
最も変わったのは、人々の心。
種族を超えて理解し合うために歩み寄り、助け合えることがいかに素晴らしく大きな力になるかを実感させてくれた。
人々がアーネストに深く感謝していることをミントは熱く語った。
「私でも一人暮らしをできるぐらいだったので、セレスティーナ様であれば大丈夫だと思います」
「全てにおいてミントより優れている自信がありますわ」
話し合いの結果、レイディンとセレスティーナは領都内に家を買い、一人暮らしをすることになった。
それから一週間ほど経過。
今度はリオンが一人暮らしをすると言い出した。
「お金がもらえる仕事をしたい。別の町で仕事をしないかと言われた」
リオンはミントと取引をしている行商人から、貨幣を分ける仕事を受けていた。
かなりの種類の貨幣と量があったが、リオンは仕分けの仕事を簡単にこなしてしまった。
そのことを知ったエアリスも自分の持っている貨幣の仕分けを頼んだが、リオンはそれも仕分けてしまった。
優秀で才能がある。ならば、別の町の銀行や両替屋で同じ仕事をすればいい。やる気があるなら紹介すると行商人から言われたことをリオンは話した。
「猫族と人間は違う。子どもに見えても、狩りができれば大人だ」
人間は年齢によって大人か子どもかを判別するが、猫族は生きていく術を身につけることで一人前とみなされる。
「僕は狩りができる。猫族としては大人だ。でも、銀行や両替屋の仕事をすれば、狩りをしなくてもいい。安全にお金を稼げる」
アーネストは最後の最後まで悩んだが、リオンの一人暮らしと別の町で働くことを了承した。
「短期間だけだ。様子見だからな? 何かあったら必ず連絡してほしい」
「わかった」
「僕が時々様子を見にいきます。兄上は忙しいと思うので」
「そうですわね。私もリオンの住むところへ行きますわ。見聞を広めたいので」
レイディンとセレスティーナもリオンの一人暮らしに賛成。
領主業で忙しいアーネストに代わって、自分たちがサポートする気だった。
「ついでに、材料の受け取りと商品の配達とかを頼めませんか?」
ミントはジスとのやり取りについて、サポートを頼めないだろうかと思った。
「そう来たか」
「さすがミント、しっかり者ですわ!」
「寂しくなる。だが、仕方がない。一人一人、自分の人生がある。私はそれを尊重したい。心から応援している。だが、いつ戻ってきても大丈夫だ」
こうして、アーネストの家に集まった者たちは、それぞれの人生を歩き出した。
「魔法契約をしてはいけない」
ジスはリオンに注意した。
「世の中には相手を騙して隷属者にしようとする者もいる。魔法契約だと破棄しにくい。無理やり破棄すると、呪われてしまうからね」
「わかった」
「短期間だから、魔法契約の必要はないと言えばいい。私としては、ここを気に入って離れたくないという方が気になるけれどね。アーネストに知られたら、私のせいだと言われてしまう」
「その時は僕が話す。僕自身の選択だ」
「そうしてほしい」
リオンとジスはヴァルールに来ていた。
就職先はヴァルールにある銀行と両替屋。
まずは二つの場所で短時間のアルバイトをしながら、その違いを学ぶ。
銀行は客から金を預かり、必要に応じて引き出す金庫のような商売。客から集めた金で商人やギルドによる商業活動を支え、手数料で儲ける。
多くの金をやり取りするために、管理能力が必要になる。
両替屋は多種多様な貨幣を客が望む貨幣に交換する商売で、交換手数料で儲ける。
人々やヴァルールの状況、需要と供給を考える必要がある。
「ヴァルールで王国貨幣が多いのは、銀行が扱っている貨幣が王国貨幣だけだからだ」
ヴァルールにいる者全てが銀行を利用するため、銀行の業務負担はかなりのもの。
その負担を軽減する方法として、銀行で扱うのは王国貨幣の一種類だけになっていた。
「でも、店をやっている者の種族も出身国も違うからね。ほしい貨幣なら王国貨幣でなくてもいいという場合もある」
常に両替屋を通すと手数料を取られてしまう。
客と商人が直接ほしい商品と貨幣を交換して、手数料がかからないようにしている。
「トラブルになりやすいのはお釣りかな。王国貨幣で払ったけれど、別の貨幣でお釣りがくると損をすると考える者もいる」
そのお釣りを両替屋で王国貨幣にすると、手数料がかかる。手数料だけ損すると考える。
「でも、その貨幣を扱っている店で使えばいい。両替屋を通す必要はないから損をしない。両替屋は他の両替屋やヴァルールの状況をみながら、交換レートを臨機応変に切り替える必要がある」
「わかった」
「リオンは賢そうだ。お金について勉強しておけば、ヴァルールでは生活しやすくなると思うよ」
「そうかもしれない」
「私の紹介だし、この仕事をする間は面倒をみる。行商中でいないことも多いけれど、集合住宅の管理人に相談すればいい。大抵のことは解決するよ」
「わかった」
リオンが住むのは集合住宅。その一部屋を借りて住む。
通常は家賃を払うが、ジスが払うためにリオンは払う必要がない。
重合住宅には常時管理人がいるため、何かあれば相談できるになっていた。
「ほしいものはある? 私が買おう」
「自分で買う。貸し借りにしたくない」
「偉いね。でも、生活費がかかることを考えると、私の好意を活用したほうがいい。これでも羽振りがいい商人だからね。些細なことで貸し借りにはしない。キティは堂々とお近づきのしるしをほしがるぐらいだ。リオンもそれでいいよ。私だけはね」
「他の者は違う?」
「相手次第だ。何が得かを見極めるのは難しいものだよ。ミントのようにお買い得な物や人を探すしかない」
そうかもしれないとリオンは思った。
「では、魔道具屋に行こう。魔法を扱う者は収納魔法がある。でも、リオンは魔法を習っていないし、魔法を使えない。収納魔法の代わりになる魔道具があれば、多くの持ち物を携帯できて便利だ。一人暮らしの記念に贈るよ。成人祝いというべきかな?」
「魔道具は高い?」
「高い。でも、ヴァルールに出入りする者の年収も高い。私はリオンの将来性を見込んでいる。良い品を買おう。何度も買い直すのは面倒だからね」
二人は魔道具屋に向かった。




