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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第五章

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49 ヴァルール



 ミント、キティ、リオンの三人はジスの転移魔法で大都市ヴァルールに来ていた。


「す、すごいです……」


 四人がいるのはヴァルールを見渡すことができる高い塔の上にある庭園。


 ミントは初めて見る雄大な景色にキョロキョロとしまくりだった。


「こんなところがあるなんて……信じられません!」


 キティとリオンは無言だった。


 驚きに立ち尽くしていたとも言う。


「初めて見ました! もう、もう、もう、すごいです!」


 言葉にできない感動でミントは興奮しまくりだった。


「夢みたいなところですね! 想像を絶します!」


 興奮したミントは言葉が留まることを知らなかった。


「あっ、でも、私は人間ですし、しかも地方出身です。もしかして、王都とかもこんな場所なのかもしれませんね。いや、他の国とか、他の種族の国だったら標準なんでしょうか?」

「とても珍しい場所だとは思うよ」


 ジスが答えた。


「普通は同じ種族だけの国だからね。複数の種族が一緒に暮らしていること自体が珍しい。まったくないわけではないけれどね。ヴィラージュもその一つだ。理解し合えれば、一緒に住むことも近くに住むこともできる。でも、世界の中ではほんの一部だよ。大抵は同じ種族しか認めない。同じ種族で固まって生きる」

「ですよね……そんな気がします」

「取りあえず、ずっとここにいるわけにはいかない。普通は出入りできない場所だからね」

「えっ!」


 ミントは驚いた。


「そうなんですか?」

「多くの種族がいるせいで、トラブルが起きやすい。それをできるだけ防ぐために、出入りできる場所には厳しい制限がある」

「なるほど……」

「ヴァルールの全てを一日で見ることはできない。だから、まずはミントが店を出したらどうかと思う場所に行こう」

「わかりました!」

「転移する。近寄って」

 

 全員が近くに寄り、手をつなぎ合う。


 キティのことはミントが抱っこし、ジスがミントとリオンの肩に手を回す。


「絶対に動かないように。数秒だからね」


 転移魔法が発動した。





「ここだよ」


 立派な建物を見て、ミントはあんぐりと口を開けた。


「宮殿ですけれど?」

「見た目はそうかもしれない。でも、違う」


 ジスの案内でミント、キティ、リオンは宮殿のような建物の中に入った。


 白い柱が連なる廊下も、ピカピカの床も、素晴らしいとしか言いようがない。


 中庭もあるため、光がさんさんと中に差し込んでいた。


「このエリアは選ばれた者しか出入りできない。礼儀正しい者しかいないから安全だ。ミントが店を出すなら、安全な場所がいいと思ってね」

「そうですね。とても重要だと思います。でも、場違いな感じがします……」


 あまりにも豪華で贅沢な場所過ぎて。


 人がまったくいない。無人だということもついてもミントは気になった。


「この部屋だ」


 大扉を開けた先にある大広間。


 美しい装飾の椅子、テーブル、ソファが置いてあった。


「休憩室になっている。普段は女性たちがおしゃべりをしている部屋だ。でも、飲食物がない。お茶を提供したらどうかと思ってね」

「なるほど!」


 ミントが想像していたのは、一軒家の店。


 前世の知識でいうところのカフェや喫茶店だった。


 しかし、ジスが連れて来たのは世界遺産レベルの宮殿の中にある休憩室。


 そこでお茶が飲めるようにしたいことがわかった。


「お茶屋といっても、元からある休憩室を活用するだけだ。部屋代も家具もこのまま。準備するのはお茶と食器などの必要品だけかな」

「温かいお茶だけですか?」

「というと?」

「冷たいお茶も出せます。冷ますだけですけれど。花汁水とかでもいいですし」

「ああ、なるほど」


 ジスはわかったというように頷いた。


「温かいお茶のことしか考えていなかった。確かに冷たいお茶や花汁水も出そうと思えば出せるね」

「その場合は、カップではなくてグラスでもいいのではないかなと。お金がかかりますけれど」

「それはミント次第かな。種類が多い方が喜ばれるかもしれないけれど、用意するのが大変になる」

「そうですね」


 ミントは店を出すことについて前向きに考えていた。


「ただ、お客様がいるのかどうか……」

「それは試してみないとだね。今日は掃除のために誰も入れないことになっている。私たちのように特別な理由や関係者は入れるけれど、普通の客は入ることができない。いつもは女性たちがたくさんいるよ」

「そうなのですね」

「ヴァルールは実力者ほど上だ。当然、プライドが高いし、威張る者もいる。ミントの国でたとえるなら、王族や貴族になるような者たちがここを利用している」

「あー、そんな感じがします」

「お金もたくさん持っている。儲かるとは思う。ただ、王国貨幣で会計してもらわないと、ミントは困るだろうね」

「確かに……」

「でも、ヴァルールの公用通貨は王国貨幣だ。大丈夫だと思うよ」

「ありがたいです!」

「早めにお昼を食べに行こう。混雑する前に行った方がいい」

「はい!」


 四人は飲食店に行くことになった。


「すごいです!」


 ミントはびっくりしてばかりだった。


「こんなお店があるなんて!」


 せっかくということで、ミント、キティ、リオンが見たこともないような料理が出て来る店がいいとリクエストしていた。


 すると、ジスが連れて行ったのはおにぎり屋という場所だった。


「ミントの国は小麦が主食だからね。でも、米を主食にしている国もある。ここは米をお湯で煮てやわらかくしたものを固めている」


 ジスが説明した。


「一旦やわらかくしたものを、固めるなんて珍しいだろう? エルフ的にはありえないよ。面倒だからね」


 エルフあるあるですね!


 面倒なのか。


 やっぱりにゃ。


 ミント、リオン、キティは心の中で思った。


「でも、植物だから美味しいよ」


 フォレスト・エルフの主食は植物。


「植物が好きな種族がよく利用する店ではあるけれど、肉や魚のメニューもある。嗜好次第かな」


 ミントが注文したのは野菜おにぎり定食、リオンは肉おにぎり定食、キティは魚おにぎり定食。


 ジスが選んだのも魚おにぎり定食で、香草おにぎり定食ではなかった。


「どうかな?」

「ものすごく美味しいですーーーーーーー!!!」


 ミントは感激のあまり泣きそうだった。


「リオンは?」

「美味しい」

「キティは?」

「美味しいにゃ」

「良かった」


 ジスはにっこりと微笑んだ。


「ヴァルールには多くの種族がいる。そのせいで多くの食べ物もある。毎日、さまざまな料理を食べることができる」


 しかし、誰でもヴァルールに出入りできるわけではない。


 ヴァルールに出入りできるのは、ヴァルールの関係者だけ。


 最も多い職業は魔物討伐者。


 ヴァルールが魔物によって滅ぼされないよう魔物を倒している。


 次に多いのは、魔物討伐者を支えている商人。


 ヴァルールに店を構え、魔物討伐者たちの生活にかかわる仕事をしている。


 ミントがヴァルールに店を出せば、魔物討伐者を支える商人という立場になり、ヴァルールに出入りしたり、店を出すことで住んだりすることができる。


「ヴァルールの周囲には多くの魔物がいる。魔物と戦う者か、それを支える者でないと出入りできない。定住の条件も厳しい。だから、子どもはほとんどいない。いるとしても、討伐業か商売をしている者、あるいはその手伝いをしている者ばかりだ」

 

 ヴァルールは魔境の中にある。


 魔物がいないのはヴァルールのみ。


 最初はとても小さな場所だったが、人々の数が徐々に増え、今では大都市になった。


 強固で高い壁に囲まれた巨大な城塞都市だが、広く大きくなってしまったからこそ、守るのが大変でもある。


 最も困るのは過疎化。都市を拡大するのではなく、縮小化しなければならなくなる。


 だからこそ、そうならないよう多くの実力者や有用者にヴァルールへ来ないか、住まないかという勧誘が行われていることをジスは話した。


「ここは魔物討伐者が多いし、種族数も多い。治安は少し悪いけれど、警備隊がいて仲裁に入る。念のため、ミントは荒事が起きにくい場所で店を出した方がいい」

「飲食店街も人が多いですよね。荒事があるのでしょうか?」

「夜も魔法灯で明るいけれど、酒を出す店には近づかない方がいい。酔っている者がいるからね。でも、それはどこの都市でも一緒だ」

「そうですね」

「食事が終わったら市場に行ってスパイスを買おう。お菓子もある。前に渡したものが気に入ったのであれば、同じものを買えるよ」

「嬉しいです!」

「行きたいにゃ!」


 ミントとキティは目を輝かせた。


「リオンは希望を聞いていなかったね。何かほしいものはあるかな? 時間次第では、今度になってしまうけれど」

「武器がほしい。護身用の」


 リオンは冷静な口調で答えた。


「大事なものは時間をかけた方がいい。明日にしないかな? そうすれば、多くの店を見て回れる。気に入った武器を手に入れることができると思うよ」

「お金がない。安いのでいい」

「臨時の仕事をするのはどうかな?」


 ジスが尋ねた。


「私は様々な国の貨幣を持っている。行商人にはよくあることだ。でも、貨幣別に分けるのは大変でね。両替屋は手数料がすごい。半分ぐらいはなくなる」

「半分!」

「多いにゃ」


 ミントとキティは驚いた。


「エアリスに金属の素材として渡していたけれど、エアリスも持ち物を整理しているらしくて、いらないと言われてしまった。リオンが仕分けてくれると嬉しい。どうかな?」

「分ける種類が多そうだ」

「かなり多い。取りあえず大袋を一つ渡すから、それを全部分けてくれないかな? 王国貨幣で十万あげよう」

「十万も!」

「すごいにゃ」

「もっと続けたければ、袋を追加する。報酬も王国貨幣で十万追加だ。どうかな?」

「ジスが損しそうだ」


 リオンは冷静な口調で答えた。


「全部の貨幣を足しても、王国貨幣で十万以下かもしれない」

「そうだね。でも、エアリスにあげればゼロだ。分ける手間を考えれば、十万は普通だと思う。それほど混ざっている。かなり大変だよ」

「わかった。まずは一袋だけやってみる」

「よかった。私も魔法収納の整理はしないといけないからね。硬貨が整理できるのは嬉しい。リオンもお金を稼げるし、それでほしいものを買える。丁度良いね」

「得得ですね!」

「得得にゃ!」

「そうかもしれない」


 何かある。ジスには。


 リオンはそう思っていた。



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