44 エルフの町でお買い物
ミント、リオン、キティは特別な計らいにより、フォレスト・エルフの町に来ていた。
「想像以上です!」
町の中にある商店街で、ミントは大興奮していた。
「まさかのまさか、これほど多くの商品に溢れているとは!」
「木と葉っぱばかりだ。花さえない」
「果物ないにゃ」
エルフの町にあるのは基本的に森の恵み。
つまり、植物が圧倒的に多い。
薬師であり調理人でもあるミントにとってはお宝ばかりだったが、リオンとキティにとっては別。
領都には出回っていない美味なものがないかと期待していただけに、期待外れだと思っていた。
「交換品には限りがありますからね……」
ミントはアーネストのおかげでヴィラージュにおける生活レベルが高い。
食生活については紛れもなく最高。
だが、森の恵みの全てを手に入れているわけでも知っているわけでもない。
人間にとっては貴重なものや人間が知らないものがエルフの町の店にあると聞き、今回はアーネスト専属の調理人ということで、勉強のために来る許可をもらった。
「どうしても欲しいものだけと言われましたが、欲しいものがありすぎて……頭の中がパニック状態です!」
「そう? 僕は別にいらない」
「いらないにゃ」
「二人にはそうかもしれないけれど……まあ、そう言ってもらえると、理性が戻る気がします」
「ミントには正直に言う。普通にしていないと軽視される。どれほど多くの交換品を持っていても、全部と一個としか交換してもらえなくなる」
「リオンが冷静過ぎて……見た目に関係なく、すでに大人ですよね」
「くんくんにゃ」
キティが鼻を動かした。
「あっち、臭いにゃ!」
「またあの果物があるとか?」
「美味しかったけれど、匂いを嗅ぎたくはない」
エルフに人気の果実だといってエアリスが持って帰って来た果実は、相当な臭さだった。
ミントたちにとっては腐っていると思えるような匂いだったが、それは熟して食べごろになっている証。見つけやすく食べごろもわかるため、丁度良いとエルフは思っている。
中身についてだけいえば、濃厚で甘いクリーム状のものが入っており、確かに人気があるのも頷けると思えるほど美味しかった。
「一応、行ってみましょう。別のものかもしれません」
ミントは知識欲が旺盛。買うかどうかはともかく、見たことがないものがないかと期待した。
三人が店の方へ行くと、やはり強烈なにおいを発していたのはあの果実だと判明した。
「見るだけで臭い気がする」
「臭いにゃ」
「私は大丈夫ですよ! 耐えられます!」
すでに鼻をつまんだミントが、自らを鼓舞するように言った。
「二人は離れていて大丈夫です。ちょっとお話するだけですので」
ミントは店に行くと、臭い果物について店のエルフがどのような説明をするかど確認しにいった。
「すみません。この果実ですけれど」
詳しい情報を聞いてもエルフは、他の者が取りに行ってしまうことを理由に、何も教えてくれなかった。
説明しなくてもわかる者にはわかる。美味い。ほしいなら交渉しろというだけ。
「すごく臭いのですけれど、ほしがる人は多いのですか?」
「多い。すぐに交渉しないと、売り切れるかもしれない。次の入荷もいつになるかわからない」
「私は見ての通り人間なのですが、今日は特別に町へ来て買い物をすることを許されています。どのようなものとであれば交換してもらえるのでしょうか?」
店のエルフはミントをじっくりと上から下まで見つめた。
「本来なら交渉はしない。だが、人間でここに来ることができたのは、それだけ特別な扱いをされているということだ。しぶしぶだが、交渉だけはしてもいい」
「取りあえず、パオンと交換であれば、何個ぐらいでしょうか?」
エルフの町は基本的に物々交換。
そして、最も食べられているのはパオンやバタータの実。
それと交換する場合、何個ぐらいかというのが交渉の目安としてわかりやすいだろうと、エアリスから教えられていた。
「百万個ぐらいだな」
「えーーーー! それだと一生食事に困らないような?」
「貴重さが違う。大きいと思うかもしれないが、食べられる部分は少ない」
「ああ」
見た目のサイズは大きい。だが、中に入っている種も大きく、その周囲についているクリーム状の可食部分は少ない。
それを考えれば、確かに価値が上がるとミントは思った。
「バタータとの交換だとどうでしょうか?」
「百万個だな」
「さすがに無理です。諦めて他のものを見せていただきますね」
ミントは店に並んでいるものをしげしげと見つめた。
「なんか……いろいろありますけれど、エルフの店はどこもこんな感じですね? 同じような商品が売っているというわけではなく、あるものはある、ないものはないみたいな」
いわゆる何でも屋。商品があれば出すが、なければ何も売っていない。
食料品も雑貨も家具も錬金術の品もある時はある。
そのせいで一つ一つ店を確認しないと、ほしいものがどの店にあるのかわからない状態だった。
「エルフは森の恵みを大切にしているからこそ、多種多様になる」
「わかるようなわからないような」
「人間の店がどのようなものかはアーネストに聞いた。一種類のものが多くある店が多い。食料だけ、家具だけといった感じで、分けて売っているのだろう?」
「そうです」
「よくない。なぜなら、扱う品を独占している。自分が必要な分以外も手に入れている証拠だ」
「まあ、そうですね」
「たくさん売りたい者は、見つけた恵みを全て取ろうとするのではないか? それだとあっという間に恵みがなくなる。恵みは一度取るとまたすぐには得られない。二度と手に入らないこともある。大量に手に入れても、売れなかったらどうする? 恵みが無駄になってしまう。必要な分だけ取るのが最も利口で無駄がない」
「エルフらしい考え方です」
森の恵みが豊富にあっても、それを取る者がどうするかで、より長い期間に渡って得られるかどうかが変わる。
一時的に多くを得ても、それが将来の安泰にはつながらない。
誰もがほしがり、必要分としてなくなるわけでもない。
資源の重要性を考慮したフォレスト・エルフの考え方に、ミントは好感を持った。
「ここにあるのは自分の分として取って来たもの、いらなくなったものということでしょうか?」
「そうなる。だが、全部ではない。他の者から預かり、代理で売っているものもある」
「フォレスト・エルフは貨幣を使いません。代理で売ると、お得なことがあるのでしょうか?」
「店によって違うが、非常にわかりやすくいうと、パオン一つをもらうかわりに、店に置くと言うような感じだ。それならパオンも売れる。もしくは、それを食事にできる」
「なるほど! 二個あるもののうち、一つの権利をもらうことができ、もう一つを代わりに売るような感じですね?」
手数料の代わりに、何かしらの品を渡すということ。
「そうだ。必ずしも品である必要はない。何かを手伝う約束をするのもありだ」
労力を対価にするということ。
「それが嫌なら、自分で店を出すしかない。だが、多くの店があると、全部を見て回るのが大変だろう? だからこそ、商店街がある。ここに来れば、売り物が多くある。それ以外は知らん。勝手に探せということだ」
「よくわかりました!」
ミントは頷いた。
「さすがです。きっとあなたは優秀なお店の方なのですね」
「当然だ。ずっと店をしている。経験豊富だ」
「そうですか。じゃあ、これ、何に使うんでしょうか?」
ミントは束になっている草を指差した。
「萎れています。保存のためなのか、品質が悪いせいなのかも見分けがつきません」
「それは誰も買わなくて萎れているだけだ」
「古い品なのですね」
「昨日からある。売れないと状態が悪くなっていくものもあるが、それは売るついでに乾燥させてもいる」
「干からびちゃっても平気なものということですね? 保存食でしょうか?」
「ほしいのか?」
「取りあえず見たことがないので……食べれますよね?」
「食べられるが、薬にするものだ。頭痛に効く」
「買います!」
薬師であるミントとしてはぜひともほしいものだった。
「何を持っている?」
ミントは籠を持っていたが、布をかけて中身が見えないようにしていた。
「良い匂いがする。食べ物か?」
「クッキーです。美味しいですよ」
「本当に美味しいのかわからない。味見したい」
「ダメです。無料ではあげません。交換するかしないかですよ!」
「仕方がない。あの草と交換する。いくつある?」
「これは萎れているので、クッキーなら一個ですね」
「一個? 一束だぞ?」
「クッキーには何種類もの材料を使っています。何種類も混ざった一個なのに、一種類の一個と交換したら損です。一束なのでいいかなと思いました」
「なるほど」
「嫌ならいいです。領都に行けばクッキーが手に入るかもしれません。でも、この萎れた植物と交換する人はまずいません。お金かちゃんとしたものがいいと言われると思いますよ。薬なら丸薬にしたものとか」
「面倒だ。クッキー一個と交換する。互いに珍しいものという意味では等価交換になるだろう」
「ありがとうございます!」
ミントはクッキー一個と薬草を交換した。
店のエルフはすぐにクッキーを食べた。
「美味しい」
「もっとほしければ、何かと交換です」
エルフの態度が変わった。つぎつぎと店の品を紹介して交換したがった。
「お買い物、楽しいです!」
ミントはクッキーとの交換でさまざまものを手に入れた。
「これも買ったのか」
「パオン百万個分もする果物が、クッキー十個ならお買い得かなと思って。エアリスも喜びます。口で息をしてください!」
臭くて美味しい果物も手に入れていた。




