45 すごい客再び
「では、店番をお願いします」
「わかったにゃ」
キティは前に読んでいた本を取ると、椅子の上に座って読み始めた。
その様子を見て、ミントは猫族の優秀さを思い知るしかない。
リオンに聞いたところ、キティはすでに読み書き計算ができるということだった。
猫族は若い者が狩りや採集に行き、年老いた者が子どもたちの面倒を見ながら知識を教える。
人間の知識水準と同じではないが、キティはかなり優秀な方だということがわかった。
「割り算もできるって、普通に優秀ですよね……」
「来たにゃ!」
「え?」
ドアが開いた。
「あ」
以前店に来たことのあるすごい客だった。
「できているだろうか?」
「あ、はい! 少しお待ちください!」
ミントは珍しい花や香草を使ったブレンド茶や石鹸の試作品を盛って来た。
「こちらです。それぞれ二種類ずつ作ってみました」
エルフは植物が好きだが、その匂いに慣れきっており、強い香りを好む者もいる。
そこでほのかな香りがするものと、強く香るものを作ってみたことをミントは説明した。
「いかがでしょうか?」
「ほのかな方がいい」
「そ、そうですか」
意外だとミントは思った。
「強い香りを好むエルフが多いのは確かだ。こちらはそのような者に渡す」
客はそう言うと、商品を魔法収納にしまった。
「今日もいろいろと持ってきた」
宙にいくつもの魔法陣が浮かび上がり、次々と巾着袋が出てくる。
「どこに何が入っているのか、見てみないとわからない」
「お手伝いしましょうか?」
「植物が入っている袋かどうかを見てほしい」
「わかりました!」
ミントは近くにあった巾着袋の紐を解くと、中身が何かを覗き込んだ。
「危ないにゃ」
キティが言った。
「ダメにゃ。遠くからにゃ」
「わかりました!」
人間は嗅覚が鈍く視覚に頼るため、近寄って確認しようとする。
毒性のあるものを大量に吸い込んでしまう危険があるため、できるだけ遠くから確認するよう教えられていたことをミントは思い出した。
「手袋にゃ」
「そうでした……」
ミントはポケットから手袋を取り出した。
「賢い子どもだね。名前は?」
「キティです。嗅覚が鋭いので、お手伝いをしてくれています」
「お菓子は好きかな?」
ピクリ。
キティの耳が動いた。
「いくつかあったはずだ」
またしても宙にいくつもの魔法陣が浮かび上がり、小さな巾着袋が次々とあらわれた。
「どこかにある。探してほしい」
キティはすぐに小袋の中身を確認し始めた。
「あったにゃ!」
すぐにチョコレートを発見した。
「他もあった気がする」
キティはまとめてくんくんすると、
「スパイスにゃ」
ピクリ。
ミントが反応した。
「どんなスパイスですか?」
「混ぜ混ぜにゃ」
「食材にも興味があるなら、交換してもいい。私は料理をしない。自分で作るのは面倒だからね」
エルフあるあるですね……。
ミントはそう思いながら、キティからスパイスの小袋を受け取った。
そして、
「こ、これは!」
絶対にアレの匂いだとミントは思った。
「気に入ったものがあったのかな?」
「これを少しだけでもゆずってください! すごく良い香りがします!」
「ああ、これか。市場で手に入れた」
「どこの市場ですか?」
「他の国だ」
さまざまなスパイスを売っている市場があり、それを単体あるいは複数混ぜたものを扱っている店があることがわかった。
「これは全部あげるよ。その代わり、また別の植物でお茶や石鹸を作ってほしい」
「わかりました!」
「ほのかな香りと強い香りのもの、その中間になるようなもので三種類。その方がほしがる者の嗜好に合いやすい気がする」
「はい!」
「他にもスパイスがあった気がする」
すごい客は小袋を覗き込むと、キティに渡した。
「このお菓子はキティに。人間の商人風に言うと、お近づきのしるしというものだ。仲良くなるための贈り物だよ」
キティは小袋を覗き込んだ。
「珍しいにゃ!」
「もしかして、商人なのでしょうか?」
「行商人だ。魔法を活用して移動しながら、さまざまな素材を売っている。珍しい品やほしいものと交換して、それをまた別の場所で交換することもある。注文品の取り寄せもしている」
「手広い感じの行商をされているのですね」
「ミントは植物よりも食材の方がいいのかな?」
「どっちも嬉しいです。でも、貴重なものを買うだけのお金がありません。交換できるような品もないといいますか」
「持ち込んだ植物のお茶や石鹸を作ってくれればいい。私はそれを別の場所で売る。王国貨幣で依頼することもできるし、代わりに珍しい食材を渡すこともできる」
「できれば食材の方が嬉しいです。他の国に買いに行くなんて無理ですし」
「わかった。ミントのために食材も仕入れるようにする」
「どんな商品を作ればいいとかありますか? 人気がありそうな品というか」
「私は種族を超えて商いをしている。嗜好は万別だけに、ミントの感性を活かした品がいい」
ミントはじっと見つめた。
「あの……間違っていたらすみません。もしかして、ジスさんですか?」
「私のことを知っているのか。誰から聞いたのかな?」
「セレスティーナ様です。優しそうなエルフに会ったという話を聞いて……エアリスも複雑な事情があると言っていました。私は旅をしてここへ来たので、世の中にはいろいろな人がいるのをわかっているつもりです。親切に受け入れてくれる人もいれば、冷たく拒絶する人もいました。私は受け入れる方でありたいと思っています。それを、伝えておきたくて」
ジスは微笑んだ。
「嬉しいよ。ヴィラージュは変わった。フォレスト・エルフとの交流もある。そのせいで、出入りしにくくなるかもしれないと懸念していた」
「前のヴィラージュは人間ばかりでした。でも、今はいろいろな種族の人が集まって、お互いを理解しようとしています。ジスさんだって大丈夫です」
「そうだといいけれどね」
ジスは静かに答えた。
「でも、魔境は多くの種族や魔物が生きる場所だ。フォレスト・エルフ、猫族、ウサギ族とはうまく話し合いができたのかもしれけれど、話し合いができない存在も多くいる」
「魔人ですか?」
ミントは尋ねた。
「魔物だよ」
「確かに話し合いは無理ですね」
「ミントは森へ行かないように。ほしい植物があれば私に言えばいい。持ってくる。そうすれば、森へ行かなくてもほしいものが手に入るだろう?」
「でも、ジスさんが危険では?」
「私は魔法が使える。身体能力も高い。魔物から逃げる術があるから大丈夫だ」
さまざまな植物が見つかり、ミントは特注品の依頼を受けた。
「また来る」
ジスはそう言うと、店を出ていった。
「優しい人ですね。頭も良さそうです」
ミントはそう思った。
「変にゃ」
キティはそう思った。
「エルフっぽくないにゃ」
「私が旅人から聞いた魔人っぽくもないです。お菓子もくれましたし、普通に良さそうな人でしたよね?」
キティは返事をしない。
ミントが見ると、小袋をニヤニヤしながら見つめていた。
「食べてもいいにゃ?」
「キティがもらったものです。好きにして大丈夫ですよ」
キティが中身を取り出した。
そ、それはーーーーーーーーーー!!!
せんべい。ミントから見ると。
「他の国に行ったり別の種族と取引をしている行商人だなんてすごいですよね! ぜひぜひ、お得意様になってほしいです!」
もしかしたら醤油とか、お米とか、味噌だって手に入るかも!
ミントの胸は高鳴る期待でいっぱいになった。
「うまにゃ」
バリバリとする音もまたせんべいらしい。
「キティ、私にも一枚くれませんか?」
キティはミントを見た。
「ほしいにゃ?」
「ほしいです。味見したいです」
「交渉にゃ。とってもいいものにゃ。パオン百万個分ぐらいにゃ」
猫族の商人がいます!
ミントは心の中で叫んだ。
「パオン百万個は無理です。用意できません」
「他のでいいにゃ」
「バタータ百万個も無理ですよ?」
「夕食にゃ。バタータの揚げ物が食べたいにゃ」
「わかりました! 夕食にバタータの揚げ物を作ります!」
交渉が成立した。
「美味しいものと美味しいもので交換にゃ」
「確かにそうですね」
ミントはせんべいをもらい、美味しく食べた。




